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 フローレスを中心に光線が広がり、衝撃波が飛んで来た。

「きゃぁぁっ!」

 ドンッ、とリリアーナが地面に落ち、グリードが落とした、と分かるが視界の悪いこの状況で、致し方ないのとグリードがフローレスに攻撃意思が無かった事が、この状況になったと納得する。

「痛っ…………たぁっ……ゔっ………」

 内蔵が損傷した様で、リリアーナは口内に血の味を感じた。

 ---こ、コレさえ無かったら………グリード……大丈…………え………?

 光線が徐々に薄れ、国王やドラクロワ公爵の唸り声と姿もリリアーナの横で確認出来た。
 しかし、グリードがリリアーナの真正面、フローレスの方へ歩いて行く。

「リ………リ………」
「グリード様…………」

 接近過ぎじゃないか、とリリアーナが青褪める程、フローレスがグリードの背に腕を回し、ウットリとしたフローレスが、グリードの胸の中で幸せそうな顔を見せていた。

「リ………リ………私の……」
「嫌ですわ、グリード様………グリード様の番いはフローレスですのよ?………リリアーナはまがい物です」

 まるで洗脳。

「グ………リ………ド………」

 信じられなかった。
 決してグリードはリリアーナ以外の女には触れて来なかったから。
 后やシャルロッテは母と妹なのだから、ハグは見ていた事もある。
 しかし、グリードが他の女を抱き締めている事が、こんなに辛く憎らしいて思う等、リリアーナは思いもよらなかった。

「グリード!気をしっかり持つんだ!」

 国王の叫びにも、耳を貸さないグリードは、フローレスを抱き締めて放そうとはしない。

「グリード様………私……怖くて堪りません………貴方様のお父様のに居る………退治してくれませんか?………私に牙を向けて、私………怖い………」
「…………陛下………サイモン公爵の娘に攻撃許可を下さい!」
「っ!…………生命は取るな……尋問したい……」
「勿論です」
「お、お父様………」

 ドラクロワ公爵も名のある令嬢を攻撃するのは嫌な事に違いない。
 娘のリリアーナと同世代だという事も然り。
 グリードはフローレスから離れ、手をリリアーナに翳して来る。

「リリ…………っくっ………」
「ゴホッ…………グリード!………ゔっ……」

 血まで吐きながら、決死にリリアーナは声を掛けるが、やはり無理が出たのか、呼吸がし難くなっていた。
 骨が肺に刺さったのか、息苦しい。

「リアナ!」
「あら…………放っておいても死んじゃう?リリアーナ…………でも、簡単に死なれたらつまらないのよ………こんなに………憎い貴女が簡単に死んだら!…………グリード様!そっちのじゃないわ!倒れていない!陛下の右隣の男よ!」
「リアナをお願いします!陛下!」
「ゴホッ……お……と……」

 ドラクロワ公爵も元は騎士団長。
 現役こそ降りたが、戦闘術には定評があった。
 
「グリード様!お願いします!怖い!」
「…………っうっ!………」
「っ!」

 グリードがドラクロワ公爵に攻撃するが当たらない。
 紙一重で避けたドラクロワ公爵なのか、グリードが外したのかは、リリアーナの目では確認は取れなかった。
 
「来るなぁ!ドラクロワ!」

 フローレスの恐怖心、グリードの背にしがみつき、再び光線を出し、視界を遮らせ、グリードとドラクロワ公爵の状況が分からない。

「リアナ………私の魔力で拘束が取れるか試す………」
「む…………り……で……グ、グリ……ド………出来な…………」
「くっ………グリード………正気に戻れ!」

 ドンッ、ドンッ、と光線の中で戦う音が響き、他の騎士達も駆け付けて来るが、2人の戦闘の邪魔になりかねず、固唾を飲んで見守っている。

「お前達!サイモン公爵を探せ!拘束するのだ!」
「は、はっ!」

 フローレスが単独でここ迄出来る訳はない。
 フローレスの父、サイモン公爵が関与しているか今は分からない国王だが、関係ない訳では無いだろう。

「ぐあっ!………あぁぁっ……」
「ドラクロワ!」
「っ!」
「あははははははっ!素敵!グリード様!」
「や………止めて……止めてぇぇぇっ!」

 ドラクロワ公爵の呻き声が光の中から聞こえた直後、フローレスの高笑いが聞こえ、リリアーナは渾身の力を振り絞って叫んだ。

「折角だし、あの女の前でトドメ刺して下さいませ、グリード様」
「………………ぐっ!」
「っ!」
「グリード!」

 しかし、グリードは自らの手で、持っていた剣で、足を貫いた。
 足の甲に刺さった剣。

「はぁ………はぁっ………はぁ………ふざけるな………お前!」
「ひぃぃぃ………」

 グリードの背にしがみつき、高みの見物をしていたフローレスに、グリードはそのまま振り向くと、フローレスの首を掴み、持ち上げてしまう。

「……………リ、リリ……の………気配……で………私の心を支配するな!」
「グリード………様………」
「い………嫌………私の……グリード様じゃ……な………」
 
 怯え始めたフローレスは涙を流し震えていて、息も苦しいだろう。

「拘束しろ!」

 しかも、騎士達の集まった場所目掛け、フローレスを投げ飛ばした暴挙に出る。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ---あれは怖いわ………フローレス……自業自得………でも、ざまぁみろ!

 リリアーナはもう声が出ず、それが良かった。
 王太子后がざまぁみろ、とは口に出せない。

「…………リリ……リリ……ゔっ………」
「…………」

 身体に刺さった剣を、自分で抜き、足を引き摺りながら、グリードはリリアーナの傍に跪き、顔を覆う。
 手の隙間から涙が溢れているグリード。
 グリードからすれば、こんなに屈辱的な事をさせられて悲しかったんだろう。
 リリアーナが10年振りに見るグリードの涙は、変わらず透き通っていた。
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