魔力を封印された女の解呪はまぐわいでした※新婚編※【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 血を吐いたサイモン公爵の背後から、魔法陣が浮かび上がった。

「あ、あれは………」
「禍々しい………まさか、あれ……デュークの呪い!」

 サイモン公爵を全身覆う魔法陣は歪み、サイモン公爵の身体を包み込んだ。

「ゲホッ………や、止め……来るなぁ!何だぁ!コイツ!来るな来るな来るな!気持ち悪い!止めっ………あぁぁぁぁっ!」

 血を吐いて苦しいだろうに、玉座の階段から転げ落ち、暴れ回るサイモン公爵。
 そして、サイモン公爵の意識が切れたのか、防御壁が解けたのが良かった。

「おい!サイモン!」
「あ………あっ………ゔぅぁぁぁ!や、や……め……」

 近付いたドラクロワ公爵がサイモン公爵の身体に触れようとしたが、その手を払い、目の焦点も合っておらず、サイモン公爵の目の前に誰も居ないのに、手をブンブンと振り捲りまわしていた。

「お、おい……」
「や、止め………来るなぁぁぁぁ!」
「幻でも見ているのか?」
「今の内に、拘束しましょう………血を吐いてますが、拘束しても治療は出来ます………デューク様の呪いであれば、サイモンがデューク様を殺害していると思われますので」

 拘束しても奇っ怪な呻き声と、クネクネと身体を捩り、大人しくしてくれないサイモン公爵。

「どんな呪いなんだ、これ………」
「分かりませんが、魔術を研究している担当に聞きませんと………」

 正気を取り戻せるのかは分からないまま、サイモン公爵の服装の中から、鍵が幾つも見付かった。

「リリの拘束具の鍵はあるのだろうか………」
「試さんとな」

 グリードは鎮静作用の薬をサイモン公爵に打たせようと、医療班を呼ぶ。

「鎮静剤を打ってやれ」

 しかし、鎮静剤は聞く事がなく、いつまでもサイモン公爵は唸り身体を捻り、のたうち回るのだ。

「部下にサイモン公爵家の所有する邸を虱潰しに捜索させてみますが、宜しいですか?陛下………サイモンが喋るとは思いませんし、娘がサイモンから聞いていたかも疑問です」
「今のサイモンの話からでは、娘は何も知らんかもしれんな………捜索させよ」
「ゔわぁぁぁっ!……や、止め……来るなぁ!デューク!こ、殺すなぁぁぁぁぁぁっ!」

 サイモン公爵から、命乞いをする叫び。
 しかも、もうデュークは生きてはいないのに、デュークの幻影でも見えているのだろうか。

「うわっ!………はぁ……はぁ………ゆ、夢か?………あはははははっ…………ぐわぁっ!……な、何だ!またか!…………や、止めろ!私に近付くな!…………来るな!」

 グリード達がその様子を見ると、繰り返しの言葉ばかりを言っている。

「何度も繰り返し、見てるんでしょうか……自分が殺される幻を………」
「…………デュークらしい、復讐だな………そんな呪詛があったのか?私は知らぬぞ?」
「父上、私も知りませんよ………っ!………リリ!」

 いきなり、グリードがリリアーナの名を叫び、喜ぶ顔をする。

「グリード、リアナを感じたか?」
「はい!…………リリの拘束が解除されました!」

 そして、グリードが気が付いた後、騎士が報告に来る。

「ご報告です!リリアーナ様の拘束が取れました!」
「あぁ………報告ご苦労」
「ふ、不要の様でした……ね………」

 ホッとしたグリードの顔を報告に来た騎士は、無駄だったのか、と苦笑いをしていた。


     ✦  ✦  ✦  ✦


 サイモン公爵家の邸には、非承認の魔具の製造書類が山程出て来た。
 禁呪とされる魔術の研究書類や研究資料。
 これは紛れもなく、このサイモン公爵の反乱だった。
 サイモン公爵は、幻影から逃れる事が出来ず、涙と涎、下からも垂れ流しても、悲鳴と嗚咽、助けを呼ぶ声を1日経っても牢獄で繰り返している。
 フローレスも、傲慢な態度の令嬢らしからぬ姿で、牢獄内でも怯え狂っていた。
 
「私のグリード様は………あんな恐ろしいグリード様じゃ………助けて……グリード様………」

 サイモン公爵とフローレスを隣の独房に入れ隔離しているが、お互いに父や娘が隣に居る事にも気が付いてはいない。
 事件の全容から見ても、王子デュークを誑かし利用し、リリアーナ誘拐と監禁、そしてデューク殺害をした罪、非承認の魔具使用の乱用。
 そして、フローレスはリリアーナに代わり、グリードの番いになる為に、混乱を齎した行為と殺害強要の罪が課されたが、国王はサイモン公爵家取り壊しと、サイモン公爵家の血脈を今後の反乱分子になり得ると捕え、4親等迄の者を極刑に処する事を宣言した。

「お待ち下さい、陛下」
「如何した、グリード」
「サイモン公爵はで良いんじゃないでしょうか」
「…………何故だ……主犯格だぞ?」
「何度も何度も繰り返して、自分が殺される幻を見させられているんです。まさに生き地獄ではないですか………デュークも、それをサイモンに見せたかったんじゃないでしょうか………デュークの幼い時からの冷遇……生きたくない、と思っていたかもしれない……少々、過激な幻の様ですが、地獄を見せておいても、もうあの男は精神が破壊され、出ては来れませんよ」
「生き地獄………か………それもまた死だろうな………」

 順に極刑に処されていくサイモン公爵家はもう、ドラヴァール国には存在しなくなるのだった。
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