魔力を封印された女の解呪はまぐわいでした※新婚編※【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
37 / 43

36

しおりを挟む

 リリアーナを連れて戻れたグリードだが、ドラヴァール城へ着くや否や、騒がしい城内に嫌な予感しかしなかった。

「如何した!」
「あぁぁぁぁっ!グリード様ぁぁぁぁっ!大変でございます!大変なんです!」

 大変大変と連呼するだけでは分かりはしない。
 城に戻って来て捕まえた侍従では話にならず、そうかといってリリアーナを誰かに任したくはないグリードは、騒がしい方へと突き進んでいった。

「リリ…………すまないが、もう少し辛抱していてくれ」

 安心してグリードの腕の中に納まるリリアーナもこの騒ぎに尋常ではない雰囲気を感じ取っていた。

「何があったのかしら……」
「…………嫌な予感しかしないんだ………」
「グリード様!お戻りに!」
「ドラクロワ公爵!」
「お父様!」
「リ、リアナ………な、何故その様な………」
「リリの事は後で説明する!何があった!」
「…………先ずは、弁明させて下さい……」
「早く言ってくれ!」

 神妙な面持ちで、語るドラクロワ公爵に冗談等言える訳はなく、青褪めた顔色で続ける。

「警備は万全だったのです………あり得ない事が起きました………牢獄に居られたデューク様が…………何者かに刃物で刺され、お亡くなりに………」
「っ!」
「え!…………それは本当なのですか!お父様!」
「リアナ…………人の生死に冗談等言えるか?」
「…………そんな………デューク様が……」
「…………デュークは今何処に?」

 無表情でグリードは真っ直ぐに前を見据え、歯を食いしばっていた。

「…………牢獄から運び出され、医療室へ………陛下は牢獄に居られますが、お后様は医務室に居られます」
「ドラクロワ公爵」
「はっ………」
「リリを医務室へ連れて行ってくれ……私は牢獄へ向かう」
「…………御意」

 リリアーナも拘束具さえなければ、グリードについて行きたいのに、グリードは連れて行ってはくれない様だ。

「グリード!私も………」
「駄目だ!…………頼む……血生臭い場所には連れては行けない」
「…………グリード………」

 ドラクロワ公爵に預けられたリリアーナは、ドラクロワ公爵と話を始めた。

「お父様、デューク様が亡くなるなんて、私………信じたくありません」
「お強い方だったが、魔法抑制具を付けておられたからな………警備も牢獄の鍵も不可思議な事ばかりだ……」
「如何なっていたのですか?」
「…………騎士達は記憶が曖昧で、牢獄の鍵は盗まれてしまった」
「記憶が曖昧って………魔法の一種ですか?」
「…………魔法なのか如何か………それより、何故歩かないのだ?リアナ」
「…………拘束具が外れなくて………魔法も使えませんし………すいません」

 リリアーナが今、魔法が使えた所で、聖魔法しか使えないのと、攻撃魔法も使えないリリアーナが壊す事も出来ないだろう。

「原始的な方法で壊すしかないかもしれないな」
「壊せますかね?」
「分からん」

 過去、魔法具を取り扱ってきた者でも分からない新製品の魔法具はいつから出回っていたのかも、ドラクロワ公爵はまだ調べられてはいないのだ。
 お手上げ状態だと思われる。
 リリアーナが、ドラクロワ公爵と医務室に来ると、デュークの亡骸に縋りつく后とシャルロッテが泣く声が響いていた。

「うっ………うぅっ………」
「お兄様…………っえっぐっ……ひっく……」
「お后様………シャル……」
「…………リアナ………」
「っ!…………お義姉様~!ごめんなさい!お兄様がごめんなさい!」

 デュークがリリアーナを連れ去った事は、もう伝わっていた様だ。
 リリアーナはデュークに連れ去られていても、死を望んでいた訳ではない。
 一体、誰がデュークを殺害したのか、デュークを邪魔だと思った人間が誰なのだろうか、と考えてみるが、デュークには敵が多そうで、リリアーナには検討が付かない。

「お后様………念の為に、傷口を確認致します」
「っ!…………解剖をすると言うのですか?」
「……………無事、お返し致します」

 解剖するには意味がある。
 傷口に魔法残渣があるか如何か。
 不審な動きがデュークにあったか如何か。
 殺害した誰かなら逃げようとしたのか、しなかったのか、探せそうな物ならば、遺体でも探そうとしているのだろう。

