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 デュークに連れ出されたリリアーナ。

「……………っ!……此処……何処?」

 気が付いた時、身体がゴツゴツした感触があり、正直痛い。
 目を開けても暗く、状況が全く分からないが、ひんやりとした空気に包まれ、遠くから水が落ちる音もする。

「っ…………し、縛られてる……動けないわ………目は慣れてきたけど………此処……岩場?何処かの洞窟かしら………番いの間の様な感じとも違う………デューク様の気配も無いし……一体……」

 分析する事が先で、自由の効かない身体なのは、デュークがリリアーナの身体を縛ったのだとは直ぐに分かった。
 問題は、場所が何処で、デュークの姿が無い事だ。

 ---デューク様が居ないなら、逃げたい所だけど、出口が分からないわね………洞窟なら魔獣の住処の可能性もあるし………グリードが私の気配を察知してくれると良いんだけど………それにしても………キツく縛られてて痛いわ………身体も尖った所の上に寝転がされて痛いし……

 ドラヴァール国内であれば、グリードはリリアーナの場所が分かる筈だと、リリアーナは思っていた。
 思念をグリードに送り続けていたが、グリードからの反応は無い。

 ---グリード!私は此処よ!場所分からないから見付けて!

 何度も強く思い送り続けても、グリードを感じなくなっていた。

「…………まさか、私………防御壁掛けられてる?…………でも、グリードの防御壁もあるのに、グリードが気が付かない訳ないし………っ!…………縄なの?……食い込んで痛い……治癒………を………そ、そうだわ………ブライト達は無事かしら………私はこんな所に居ちゃいけないのに!」
「大人しく捕まってる事も出来ないのか?」
「っ!…………デューク様!」

 何処からともなく、声が聞こえ、その声がデュークだと直ぐに気が付いた。

「グリードが知らない場所だと言っておく………お前は此処で野垂れ死にする運命にしてやる」
「勝手に人の運命を貴方が決めないで下さい!グリードは私を見付けるわ!」
「如何やってだよ………此処はグリードには知らない場所だ」
「……………貴方が知らない方法よ」

 思念を送り合える事を、デュークに話て良いものか如何か、と考えても、言わない方が良い、と直ぐに結論付けれた。

「どんな方法だろうと、見付かりはしない………お前を縛ってあるのは、魔法抑制の魔具で、お前は今魔法も使えないし、強力な物だ。此処ら一帯にも防御壁を掛けてあるからな………番いのお前さえ居なければ、グリードの子は産まれない。今、もし孕んでいてもお前は此処で死ぬし、意味も無いだろ」
「そんな事したって、貴方が王になれる訳ないじゃないの!」
「お前が死んでからの事に、俺のこれからの事を言って何になる………お前は気にせず死んでいけ…………このままな……もう、俺は城に戻るとするか」
「グリードに尋問されて終わりよ!」
「心配無用だ」

 デュークはそれだけリリアーナに言って、転移魔法陣で消えた。
 暗闇で、デュークの顔も見えはしなかったが、自分の計画で上手く行くと思っているのだろう。
 リリアーナを馬鹿にした態度、見下す態度は相変わらずだが、声色は明るかったので、思い通りに事が進むと思っているに違いない。

「あっ!逃げるなぁ!馬鹿ぁ!阿呆ぉ!」

 幾ら怒鳴っても、デュークはもう居ない。
 ドラヴァール城に戻って、デュークが何をするのかも分からないが、グリードを排除する事だけは分かる。

「グリード!助けに来て!私の声届いて!」

 大声を出して呼んでも来ない。
 寂しいし、痛いし、ムカつくし、もどかしいし、でリリアーナはパニックで、涙で視界も見えない。
 魔獣の餌になるのも、野垂れ死にも真っ平ごめんだ。
 魔獣も来ず、野垂れ死にしなくとも、生きている時間が長かったら、思念で繋がらない不安が、リリアーナの精神を壊してしまうかもしれない。

「ヤダぁぁぁぁぁ………グリード………身体……動かせれば………」

 魔具の縛り方は厳重で、手足に胸から太腿迄ぐるぐる巻きなのだ。
 這いずって移動するにも、身体中傷だらけにもなる。
 動くなら痛いとは言っていられない。

「もぅ!食い込んで足も曲がらないじゃないの!」

 リリアーナはジタバタするしかなす術無しだった。
 一方のドラヴァール城では、一斉にリリアーナ捜索隊を編成し、グリードは準備をしていた。

「銀竜だけでなく、赤と青の騎士も捜索隊に加える!赤竜は団長のデュークも捜索し、確保しろ!良いか、拘束するんだ!」
「グリード様、俺も捜索隊に加えて下さい!」
「ロブ?まだ休暇与えていただろう」
「いてもたっても居られませんよ!」
「分かった、頼む」

 騎士が集まってリリアーナ捜索の計画を練っていたグリードに、朗報が舞い込んで来た。

「グリード様!デューク様が見付かりました!」
「何だって!」

 デュークは素知らぬ顔をし、ドラヴァール城内に帰って来た所を発見されて、騎士団の訓練場に向かっていた。

「デューク!リリは何処に居る!」
「…………騒がしいですね、兄上………何かありました?」
「ありました?じゃない!お前がリリを連れ去った、と目撃情報もあるんだ!」
「気のせいではないです?誰がそんな戯言を?」
「戯言だと?………お前がリリとゴドム伯爵令嬢とのお茶会に忍び込んでいたのを、あの場に居た者達は確認しているんだ!」
「っ!」

 グリードはデュークの胸ぐらを掴み、今にも首を絞める気を見せていた。

「グリード様!落ち着いて下さい!」
「たかが、女1人所在が分からなくなったぐらいで大袈裟な………俺は知りませんよ。義姉上が何処に居るかなんて……」
「知らないとは言わせないぞ!」
「知らないものは知らないんですよ………放して下さい………捜索するなら、赤竜を使うのは止めて下さいね………俺は首を絞める様な兄上に従う義理なんて無いので」
「デューク!」

 デュークにグリードは腕を払い退けられ、赤竜騎士団の騎士達を引き連れて行ってしまった。
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