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しおりを挟む国境を越え、更に1週間程移動して、やっとファルメル国の都に到着したサブリナ達。
一旦、デイジーの実家に寄って、着替えさせて貰うと、直ぐにモントルーが新たな馬車を用意して迎えに来てくれた。
「長旅、疲れただろうサブリナ、母上、義姉上」
「疲れてますが、心は晴れやかですわ、モントルーお兄様」
「慣れない馬車移動も、今回だけ、と思いたいわね、モントルー………次はもう少し乗り心地の良い馬車にして頂戴」
「善処しますよ、母上」
「モントルー様のお陰で、予定より早くアベルを両親に会わせる事が出来ましたわ。亡命という事がなければ、まだアベルをファルメルに連れては来れなかったでしょうから」
「礼には及びませんよ、義姉上。遅かれ早かれ、亡命する、と言っていたのは、サブリナが結婚した翌日からでしたからね」
アベルはまだ3歳。
産まれる前から、もうこの計画は始まっていたのだ。
だから、マイルは結婚相手をオルレアン国以外の女性から選んでいる。
もし、オルレアン国内の令嬢から選んだなら、板挟みになるのはマイルの妻になる女性だからだ。
結婚相手をそれだけで決めた事ではないだろうが、妹のサブリナからの話から、マイルも思う所があったのだろう。
「じゃあ、行こうか、サブリナ」
「あ、はい…………では、お義姉様、また寄らせて頂きますわね」
「サブリナ様、お義父様、お義母様、行ってらっしゃいませ」
デイジーやアベルは実家に身を寄せられるが、サブリナ達はそうは言っていられないので、完全に落ち着ける迄は暫く忙しい。
再び馬車に乗り、以前も外交で来た事もあるファルメル王城へと向かった。
直ぐに、サブリナ達は通され、謁見の場へと案内されると、見知ったファルメル国の重鎮達も出迎えてくれていた。
大それた出迎えの様にも見えて、少々萎縮してしまうが、王太子妃であったサブリナは、外交的な顔をするのは慣れている。
「待たせたかな?オルレアン国、王太子妃サブリナ殿下」
「…………っ!……ファルメル国国王、アステラ陛下におかれましてはご健勝のご様子のお声で安心致しましたわ」
「…………表を上げよ、サブリナ殿下………あ、いや………離縁したのだよな?それなら殿下は失礼だな」
「はい、只のサブリナで構いませんわ。この度は、わたくしのお申し出にお応え頂き、感謝してもしきれません。それに、大層なお出迎え頂きまして、少々緊張してしまいますわ」
アステラが玉座に座る前から、話し掛けられたサブリナは、背後の頭上に響くアステラの低い声に、肩をピクッと震わせて顔を上げた。
だが、顔を上げた頃にはもう、真正面の玉座にやっと座ろうとしているアステラを見上げている。
凛とした佇まいから来る威圧感のある目のアステラは、サブリナが思う印象そのままだ。
暴君とも言われたアステラだが、同じ暴君と言われるレイノルズとは違い、仕事が出来る男だ。
年齢もサブリナより歳上ではあるが、まだ若い。妃だけでなく、側室も居り、世継ぎも居るので、ファルメル国は安泰と、オルレアン国にも聞こえてきていた。
だが、サブリナは王妃も側室にも会った事はない。
アステラは、オルレアン国に訪問する時も連れては来なかったし、サブリナがファルメル国に外交で来ても、会う事はなかった。
「何を言う。其方の肝が据わる所作からは、緊張等感じられぬ」
「まぁ、恐れ多い……」
「フッ……………して、其方はこのファルメルに亡命して、何をする気なのだ?ユーザレスト公爵も、オルレアン国では重鎮。責務ある地位に居られた方だ。それなのに、国を捨てて迄、レイノルズ王太子と離縁を選んで迄、亡命する意味があるのか?」
「はい、ございますから、亡命させて欲しい、とお願い申し上げました。それはお手紙にもオルレアン国の存亡の危機が見られたから、とお伝えしておりましたでしょう」
「…………其方がオルレアンに居れば滅亡はしないと思っていたが?」
「買い被り過ぎですわ、アステラ陛下」
探り合いが始まった。
サブリナも本当の事はアステラには伝えていない。
だが、サブリナが居なければ、レイノルズが即位した途端、国は滅亡の一途を辿るだろう。
後妻になる妃がミューゼだったら特に。
サブリナはレイノルズの為に費やす時間が無駄だと、底が知れたので、三下り半を下しただけだ。
愛国心はレイノルズ1人で消し去ったのだから。
「買い被りではない。現国王も現王妃もそれなりに国を統治してはおられるが、王太子を見たら不安要素しか無かった。だから、其方が妃になったのだろう?違うか?ユーザレスト公爵」
「っ!…………そ、それは……私の口からは何とも………」
「公爵も口を破らぬか。俺は、其方達の亡命を歓迎しているのだ」
「ご迷惑とお手間であられたのにですか?」
「あぁ、歓迎している」
すると、アステラは玉座から立ち上がり、サブリナの前で腰を屈めた。
「へ、陛下!時期尚早ですぞ!」
「ア、アステラ陛下?」
臣下の注意も無視し、アステラがサブリナの手を包み、自身の口元に持って行った。
「離縁したのだろう?サブリナ」
「た、多分………受理はされましたが………オルレアン国でどう扱われているかは、まだわたくしの方に連絡は無く…………」
「では、離縁したら俺の妃になれ」
「…………は?」
サブリナの外交顔の仮面が落ちた。
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