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しおりを挟む「サブリナ!」
レイノルズがいつかサブリナに声を掛けに来るとは思ってはいたが、アステラが居なくなった事でやって来た。
サブリナは、そのレイノルズに分からない様に、アステラから先程貰った指輪を擦る。勇気を貰う為だ。
「…………あら、何方かと思ったら、レイノルズ殿下ではございませんか」
サブリナは嫌味の意味を含め、レイノルズが知る冷たい顔に変わる。【何故にわたくしに声を掛けるの?】と目が語る。
「っ!…………サブリナ………よくも俺を貶めたな!」
冷徹さと蔑む目線を贈るサブリナに、レイノルズは思い出したのだろう。蔑まれ慣れているレイノルズは、意気込んでみたもののたじろいでいく。
「何の事でしょう………わたくしはレイノルズ殿下から謝罪は頂いても、怒鳴られて非ぬ誹謗を頂く筋合いはございません」
【寧ろ感謝して頂きたいですわ。反省する機会をわたくしが作って差し上げたのですから】と、再び目で語ったサブリナ。その威圧感でレイノルズは押されている。しかし、レイノルズにも味方が居る訳で、レイノルズの隣に立つミューゼが前に出て来た。
「サブリナ様!謝るのは貴女じゃないの!レイノルズ様になんて仕打ちをするの!」
「…………クロレンス侯爵夫人」
「っ!」
この場にミューゼの事を知らない者の為に、サブリナは今のミューゼの立場、爵位で話し掛けた。
それには、ミューゼもたじろぐのは分かってサブリナは言っている。
この場で、レイノルズとミューゼの関係も暴露するつもりだ。醜聞を与えるのはサブリナは得意になったのだから。
「控えなさい。貴女はわたくしに指図出来る立場ではございませんでしょう?何故謝罪しなければなりませんの?わたくしは貴女からも謝罪頂きたいですわ………無礼ですものね。我が家、ユーザレスト公爵家はオルレアン国でも公爵、ファルメル国でもアステラ陛下より公爵位を頂きました。未亡人であられる貴女様はご実家も侯爵家、しかもお父上様は脱税容疑で投獄されておられる筈。そんな方が何故、わたくしの元夫である、オルレアン国の廃位決定のレイノルズ殿下とご一緒なのですか?まさか、まだお2人、続いてますの?如何わしい関係………」
「サブリナ!この場で言って良い事と悪い事があるぞ!ミューゼに謝れ!」
「ひ、酷いわ!サブリナ様!私はお父様と関係無いのに!」
うわぁぁ、と泣く振りをミューゼがするが、この女が本気で泣くとは、サブリナは思わない。
「謝られるのはわたくしの方かと………婚約中から不誠実なレイノルズ殿下に、結婚式以前からクロレンス侯爵夫人と浮気をされ、わたくし達の住む宮殿に連れ込まれ、住まわせていらっしゃいました。夫が亡くなった夫人を………そして、結婚式後にはわたくしに暴言を仰ってから、わたくしの部屋には夜お通いにはならなかった…………5年ですわ?5年………夫婦として成立しない関係を続ける意味ございませんし、わたくしレイノルズ殿下をとても嫌悪しておりましたので、わたくしから謝罪する等ありえません………ですが、1つだけレイノルズ殿下には感謝してますのよ?………わたくしを亡命する気持ちにさせてくれたのは、他でもないレイノルズ殿下とクロレンス侯爵夫人の貴方方。わたくし、とっ………ても!………その事に感謝しておりますのよ?何故なら、わたくしが心から尊敬し愛せるアステラ陛下と結婚出来るのですから」
「「……………」」
この場で断罪されるべき人間が、態々来てくれたのだ。外交の場で断罪出来るのは、良い機会だ。
「サブリナ」
「アステラ陛下…………わたくし、頑張りましたわ」
「うん、偉かったな」
サブリナを取り囲んでいた来賓達も、レイノルズとミューゼに対して引いていて、オルレアン国は如何なっているんだ、と見られるばかり。
「お、お前が!俺を敬う事をしないからだろ!」
「何処をです?敬える所、わたくし見当たりませんでした」
クスクスと失笑も起きているが、レイノルズに対してだ。
先程から怒鳴り散らす無礼な態度や言葉遣い。
その点、静かに淡々と嫌味を裏に篭めて感情を現さないサブリナの方が大人な対応だ。
「レイノルズ王太子」
「っ!」
アステラがレイノルズに近付いて行く。
するとハグするぐらいの距離で、アステラはレイノルズの肩に手を置いた。
「君は、外交も下手なのだな………今迄全てサブリナによって、出来ていた事が、この場で出来てはいない………王太子を廃位すると聞いているが、このまま貴族で居られると思っているのか?今…………オルレアンでは大変な騒ぎになっているぞ?」
「な、何が起きているんだ………」
「…………サブリナに感謝するんだな……今迄、君が国庫の横領をし、その未亡人に使い込んでいた事、サブリナは上手く隠してくれていた……自分の資産を増やした分から補填されてな………それを、今オルレアンで暴露されて大騒ぎだ………廃位どころではない。廃嫡………若しくは投獄?まぁ、君は逃さない様に、我々ファルメルの者達に送り届けよう。安全にね………」
「っ!」
レイノルズの肩をポンポン、と叩き、アステラは近くに控えていた衛兵達に合図を送る。
すると、レイノルズとミューゼは衛兵達に確保され退室させられた。
レイノルズはバレ無い様にしていた事が、サブリナにバレているとは思わずに、怒鳴り込んで来た威勢を失くし、肩を落として連れ去られて行った。
だが、ミューゼはぎゃあぎゃあと騒ぎ、この状況に納得はしてはおらず、退室された後も声が響いていた。
「皆様、申し訳ございません。犯罪者が紛れ込んでいた様です。もう、確保し沈着させましたのでご案心を」
まぁ、当然だ、という空気になった会場は、直ぐに祝福のムードに戻ったのだった。
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