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プロローグ
しおりを挟むオルレアン国、パサ宮殿。
此処は、オルレアン国王太子レイノルズと、その妃であるサブリナの居住宮殿。
しかし、この宮殿には夫婦や侍従以外にも、厄介な居候も住んでいた。
「サブリナ、離縁しろ!」
「…………構いませんわ、レイノルズ殿下。その代わり、わたくしはオルレアン国以外の国に亡命させて頂きます事よ?」
「あぁ!出て行け!但し、この宮殿の物や王城の物は一切国の物だ!侍従も侍女も連れ出す事も許さん!」
サブリナの私室に乗り込んで来たレイノルズの傍らには、寄り添うように厄介な居候、ミューゼが、レイノルズの言葉に期待と高揚感でサブリナを見下す様に笑っている。
このミューゼという女は、レイノルズの愛人。
サブリナがレイノルズと結婚する前から付き合っている、とある侯爵家の未亡人だった。
夫を亡くし、実家に戻る事は体裁が悪い、とレイノルズがミューゼを囲っているのだが、この宮殿に住む事は体裁が悪いとは思っていないらしい。
しかも、相手が王太子というレイノルズならば、娘であるミューゼを愛人にする事は大目に見ようとする、ミューゼの実家の侯爵家の両親も大概だろう。
そして、あわよくば2人に子供等出来ようものなら、レイノルズの後妻になれるのでは、と期待もされている、暗黙の了解の貴族界だ。
それには、サブリナとレイノルズの不仲説も相俟っての事でもあった。
「わたくしの資産はわたくしは持って出て行きますわ。何もこの宮殿の物に拘っている事はございませんもの」
---えぇ、わたくしの資産は此処に置いておくお馬鹿ではありませんからね
そう、この宮殿に置いておくと、ミューゼに使われ兼ねないのだ。
私利私欲が強く、散財する性格のミューゼは、レイノルズにお強請りすれば全て手に入れられる、と思っている。
レイノルズの資産から散財させているが、それも底を着くのも近いだろう。レイノルズも自分の資産管理運用が下手な様で、影でサブリナが手を回し、ミューゼのお強請りした物のリストから、質や価格を押さえさせて何とかレイノルズが破産しない様にしていたのだ。だが、それにも限度がある。
その手腕がサブリナにあるからこそ、自分の資産運用が上手く出来る様になった、結婚期間5年。婚約期間の頃から比べると、もっと長い期間だ。
「ふん、お前に等大した資産なんぞ無かろう!俺がお前にやった物も無いからな!」
「えぇ、わたくしはレイノルズ殿下から、コイン1枚どころか、花1輪も頂いた事、ございませんわね、其方の方には散財されておられるようですが」
「ひ、酷いですわ!王太子妃様!それでは私がレイノルズ様に我儘を言っているみたいではないですか!」
「ミューゼ!君は俺が甘やかす価値がある女だ!気にする事は無い!…………それに引き換え、サブリナ!お前は可愛げも無く、いつもミューゼに冷たい態度!そんなお前に俺が愛を与えると思ってたか!」
「……………はぁ………」
サブリナに対する態度とミューゼに対する態度が真逆のレイノルズと口論する事も億劫で、サブリナは溜息を漏らした。
「与えられた覚えもありませんし、わたくしもレイノルズ殿下をお慕いしてはおりませんから、必要ございません………離縁には応じたいのですが、国王陛下や王妃陛下には了承取れまして?」
「ゔっ…………ま、まだだ!」
王太子の離縁問題には国の存亡も関わってくるのに、国王や他の貴族達の許可無く、離縁をする等簡単には出来ないのだ。
大方、反対されているのだろう。
---やっぱり……相変わらず、お馬鹿な方だわ………
何も考えもせず、突発的に乗り込んで来て、平穏だったサブリナの私室に嵐を呼び込んだこの2人に呆れ返るしかない。
それが1度や2度ではないだけあって、サブリナに付いている侍女達も冷ややかな目線をレイノルズとミューゼに贈っているのだが、2人の視界には入らない背後であるから、サブリナからしか見れてはいなかった。
「…………国王陛下と王妃陛下、その他臣下の者達からの承認を取られてから、またお越し下さいな………わたくし、今から公務が控えておりますので、失礼致しますわね」
「逃げるのか!サブリナ!」
「公務、と申しましたでしょう?私情如きで、公務を疎かになさるのは、国の為になりますか?」
「っ!」
「…………ミューゼ様も、わたくしの後釜に入る事を望まれるなら、わたくしの代理になれる様になさったら如何かしら?」
「ひ、酷い!…………レイノルズ様!あんな事を私に言ったわ!」
「サブリナ!お前、ミューゼに謝れ!」
「謝る?正論ですわ…………時間も無駄になる口論等、必要ありませんから、今度は承認を得られたらお越し下さい」
この2人の相手は本当に疲労感が積もるのだ、と会う度にサブリナの眉間に皺が寄っていきそうだった。
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