4 / 38
3
しおりを挟む「では、皆様お元気で」
「ゔぅ…………王太子妃殿下………」
パサ宮殿の侍従達の大半は、サブリナを擁護してきた者達ばかり。
レイノルズが浮かれてフロム侯爵家へ出掛けた直接、サブリナは侍女姿に扮し、隣国ファルメル国国境で待つ両親と、同じく亡命してくれる侍従達と共に、旅立って行く。
大人数での移動は目立つので、数人ずつ分けて、サブリナの実家の屋敷はもぬけの殻にし、準備して来たのだ。
パサ宮殿の侍従達も連れて行って欲しい、と願い出る者も居たが、亡命するとなると罪人扱いになりかねないので、家族が居る者は連れては行けないサブリナ。
実家の屋敷で働く侍従達も、半分近く留まる事になっているのだ。
「執事長、頼んだ事、お願いしますね」
「勿論でございます。私共に罪が被さる事の無い様に迄して頂きまして、本当に王太子妃殿下には、足を向けて眠れません」
「大袈裟ですわ………国王陛下や王妃陛下への手紙と離縁の告訴状、これらは決して、レイノルズ殿下に見られる事なく、必ず陛下方にお渡しして下さい」
「了解致しました」
「お世話になりました」
家紋の無い質素な馬車に乗り込んだサブリナ。
楽しい思い出等全くなかったパサ宮殿だが、侍従達には恵まれた5年間だった。
あとは、レイノルズの秘書官だった者達や、サブリナの実家で働いていた、亡命せずに残ってくれた侍従達が上手くやってくれるだろう。
レイノルズが全くと言っていい程、サブリナに丸投げした仕事をしていたおかげで、レイノルズの秘書官達も、サブリナの味方になってくれたから、5年で出来た事だと言っていい。
彼らに感謝し、任せてしまった後悔はあるのだが、サブリナの心が壊れる前に、サブリナは自身で自身を助けたのだ、と思う事にしていた。
「ありがとう………皆様」
国王や王妃に直談判しても、レイノルズは変わってはくれなかった。
変わった所で、離縁が出来はしないだろう。
そのままでは、サブリナは壊れてしまうと、パサ宮殿の侍従達に言われた事がきっかけだったから、サブリナも動く事にしたのだ。
夜が明けたら、騒動が勃発する。
その前に国境を越える事、前向きに隣国での新たな暮らしを夢見て、サブリナは馬車が進む方を見据えた。
♠♠♠♠♠
明け方、サブリナは国境の村の宿屋に到着する。
もう、既に先に着いていた、サブリナの両親、ユーザレスト公爵と夫人だ。
「サブリナ!」
「お母様、お父様!」
「道中、大丈夫だったか?」
小綺麗ではあるが、平民風の服装をしているユーザレスト公爵夫妻がサブリナに抱き着いて、所在を確かめてくれる。
「はい…………わたくしの我儘で、お父様やお母様に迄ご不便を………」
「我々の事はいい…………王太子殿下のなさりようは、私も許せる事ではない。ファルメル国の都にはモントルーも準備をして待っている。疲れているとは思うが、休まずに出発するぞ」
「はい」
モントルー、というのはサブリナの兄の1人だ。見聞を拡げる為、商団を率いて国を渡り歩き、商売をしているユーザレスト公爵家の次男だ。
長男も居るのだが、まだオルレアン国に残っていて、動向を見守ってから亡命する事になっていた。
「叔母様………」
「まぁ、アベル………大きくなりましたわね」
「王太子妃殿下………いえ、もう離縁なさるのだから、サブリナ様で宜しいわね?」
「お義姉様も………この度は………」
「謝らないで下さいませ、サブリナ様………マイル様やお義父様から伺っておりますから」
長男、マイルの妻、デイジーとその2人の息子、アベルも一緒だ。
家族総出での亡命は、国を裏切る覚悟だと言える。
既に馬車に乗っていた2人が馬車から顔を出して、出発を待っていた。
「サブリナ、馬車に乗りなさい」
ユーザレスト公爵夫人と、デイジー、アベルがもう乗っている馬車は、サブリナも乗るとかなり窮屈ではあるが、それも致し方無い。
ユーザレスト公爵は御者の横に座り、警戒しながら再び旅立つ事になるのだ。
モントルーが用意した、商団で使われる様な一般的な馬車で、乗り心地も良くはないが、国境の山を越えれば、隣国ファルメル国だ。
ファルメル国の都に着いたら、サブリナはファルメル国の国王とも面会する事になっている。
一国の王太子妃だったサブリナが亡命を願い出たのは、ファルメル国国王であるアステラだからだ。
ファルメル国に住まわせて貰うのだ。平民ならいざ知らず、顔も見知っている間柄で不義理は出来ない。
新たな爵位等要らないし、モントルーの商団だけの収入で、平民になった所で収入も見込めるし、サブリナの資産も充分余裕があり、暫くはゆっくり出来るだろう。
挨拶だけ済ませば、住む屋敷も宿屋に泊まりながら探せばいいのだ。
国境を跨ぎ、やっとサブリナは落ち着いたかの様に、一息吐いた。
「お別れね、オルレアン国」
「そうですね、お母様。お義姉様は戻ってきた、という所ですね」
「えぇ、たった4年でしたけど、少し寂しくもあります………私の両親も、アベルと会うのを楽しみにしていましたから、今はただファルメルに帰って来れてホッとした部分もありますわ」
デイジーはファルメル国から嫁いで来た、という事もあり、サブリナの亡命先はファルメル国を選んだ部分が大きかった。
モントルーの働き掛けで、事が進んだ事も大きいが、まだ幼いサブリナの甥には長旅は酷でもある。
953
お気に入りに追加
1,976
あなたにおすすめの小説


(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?


罪なき令嬢 (11話作成済み)
京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。
5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。
5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、
見る者の心を奪う美女だった。
※完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる