魔力を封印された女の解呪はまぐわいでした※新婚編※【完結】

Lynx🐈‍⬛

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25 *番外

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 ドラヴァール国首都の城下街のとある邸。
 隠れる様に、その邸の玄関の扉を叩く影があった。

「…………お、お待ちしておりました……中に主が居られます」
「……………」

 中から開いた扉には、その人物に怯えている様子。
 頭から顔を隠して邸に入る人物は、中に入ると頭から被っていたフードを剥がす。

「早く案内しろ」
「は、はい………此方でございます」

 玄関から直ぐの扉を侍従がノックし、部屋の中に居る主に声を掛けた。

「お約束の方がお見えになられました」
『…………どうぞ』

 部屋の中からか細い女の声。
 返事があると、直ぐに扉が開けられ、入り口に背を向けた女が立ち上がった。

「ほ、本日は私の様な者とご面会頂く事に、至極喜びを感じます………」
「ふん………心にも無い事を………」

 女はドレスの裾を摘み、一礼し所作の美しいカーテシーを披露した。

「後は私がおもてなしするから下がりなさい」
「で、ですが………」
「今日の事は忘れて貰わねばならないの、分かって頂戴。これは他言無用よ」
「は、はい………失礼致します」

 その間に、女が座っていたソファの向かいにドカッと座る人物は、腕と足を組み、目の前のテーブルに行儀悪く足を乗せた。

「申し訳ございません………お紅茶で宜しいですか?」
「要らん…………早く話を終わらせ、早々に退散する」
「は、はい…………失礼致しました……あの、私に何用でございますか?デューク様」
「……………お前にチャンスをやろうと思ってな………コレをリリアーナに飲ませろ」

 人目を憚って、とある邸に来て早々、デュークは服の中から小瓶を取り出し女に見せた。

「リ、リアナ様に………ですか?………コレの中身は一体………」
「お前が気にする事はない………リリアーナを排除し、グリードの番いになりたいのだろう?コレはその手助けにすぎん」
「……………如何やって……」
「それは、お前が考えろ………中身は無味無臭。飲めばリリアーナを排除出来るとだけ言っておく」

 女は恐る恐るその小瓶を手に取り握り締めた。

「飲ませれば、私がグリード様の番いに………」
「お前は、リリアーナと親しげにしている女の1人だ。あの女もお前には警戒心は薄れる。紅茶にでも、菓子にでも入れて、リリアーナの口に入れろ………そうすれば、あの女は自分から自滅する………そして、グリードはリリアーナを見限るだろう」
「それで、私がグリード様に接近すれば良いのですね?」
「…………慰めてやれば、グリードも責任は取るのではないか?…………世間では、グリードやリリアーナに非難が集中する筈………廃嫡に迄ならないだろうが、王太子は廃位になるかもな………それでも良いなら、お前がグリードの番いになろうとも、俺はお前にもう接近はしない。勝手にしろ」

 この女が、王太子の后になる事に執着しているのなら話は変わる。
 だが、デュークはこの女が、その地位に執着していない事ぐらい、調べはついていた。

「グリード様は廃位になるのですか?」
「さぁな………可能性で言っている。国王がグリードに王位継承権を与えたままになるかは、リリアーナを排除してから、お前の動きに掛かっているんでな」
「…………質問しても宜しいですか?デューク様」
「何だ」
「リアナ様を排除、と申されましたが、をコレでする、という事なのでしょうか………彼女は、一応私を友人と見ておりますし………」
「リリアーナには効かないのは立証済みだ………コレは毒ではないから死なん。俺が飲ませても良いが、あの女は俺を警戒しているからな…………飲ませる時、俺に知らせれば良い」
「毒でなければ一体………」
「詮索するな………お前はグリードを手に入れる事だけ考えろ」
「…………わ、分かりました……」

 女が了承すると、デュークは立ち上がる。
 本当に、その小瓶だけを渡しに来ただけとみえる。
 再び、顔を隠したデュークは女に目もくれず、部屋を出ようとした。

「急の呼び出しに、よく応じたもんだな………こんな邸迄所有しているとは………お前の父親の邸は別の場所だろう?」
「……………私が相続予定の邸です……私が結婚をいつまでも渋っているので………グリード様に嫁げなければ、結婚等したくありませんから………」
「純愛を通すのも結構だが、サイモン公爵令嬢の様な性悪さより厄介な性格だな、お前」
「フローレス様と一緒にしないで下さい………あの方の様に、私は強くありません………腰巾着の様に生きる事しか出来ず、いつまでも番い候補に縋った身です………」
「……………フローレスは馬鹿なだけだ。ピーピーと騒ぎ、自己主張が激しいだけ………その点お前は目立たず、リリアーナの傍で存在感を出し、グリードもお前を知っている。警戒心無く近づけ、尚且つグリードが欲しいお前がうってつけだった………グリードを手に入れたら、ひっそりとこの邸に住まわせてやれ、サーシャ」
「…………そうなると良いですけれど……」

 デュークがやっと女の名を出すが、面会時間は終わる。
 夢をサーシャに見させるだけ見させて、デュークは今度は何をしようとするのかは、サーシャには教えもしなかった。
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