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しおりを挟む「ア、アステラ陛下!な、な、何故このお部屋に………」
驚いて飛び起きたサブリナはナイトドレスだ。
言わば部屋着の様な物で、外出着や人と会う様なドレスとは違い着飾ってはいないし、何ならこのまま眠ってしまってもいい具合の、着崩したドレス。
事、男性に見せる為のドレスではない。
「何故って、この部屋、俺の部屋だし」
「…………お、俺の………部屋………って………陛下は此方のお部屋を使え、と仰ったではありませんか!」
「あぁ、そうだ。使ってくれて構わない。2人で使おう」
「使いません!」
「其方を妃にする、と伝えただろう?」
「まだお返事しておりません!」
サブリナは、本を綴じ、寝台から下り、部屋から出ようと試みたが、アステラは扉に凭れているので出られない。
「口説くとも言った」
「っ!でしたら、こんな方法で口説かなくても宜しいのではありませんの?騙すような事、わたくし好きではありませんわ!」
アステラの前で、仁王立ちし握り拳を作って、外交顔等忘れてサブリナは怒っているが、アステラは楽しそうだ。
「口説く方法は、言葉だけではないのだぞ?」
「陛下のお寛ぎの場所でわたくしを口説く等、地の利を活かしただけに過ぎません!同じ土壌で口説いて下さいませ!」
「…………地の利ねぇ……だから良いのではないか…………俺が寛げる場所、寝所であるからこそ、全身で口説けるというもの………」
「?…………全身で?………言葉で口説く以外、何かありまして?…………っ!………へ、陛下!」
扉に凭れていたアステラが、凭れるのを止めると、サブリナの手首を握り、寝台へと引っ張って行く。
力では負けるサブリナはよろけながら、アステラについて行かねば、関節が抜け兼ねないので、振り解こうとするが、手が抜けなかった。
「きゃっ!」
「……………サブリナ、其方も分かるであろう?男が女を口説く方法が言葉だけではない事を………」
そうアステラがサブリナに声を掛けると、サブリナは寝台に押し倒され、腰の辺りにアステラに跨がられてしまった。
「分かりませんわ」
「……………純情振るのか?……まぁ、いい……そういう趣旨でも、俺は其方が手に入るなら一向に構わん」
「……………え?………あ、あの………」
アステラはそう言うと、着ていたシャツのボタンを外し、上半身を曝け出した。
サブリナには始めて見る男の肌だ。それを見たサブリナは、身体を硬直させ、胸を押さえた。
「わ、わたくしは…………ね、閨の経験はございません!」
「……………は?」
脱ぎ掛かっていたアステラの手が止まる。
結婚歴があるのだから、当然閨の経験はあると、誰しもが思う事だろう。それにアステラが驚いている様子だ。
「……………わたくし………結婚しておりましたが、5年の間………レイノルズ殿下と契った事ございませんでした………」
「な………何やってんだ、あの男………本当なのか!」
「……………レイノルズ殿下には愛人が居りましたから………」
それを聞き、アステラはシャツを着直し、サブリナを跨ぐのを止め、横に座った。
「……………はぁ………その辺り、話を聞きたいが、明日聞かせてくれ………すまなかった、てっきりもう済んでいて、外に出せば抱けると思っていた………俺は長椅子で寝るから其方は寝台を使え」
「わ、わたくしが其方を使いますから、アステラ陛下は寝台に………」
「長旅で疲れているだろう?それなのに、俺も抱こうとしたが、疲れを取るには寝台の方が良い」
「そ、そんな………陛下より下の身分の者が、陛下より良い物を使えません!で、でしたら………今夜はご一緒に………ね、閨はご勘弁を………」
「…………分かってるのか?生殺しなんだぞ?それは………」
「生殺し?」
「…………賢くても、こういう事は疎かったか……まぁいい………寝るぞ」
「あ、あの………気になるので教えて頂けませんか?」
「っ!」
欲しいと思う女が目の前に居るのに、抱けない時程辛い事は無いだろう。
事、この場面なら特にだ。
「あのな!好きな女が傍に居るのに、抱くのを我慢するんだ!それを生殺しと言う以外の言葉は見つからん!分かったか!」
「好きな女………わたくしの事………です……よね………」
「そ、そうだ………あ、改めて言われると、照れるが………」
「っ!」
それがサブリナには初めて見る異性の照れた顔だった。
目の下が若干だが赤く染まり、目が熱を帯びていたアステラ。
サブリナがレイノルズとミューゼとの2人のやり取りで散々見てきた、レイノルズの表情と似ている。
レイノルズが好きでは無かったが、思い合っているその光景は羨ましいとさえ思っていた。
想われているその顔を目の前で向けられる事は、嫌な気分にはならない、と気付いてしまった。
それが、アステラにサブリナが向ける事が出来るのかは今は分からない。
「で、では………わたくしの気持ちをアステラ陛下に向けさせて下さいませ!き、今日はいきなり過ぎて心の準備は出来てはいませんが、わたくしがアステラ陛下に好意を持てる様になった時は…………そ、その………閨は致し方ないかと………」
「…………か、硬いぞ、考え方……」
「し、知りませんもの!わたくし恋もした事がございませんし………」
「では、俺を初恋の相手にしてやろう……覚悟しておけ、俺は嫉妬深いからな」
「っ!」
寝台の上で、座るサブリナをアステラは抱き寄せて来ると、サブリナの頬に柔らかな感触が当たる。それがキスだとすぐには分からなかったが、嫌ではなかった。
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