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14 *アステラ視点
しおりを挟むアステラがサブリナにオルレアン国の現状を伝えた後、アステラはまた別の報告書を読んでいた。
---熟、どうしょうもない男だったな
レイノルズの言動を纏めた報告書だ。
今迄、レイノルズに傷付けられたサブリナに、レイノルズの言動等、また知らせたくはないからだ。
読めば読む程に、蔑んで来られたかが分かる。
アステラは部下に、レイノルズがパサ宮殿に居ない間は、パサ宮殿でのサブリナとレイノルズ、愛人のミューゼの生活を調べさせていた。
サブリナの亡命先、ファルメル国の者だと伝えると、出るわ出るわの、サブリナへの叱咤や暴言、嫌味の数々。侍従達がどれだけサブリナを慕っていたかがよく分かる程、レイノルズやミューゼに対しては文句が出ていたぐらいだ。
そして、サブリナの安否の心配は常に聞かれた、という報告は、サブリナには伝えたい、と思えたぐらいだ。
---俺がもっと早く気が付いて助けてやりたかった……
初めてサブリナと会ったのは、サブリナがレイノルズと婚約発表をした時だった。
まだ、アステラは王位継承したばかりで、国内の情勢も狂いがちになっていて、ゆっくり滞在等出来はしなかった。
レイノルズの横に立つサブリナは控えめで、レイノルズを褒めてはいても、目の奥は冷たく、この婚約を喜んではいない、と分かってはいても、他国の王太子妃になるサブリナを奪う等出来る訳もなく、ただ社交辞令での言葉の掛け合いで終わったのを覚えていた。
それでも、その中でのサブリナの知識や情勢の情報量には、アステラがどんなに頑張っても、忘れた事さえ思い出させられた会話に、王妃の素質を見出せた事は、アステラの心に矢を射られたのだ。
美しく、聡明なサブリナを羨む目は、婚約発表の席でもアステラは気が付いていた。
他国の令嬢で王太子の婚約者でなければ奪うのに、と。戦になりかねない所業は出来ず、泣く泣く帰路に着くと、今度は結婚報告ときた。
やっと安定したのに、もう他の男の物になるのか、と悔んで、結婚式の招待状も送られたが、アステラは行けなかった。
しかし、その数週間後。
アステラの元に内密で、サブリナから手紙が届いた事に歓喜の叫び。
離縁し、亡命する意思があり、その為に力を貸して欲しい、と。
---駄目だ………まだ我慢だ……
何度、自問自答した事だろう、と数えたくもない回数をしてきて、今がある。
毎夜、隣で寝た振りをする背中が愛おしく、手を出したくて堪らなくなり、緊張で疲れて眠ってしまうのを待って、やっと自分の熱を抑えた後眠るのだ。
部屋に戻る前、サブリナの気持ちがまだ分からない今は、側室の1人に相手をしてもらい熱を治めているのも限界だった。
本当は側室で気を紛らわす事をしたくはない。
不誠実だと言われても、仕方がない事をしているのも理解している。
だが、全てサブリナの代替え役だった。
サブリナが、側室を手放して欲しい、と言ってくれるのならば、直ぐに手放すつもりでいるが、サブリナの返事が待てないでいた。
理解力ある男を演じていても、今の泣き顔は唆られて、我慢出来ず話を反らしている。
---早く、サブリナが欲しい………離縁しろ!早く!
卑猥だが、サブリナの身体に捩じ込み、最奥で抉る様に熱を放出したい程、再会してからサブリナの事を考える度に思ってしまう。
「くそっ!」
「おや、陛下とあろう方が、下賎なお言葉を………」
「…………ガネーシャ………いつから其処に居た」
「サブリナ様が執務室から出られて直ぐですが?何やら考え込まれておられて、お声を掛けるのを躊躇しておりましたよ」
「…………相変わらず、性格が悪いなお前は」
「お褒めのお言葉として受け取っておきます」
利発そうな眼鏡を掛けた、中年の男がアステラに積み重ねられた書類を手にし、入室して来ていた。
その男は書類をアステラの前に置き、掛けていた眼鏡を掛け直した。
「オルレアンの事も重要な事ですが、国内の事もお忘れ無き様………」
「分かってるよ!」
「求婚の返事はまだの様で………」
「…………本当、腹が立つよ……離縁はまだされてないらしい」
「…………おや……それならば、1つ私に案があるのですが、お聞きになられますか?陛下」
「…………いい案なら聞く」
「いい案か如何かは、陛下とサブリナ様の了解が得ない事には……」
「いいから、言えよ………お前は俺の補佐官だろ!俺の仕事に快適且つ円滑にするのが仕事じゃないか!」
「お2人のキューピッドになる仕事はございませんが?」
「キュ、キューピッド?…………そんな嫌味な奴がキューピッドになる訳がないだろ!」
一回りも二回りも歳上の男に揶揄われている事が否めないやり取りが始まった。
「それは良かった………私は陛下の恋路に手助け等する気もありませんし、手を貸してくれ、と仰られたら如何しようか、と」
「するかよ……俺の力で手に入れる」
「それは頑張って頂かないと………サブリナ様の王妃の素質は私も耳にしておりましたから、是非ともモノにして下さらないと、ファルメルの発展はございませんので」
臣下でさえソレなのだから、アステラがサブリナを口説き落とす手腕に掛かっているのだった。
「で?何だ、いい案とは」
「オルレアン国へ、陛下の偽りの王妃死去を知らせるのです」
「それは、国内の民も知る事になるだろう?」
「この際ですから国葬をして、新たな王妃としてサブリナ様を立てるのですよ」
「…………拒否されそうだな、今だと」
「ですが、新たな王妃となるサブリナ様が陛下の婚約者としてオルレアン国に知れる事になれば、レイノルズ王太子やオルレアンの両陛下も諦めるかもしれません。サブリナ様という存在を………そして、お2人の仲睦まじくした姿を見せ付ければ、両陛下は離縁を承諾するのでは?王太子はサブリナ様を冷遇し、愛人と再婚しようと目論んでいたのなら、サブリナ様には未練は無い筈です」
「…………国葬にした所で、オルレアンの情勢は今不安定になっている。そうさせたのはサブリナだ。国王や王妃を招待した所で来る事は無いさ」
「それでも、国賓として王太子は来るのでは?」
「…………見せつけろと?サブリナにあの愚行を犯した王太子を会わせると言うのか!」
「はい」
「却下だ!今のサブリナの心痛を考えたら、俺は出来ん!」
アステラはサブリナを想うあまり、多少の事であろうとも、傷付く要素は排除したかった。
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