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しおりを挟むアステラが国葬の準備に忙しくなり、結局まだ気持ちを打ち明けられないまま2日が経った。
この日から1年は国中で喪に服す。
偽りだったのに王妃を立てていたアステラ。
聞けば王太子になる前から、妃が居る、と偽っていたらしい。
ファルメル国はアステラが王太子になる前から政権争いがあった様で、王太子候補が他に居た中で、推す王子達に自分の娘を嫁がせたくて、躍起になっていた次期があったらしい。
アステラは、そんな伴侶の実家に頼って迄、王太子になりたいとは思わず、実力でのし上がりたかった。そんな折りに思い付いた策が、偽りの妃。
それを知る僅かな側近を女装させ、結婚式を挙げたアステラはその後、妃は病弱で公務は難しい、と公表し、実力で王太子に上り詰めた。
兄も弟も居たアステラは、王太子になった時点で、誓約を兄弟姉妹に書かせた。
政権争い程醜い物はない。自分が立派な王になるので、兄弟姉妹は国政に携わる事を一切しない事を約束させた。もし、認められない事をアステラが行えば、アステラも生命を断つので、兄弟姉妹も生命との引き換えで。
それぞれ、ファルメル国の何処かにバラバラに住んでいる。それだけアステラの兄弟姉妹は仲が良くない。だからこそ、アステラは自分が家族を持ったら、大切にしたいと思っていたし、側室を持っても子供を作る事は気を付けていたのだという。
その為には、心底愛せる伴侶を見つける事を誓い、偽りの王妃を今迄生かしていたのだ。
それが、やっとお役目が終わる時が来た、とアステラは安堵していた。
「これで民達を騙すのは終いだな」
「陛下、お疲れ様でございました」
「…………あぁ……」
神殿で悲しそうな表情の民衆や国賓達にもう嘘を吐く事も無いだろう。
喪が明ければ、サブリナとの婚姻を発表し、結婚をすればいい。暫くはまたアステラに王妃を、と臣下から言われ続けるだろうが、サブリナの存在を臣下には周知していけば良いだけだ。
空の棺に花を手向け、アステラも意気消沈の芝居をしなければならない。だが、そんな事はお手の物だった。
「王妃との別れに参列して頂き、感謝申し上げる。長い闘病生活から開放された妃は、楽になっただろう」
挨拶を済ませ、参列者達は散り散りになる。そして、国葬は終わった。
「それにしても、よくバレませんでしたね」
ガネーシャが、アステラと棺の前で呟いた。
「当初はバレそうな時もあったがな」
「如何してたんです?」
「ヴェールを頭から被らせた小柄な部下を女装させて、寝台に待機させてたりな」
「なる程」
アステラが王太子になり兄弟姉妹を王城から追い出す迄は、大変だった様だ。
国王も病死し、アステラが即位した頃にも情勢不安になって、王妃の病弱を不安視されても隠し通せたのは凄い事だ。
「処分頼んだ」
「はい」
アステラの腹心の部下達で囲む空の棺。
「偽っていても、ご自分の為で此処迄されていたなんて」
「だが、それで良かった………本当に陛下が素晴らしい素質の王妃になられる方を見付けられたのだから」
「ガネーシャ殿は、もうお会いに?」
「えぇ、美しく聡明な方ですよ」
「安泰ですな、ファルメルも」
その後、その棺は民衆にも触れさせる事無く消えた。
♠♠♠♠♠
国葬を終わらせたアステラが王城に帰って来た。
黒の礼装姿のアステラは、何処か寂しそうだ。
「お疲れ様でございました」
「…………うん、サブリナ………寂しくなかったか?」
「寂しそうなお顔をされているのはアステラ様ですわ」
「俺が?」
「はい」
「…………そうかな………まぁ、そうだろうな……居ない王妃をさも居るかの様に、慈しむ振りをしていたから、俺の半身と言えば半身か」
何年も偽っていたのだから、寂しさはあるのだろう。
「だが、いつしか………サブリナを好きになってから、偽りの王妃がサブリナだと思う様に言っていたな」
「…………ま、まぁ………愛妻家だと噂もありましたが………それがわたくしだと?」
「おかしな話だろ。外交でファルメルに来たサブリナに、サブリナの印象を語ってた事もあったな」
サブリナは以前会ったアステラとの言葉の記憶を手繰り寄せた。
確かに自分と似ていそうだ、と思った事もある。
「アステラ様」
「如何した?」
「…………抱き着いても宜しいですか?」
「っ!…………え、遠慮する事はない……サブリナが良ければいつでもいい………あ、場所さえ、配慮してくれたら………」
「も、勿論ですわ、人前では抱き着きません」
「…………ん………おいで」
「…………」
礼装の上着は脱いではいたアステラ。
筋肉質の胸板がシャツ越しに伝わる様に、サブリナはアステラの背中にしがみつく様に自分の胸を押し当てつ抱き着いた。
「っ!…………サブリナ……嬉しい感触だが、そんなに押し付けると、俺は今夜我慢出来ないぞ?まだ身体は辛いんじゃないのか?」
「…………構いません……お慕いしているアステラ様をお慰めしたいので」
「っ!」
「あ、でもお仕事まだありますよね?」
「…………くっ………そ、そんな物は今日は放っておく!」
「…………あ、あるならわたくし、またお戻りになるのを待ちますわ」
「…………キスぐらい良いだろ?」
「は、はい」
サブリナは、やっとアステラに気持ちを伝える事が出来た。
そして、顔を上げ目を閉じると、アステラに顎を支えられ優しいキスを贈られる。
「愛してる………ずっと………これからも」
「アステラ様………わたくしも愛し続けます」
気持ちを通じ合わせ、深いキスにはなってはくるが、結局アステラはガネーシャに呼び出され、仕方なく其処で一旦終わった。
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