「なりません!デュークをこれ以上愚弄するのは許しません!」

 后が泣いて、デュークの亡骸を守ろうと両手を広げる。
 それに真似てシャルロッテも反対側から守りを固める。

「お后様………愚弄する訳では……もしかしたら何かがデューク様から分かるかもしれぬのです」
「分かってます!…………それでも………この子が死しても虐げる様な行為…………わたくしは……」
「后よ」
「っ!…………陛下………デュークを守って下さいませ!」

 牢獄の検証を終えたのか、グリードが国王と医務室へと来る。

「…………調べて貰おう」
「へ、陛下!」

 苦しそうに声を絞り出して、目が赤く充血した国王も泣いたのだろう。
 国王は解剖を許可を出す。

「何故です!これ以上この子を辛い目に遭わせたくないですわ!」
「……………呪印を遺したかもしれん」
「……………え?」
「今わの際の言葉をデュークから聞き出すのだ」
「は、犯人が分かると?」
「……………そうだ」

 それを聞いた后は腕を下ろす。

「お母様………」
「シャル………調べて貰いましょう……身体は……綺麗に戻れるのですか?」
「……………お戻し致します」

 今わの際に、無念の死を受けた者は時々呪詛を残す事がある。
 その形跡がデュークの遺体の下で見つかったのだ。

「呪印?」
「牢獄でデュークが倒れた時、印を結んでいたんだそうだ………強い念だと、幾ら拘束で魔法が使えない状況でも、暴発に近い魔力を発する。死に近付いていたから暴発にはならかったが、床には残渣が残っていたよ」
「…………分かるといいな……」
「見つけるさ……絶対に……」

 幾ら、不幸な身の上の王子だったとしても、この国王夫妻や兄妹は、デュークを愛していた。
 全ては、差別の目を向けた者達からの心無い言葉で、デュークは闇に落ちて、最後迄救い出す事が出来ない、一生悲しみの中に生きる家族を見てしまったリリアーナだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王
恋愛
「婚約破棄だ、この魔女め! 役立たずめ! 私は真実の愛を見つけた!」  要約するとそんなようなことを王太子に言われた公爵令嬢ジョセフィーナ。  従妹のセシリアに黒魔術の疑いをかけられ、異端審問会に密告されて、とんとん拍子に海に沈められそうになった彼女は、自分が何かの陰謀に巻き込まれたのだと気づく。  命からがら、錨泊していた国籍不明の船に逃げ込むも、どうやらそれは海賊船で、しかも船長は自分をハメた王太子に瓜二つだった! 「わたくしには王家を守る使命がございますの! 必ず生き残って、国に帰ってやりますでげすわ!」  ざまぁありです。(教会にはそれほどありません) ※今気づいたけど、ヒーロー出るまで2万字以上かかってました。 (´>∀<`)ゝゴメンね❤

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

竜槍陛下は魔眼令嬢を溺愛して離さない

屋月 トム伽
恋愛
アルドウィン国の『魔眼』という遺物持ちの家系のミュリエル・バロウは、同じ遺物持ちの家系である王太子殿下ルイス様と密かに恋人だった。でも、遺物持ち同士は結ばれない。 そんなある日、二人の関係が周りにバレて別れることになったミュリエル。『魔眼』を宿して産まれたミュリエルは、家族から疎まれて虐げられていた。それが、ルイス様との恋人関係がバレてさらに酷くなっていた。 そして、隣国グリューネワルト王国の王太子殿下ゲオルグ様の後宮に身を隠すようにルイス様に提案された。 事情をしったゲオルグ様は、誰もいない後宮にミュリエルを受け入れてくれるが、彼はすぐに戦へと行ってしまう。 後宮では、何不自由なく、誰にも虐げられない生活をミュリエルは初めて味わった。 それから二年後。 ゲオルグ様が陛下となり、戦から帰還してくれば、彼は一番にミュリエルの元へと来て「君を好きになる」とわけのわからないことを言い始めた竜槍陛下。 そして、別れようと黒いウェディングドレスで決別の合図をすれば、竜槍陛下の溺愛が始まり…!?

高級娼婦×騎士

歌龍吟伶
恋愛
娼婦と騎士の、体から始まるお話。 全3話の短編です。 全話に性的な表現、性描写あり。 他所で知人限定公開していましたが、サービス終了との事でこちらに移しました。

処理中です...