拝啓、殿下♡私を追い出して頂いて感謝致します【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 サブリナはアステラにエスコートされ、会場へと入場した。
 会場が割れんばかりの拍手と共に、お揃いのコーディネートでお互いを支え合いながら、歩くサブリナとアステラに、来賓達はウットリと、微笑ましい目線を贈った。
 ただ、2人だけを覗いては。

「な、な、な、なっ…………」
「何でサブリナ様が居るの!」

 中央付近に居たレイノルズとミューゼに、気付かないサブリナやアステラでは無い。
 近くを歩き、玉座へと向かうその足で、サブリナはレイノルズをチラ見した。
 その瞬間、アステラの腕に通した手の力が加えられる。

「サブリナ、気にするなよ」
「…………はい」

 そっと、アステラにその手を添えられ、見つめ合うと、またもその姿を見た来賓達は、ほぉ、と甘い声で見守る。
 玉座に並び立つサブリナとアステラに、シャンパンを手渡されて、アステラはグラスを掲げた。

「本日は多忙の中よくお集まり下さった………先日、前王妃が長き間病魔と戦い、還らぬ人となり、意気消沈する私に寄り添い、支えになってくれた女性と、未来を共に生きたいと思える様になり、この度婚約をしました。勿論、今は喪中であり、不謹慎だとの声もある。だが、私には後継者が居らず、その為には妃が必要。よって早急に婚約をし、喪が明ければ婚姻を、という私の願いを、オルレアン国の公爵令嬢だったサブリナ嬢が受けてくれた。本日は彼女の紹介の場とし、婚約の発表とさせて頂く…………では、乾杯!」

 乾杯、と会場中に響く祝杯の掛け声。
 ファルメル国の喪中ムードから考えられないぐらいに明るい朗報だった。
 サブリナはアステラと見つめ合い、グラスを重ね、シャンパンを口に入れる。
 にこやかでアステラを見つめるサブリナを見たレイノルズは、ワナワナと怒りが込み上げていた。

「何だ!あの顔は!俺にはあんな顔をしなかった!」
「レイノルズ様?やだ………レイノルズ様、如何されたの?まさか、今更未練なんて無いわよね?」
「…………ミューゼ………あ、あぁ………すまない……俺にはミューゼが居る………サブリナが………アイツが今更あんな表情を見せたぐらいで揺らぐものか……」

 元々、レイノルズもサブリナの顔には文句等無かった。美しい令嬢だと思ったし、隣に侍らせて自慢出来ると思っていたのに、サブリナの性格がレイノルズに合わず嫌いになっただけ。
 レイノルズに心を閉ざしていたのだから、嫌いになるのは当然だったのに、レイノルズは心がざわ付いていた。

「サブリナ踊ろうか」
「人並みですが」
「俺も人並みだ………サブリナ、お手を………1曲踊って頂けますか?」

 主役の2人が踊らねば、来賓達も踊れない。
 再び、エスコートされたサブリナは玉座から下りると、アステラのリードで踊り始めた。

「…………?」
「人並みだな」
「ご冗談ですわよね………お上手ではないですか」
「そんな事はない………呼吸が合うのだろう……ほら、寝台でも………」
「っ!」
「よく………」
「ひ、卑猥です!」

 寝台での蜜夜では、よく同時に絶頂を迎えるので、その事をアステラは言ったのだ。
 その会話は離れた場所で2人のダンスを見つめる者達からは聞こえないが、甘い空気が漂っているのは伝わるので、ウットリと見られている。

「閨もダンスも一緒だ………2人で1つの作品になる」
「…………もぅ……アステラ様はいつもそんな事ばかり仰る………ところ構わず仰るから、わたくしが慣れないと………」
「愛しているからな、何処であろうとも言いたい」
「っ!」
「…………可愛い……」
「っ!…………あ、アステラ様………わ、分かりましたから………」

 耳元で囁かれると、身体が疼く。
 サブリナはアステラの胸に顔を埋めて、火照る顔を晒さない様にした。

「ちょっと言い過ぎたかな?………続きは後だ………」
「ちょっとどころでは、ありません!」

 曲が終わり、サブリナとアステラに拍手が贈られた。
 すると次々とダンスをする来賓達と、サブリナやアステラに踊りを申し込む者も出て来る。

「少し休憩がてら挨拶周りをしたいので、暫く後に願う………紹介したい人も居るんだ、サブリナ」
「はい」

 招待状を送った来賓には挨拶は必要で、そのままサブリナやアステラに集う来賓達と歓談を始めた。
 その離れた場所では、睨む様にサブリナを見つめるレイノルズとミューゼも居たのだが、まだ話には入っては来ない。
 恐らく、人が引くのを待っているのだろう。
 サブリナとアステラを囲む人だかりは引かず、レイノルズ達は声を掛けに入るタイミングが見つからない様だ。

「陛下」
「…………失礼」

 ガネーシャからアステラに声が掛かった。
 
「少し離れるよ、サブリナ」
「はい」

 人に囲まれているので、レイノルズもサブリナの方には来ないと思われた。サブリナもそう思っていたし、近くに衛兵も居て、暴力的な事にはならないだろう。

「わたくしなら大丈夫です。御用をお済ませ下さいませ」
「行ってくるよ」

 何の急用かは分からなかったが、ガネーシャが呼び止めるぐらいだから、重要なのだろう。
 だが、アステラが居なくなった所で、レイノルズがミューゼと共に、サブリナが居る輪に入ってくるのだった。
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