拝啓、殿下♡私を追い出して頂いて感謝致します【完結】

Lynx🐈‍⬛

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「では、皆様お元気で」
「ゔぅ…………王太子妃殿下………」

 パサ宮殿の侍従達の大半は、サブリナを擁護してきた者達ばかり。
 レイノルズが浮かれてフロム侯爵家へ出掛けた直接、サブリナは侍女姿に扮し、隣国ファルメル国国境で待つ両親と、同じく亡命してくれる侍従達と共に、旅立って行く。
 大人数での移動は目立つので、数人ずつ分けて、サブリナの実家の屋敷はもぬけの殻にし、準備して来たのだ。
 パサ宮殿の侍従達も連れて行って欲しい、と願い出る者も居たが、亡命するとなると罪人扱いになりかねないので、家族が居る者は連れては行けないサブリナ。
 実家の屋敷で働く侍従達も、半分近く留まる事になっているのだ。

「執事長、頼んだ事、お願いしますね」
「勿論でございます。私共に罪が被さる事の無い様に迄して頂きまして、本当に王太子妃殿下には、足を向けて眠れません」
「大袈裟ですわ………国王陛下や王妃陛下への手紙と離縁の告訴状、これらは決して、レイノルズ殿下に見られる事なく、必ず陛下方にお渡しして下さい」
「了解致しました」
「お世話になりました」

 家紋の無い質素な馬車に乗り込んだサブリナ。
 楽しい思い出等全くなかったパサ宮殿だが、侍従達には恵まれた5年間だった。
 あとは、レイノルズの秘書官だった者達や、サブリナの実家で働いていた、亡命せずに残ってくれた侍従達が上手くやってくれるだろう。
 レイノルズが全くと言っていい程、サブリナに丸投げした仕事をしていたおかげで、レイノルズの秘書官達も、サブリナの味方になってくれたから、5年で出来た事だと言っていい。
 彼らに感謝し、任せてしまった後悔はあるのだが、サブリナの心が壊れる前に、サブリナは自身で自身を助けたのだ、と思う事にしていた。

「ありがとう………皆様」

 国王や王妃に直談判しても、レイノルズは変わってはくれなかった。
 変わった所で、離縁が出来はしないだろう。
 そのままでは、サブリナは壊れてしまうと、パサ宮殿の侍従達に言われた事がきっかけだったから、サブリナも動く事にしたのだ。
 夜が明けたら、騒動が勃発する。
 その前に国境を越える事、前向きに隣国での新たな暮らしを夢見て、サブリナは馬車が進む方を見据えた。


        ♠♠♠♠♠


 明け方、サブリナは国境の村の宿屋に到着する。
 もう、既に先に着いていた、サブリナの両親、ユーザレスト公爵と夫人だ。

「サブリナ!」
「お母様、お父様!」
「道中、大丈夫だったか?」

 小綺麗ではあるが、平民風の服装をしているユーザレスト公爵夫妻がサブリナに抱き着いて、所在を確かめてくれる。

「はい…………わたくしの我儘で、お父様やお母様に迄ご不便を………」
「我々の事はいい…………王太子殿下のなさりようは、私も許せる事ではない。ファルメル国の都にはモントルーも準備をして待っている。疲れているとは思うが、休まずに出発するぞ」
「はい」

 モントルー、というのはサブリナの兄の1人だ。見聞を拡げる為、商団を率いて国を渡り歩き、商売をしているユーザレスト公爵家の次男だ。
 長男も居るのだが、まだオルレアン国に残っていて、動向を見守ってから亡命する事になっていた。
 
「叔母様………」
「まぁ、アベル………大きくなりましたわね」
「王太子妃殿下………いえ、もう離縁なさるのだから、サブリナ様で宜しいわね?」
「お義姉様も………この度は………」
「謝らないで下さいませ、サブリナ様………マイル様やお義父様から伺っておりますから」

 長男、マイルの妻、デイジーとその2人の息子、アベルも一緒だ。
 家族総出での亡命は、国を裏切る覚悟だと言える。
 既に馬車に乗っていた2人が馬車から顔を出して、出発を待っていた。

「サブリナ、馬車に乗りなさい」

 ユーザレスト公爵夫人と、デイジー、アベルがもう乗っている馬車は、サブリナも乗るとかなり窮屈ではあるが、それも致し方無い。
 ユーザレスト公爵は御者の横に座り、警戒しながら再び旅立つ事になるのだ。
 モントルーが用意した、商団で使われる様な一般的な馬車で、乗り心地も良くはないが、国境の山を越えれば、隣国ファルメル国だ。
 ファルメル国の都に着いたら、サブリナはファルメル国の国王とも面会する事になっている。
 一国の王太子妃だったサブリナが亡命を願い出たのは、ファルメル国国王であるアステラだからだ。
 ファルメル国に住まわせて貰うのだ。平民ならいざ知らず、顔も見知っている間柄で不義理は出来ない。
 新たな爵位等要らないし、モントルーの商団だけの収入で、平民になった所で収入も見込めるし、サブリナの資産も充分余裕があり、暫くはゆっくり出来るだろう。
 挨拶だけ済ませば、住む屋敷も宿屋に泊まりながら探せばいいのだ。
 国境を跨ぎ、やっとサブリナは落ち着いたかの様に、一息吐いた。

「お別れね、オルレアン国」
「そうですね、お母様。お義姉様は戻ってきた、という所ですね」
「えぇ、たった4年でしたけど、少し寂しくもあります………私の両親も、アベルと会うのを楽しみにしていましたから、今はただファルメルに帰って来れてホッとした部分もありますわ」

 デイジーはファルメル国から嫁いで来た、という事もあり、サブリナの亡命先はファルメル国を選んだ部分が大きかった。
 モントルーの働き掛けで、事が進んだ事も大きいが、まだ幼いサブリナの甥には長旅は酷でもある。

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