拝啓、殿下♡私を追い出して頂いて感謝致します【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
20 / 38

19

しおりを挟む

 オルレアン国からアステラに手紙が到着した。
 オルレアン国王からである。

「…………ガネーシャ!国葬を行う!」
「いきなり何なんですか?陛下」
「サブリナの離縁が成立した!」
「やっとですか!」

 執務室でその手紙を受け取ったアステラは、歓喜の雄叫びを挙げる。

「サブリナに伝えて来る!お前は国葬の準備をしろ!存在しなかった俺の王妃の空の棺を用意してな!」
「直ちに」

 姿を現さない幻想のアステラの王妃。
 何故そんな存在を作ったのかは、まだアステラはサブリナに教えてはいない。
 隠しているつもりもなく、独身王の結婚を催促されるのが煩わしかったからと、サブリナへの片恋を引きづって、独身でも良い、と思っていた事で、架空の王妃を作り出しただけだ。
 後継者の問題は、側室が居れば問題にはならない。だが、アステラの只1人の息子は平民の側室の子、ガーヴィン。
 ガーヴィンが後継者になるには、反対は起きる可能性もあるが、認めさせるだけの素質があれば良いのだから、アステラは困ってはいなかった。
 それが今は、好きなサブリナも身近に居て口説き放題。サブリナとの子なら満場一致で後継者になれると信じている。

「サブリナ!」
「っ!…………し~っ!」

 王城を探し回るアステラが、サブリナを見付けた。
 喜んで声を掛けたが、サブリナからは歓迎されない雰囲気だ。

「…………っと……ガーヴィンが眠ってるのか」
「遊び疲れた様ですわ。外で遊んで身体を動かしていたので」
「何とも羨ましい奴め………俺でもサブリナの胸の感触は一度しか味わえてないのに」
「アステラ陛下………」

 庭園の芝生で、ボール遊びをしていたサブリナとガーヴィン。
 そのガーヴィンがサブリナの座る膝の上で抱き着く様に眠っていた。
 胸に納まるガーヴィンの寝顔は可愛らしいので、サブリナもずっと見飽きないのか、アステラの顔を見ても直ぐにガーヴィンの顔を見つめてしまう。

「…………サブリナ、朗報だ」

 羨ましいとばかりに、アステラはサブリナの横に座り、肩が触れ合うぐらいの距離で近付いた。

「朗報?何かわたくしが喜びそうな知らせですの?」
「そう思うが?………そして俺も嬉しい」
「…………まさか、離縁が成立した、とか?」
「勘が冴えるな、其方は」
「っ!…………やっと………」
「……………」

 ガーヴィンを抱き締めているので、倒れない様にしなければならないのに、サブリナは涙を溢す。
 その涙が伝う頬をアステラは指で掬った。

「っ………あ、アステラ陛下………」
「ガーヴィンが起きるかな、とな」
「…………本当に、お優しいお父様ですね、アステラ陛下は」
「其方にも優しくしたいが?…………甘やかしたいし、慈しみたいし」
「今以上の幸せ等、望んでおりませんわ………ガーヴィン様のお世話という役割が、わたくしを癒やして下さいますもの」
「…………そのガーヴィンの母親になる気は無いのか?」
「…………え………そ、それは……」
「良い母親になる、俺が保証する………そして俺の妃になれ、サブリナ」

 毎日、繰り返されてきた求婚の言葉。
 だが、この日は違った。
 アステラの目が冗談交じりではないのだ。
 サブリナの気持ちが整う迄、離縁が成立する迄のアステラの目は何処かで、サブリナが断ってくるだろう、との予感から、冗談交じりの口調で伝えて来ていた。
 今、この時は、亡命してファルメル国に来た時と同じ様な熱が入った目。情愛に満ち、心底サブリナが欲しい、と伝えて来る目だ。

「っ…………わ、わたくしで本当に宜しいのですか?再婚ですのよ?」
「白い結婚に意味は無い」
「わたくし………頑固ですし、可愛げありませんし、薄情な人間ですわ」

 サブリナも何を言っているのか、と自分でも思う。真剣に話をされているのに、冗談で逃げる事は失礼に値するから、真剣に答えたいとは思って、思い付く限りの言葉を紡いでいた。

「頑固も時には必要な性格だし、薄情はオルレアンの民達の事を意味するなら、そんな事は無い。既に民衆はサブリナを擁護している風潮で、王太子は支持されてはいない。そして、これは一番重要な事だが…………俺にはサブリナが可愛くて仕方ない」
「っ!…………い、言われた事ございませんので………その………何とお言葉を返せば良いか……」
「信じないなら毎日言おう………朝起きて、気怠そうなサブリナにキスを落とし、好きだ、と可愛い、と伝え、夜は甘やかして深いキスをして、抱き合って寝る。勿論お互い裸でな」
「っ!…………が、ガーヴィン様の前で………は、はしたないですわ………」
「ガーヴィンは眠ってるぞ?聞こえないさ」

 もう、甘い夜を想像させるアステラの言葉は、何故かサブリナは想像出来てしまう。
 相変わらず、部屋は別にしてはくれていないからだ。
 広い寝台で端と端で、中央が1本の線がいつまでも付いているかの様に毛布に溝が出来ていて、シーツの皺も卑猥な汚れも見当たらない次の日の朝。
 侍女長ムーアも、毎夜一緒の寝台を使っていて、目出度い兆候が無いのも疑っているかの様子も度々目にするのだ。
 定期的にサブリナに来る月の穢れ。

『残念ですわ、嬉しい吉報がサブリナ様から聞こえると良いのですが』

 と、言われた事もある。
 2ヶ月同じ寝台を使っているなら、妊娠する可能性もあるのだから。
 身体が繋がっていたらの話にはなるけれど。

「返事は?今日は喜ばせてくれると良いが」
「…………あ、あの……か、身体で口説く、という方法は………た、試されないのですか?」
「っ!…………試して良いならもう直ぐにでも口説くぞ」
「…………よ、夜で………」
「…………あぁぁぁぁっ!もぅ!………我慢ならん!ガーヴィン、起きてるよな?父上にサブリナを返せ!」
「え?…………ガーヴィン様?」
「…………ち、父上………大人気無い……で、です」
「起きてらっしゃったのですか!ガーヴィン様!」
「ご、ごめんなさい………は、母上……」
「っ!」

 いつの間にか起きていたガーヴィン。
 アステラもガーヴィンが狸寝入りしていたのは分かっていた。
 気を効かせてくれたのだろう。
 しかも、ガーヴィンはアステラからサブリナへの求婚を後押しするかの様に、サブリナをと呼んだのだった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...