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しおりを挟む午後になり、グリードが会議室へと行ってしまった執務室。
この日、ドラヴァール国の翌年の予算分布の会議をする事との事で、リリアーナは参加は出来る立場ではなかった。
リリアーナは次期后という立場から、リリアーナの直属の上司は、グリードの母である后となる為、今後は后の補佐を担い、后としての役割を教えて貰わなければらない為、后に割り当てられる予算分布後の事を先ずは覚えなければならないので、リリアーナに会議に参加する権利は無かった。
それでも、国政の事を覚えていかねばならず、リリアーナは1人、グリードの執務の事務処理を手伝っていたが、それでも済んでしまうと暇となる。
「…………暇になっちゃった………って言っても他にする事は思い付かないしなぁ……」
思い付いても、侍従達の手伝いしか思い当たらないリリアーナ。
王太子の妻になったリリアーナが、侍従の仕事をする事は、立場上あってはならないだろう。
10年の月日の生活習慣はなかなか脱ぎ去る事は難しかった。
「…………散歩でもしよっと……」
結局、何も思い付かずに執務室の扉を開ければ、リリアーナ専属の護衛騎士のブライトとロブが廊下に待機している。
「リリアーナ様、何方に」
「グリードから頼まれた仕事が終わっちゃって、他にする事が無いの。だから、部屋に戻るか散歩しようかな、て」
「了解しました。でしたら、今朝デューク様より、ロブが手合わせしたい、と再び申し出があったものですから、リリアーナ様見学等如何でしょう?」
「手合わせ?………あぁ、昨夜デューク様からロブに誘われた………」
ブライトからの提案は意外だったが、リリアーナの暇そうな顔で、軽い提案ではあったのかもしれない。
あの場にリリアーナも居たのも知っているブライトだから、リリアーナも気にしているとも思ったのだろう。
「はい………我々は、リリアーナ様の行動で動きます。なので、リリアーナ様が何もする事が無い、とお困りならば、気を紛らわせるには丁度良いか、と………訓練場にリリアーナ様が居られたならば、我等銀竜騎士団は護衛しやすいですし」
「…………うん、それなら見させて貰おうかしら………ロブが良ければ」
「俺は良いに決まってるだろ。俺の勇姿を見せてやる………って言いたいんだけど、相手はなぁ………」
感知能力もあるロブが不安視するのは、リリアーナも理解している。
リリアーナ自身も、ロブはデュークより魔力は弱いと感知しているからだ。
「強い人だとしても、弱い人だとしても、経験を積むべきよ、ロブ!怪我したら、私が手当てしてあげるから、安心して」
「安心して、ってよ………リアナは薬作るだけで、魔力は………って………あれ?いつの間にそんな魔力………」
「ふふふ…………私の魔力は元々、このぐらいなのよ。グリードとの婚姻で使える様になったの………治癒魔法は任せて」
10年間、自分の魔力を全てグリードの為に使ってきたリリアーナ。
ロブもその時の魔力のまま、感知せず気にもしていなかったのだろう。
目の前で、リリアーナから治癒魔法が使える、と聞かされたロブは、改めてリリアーナから漲る魔力を感じた様だ。
「……………け、結婚したからって、そんなに急に魔力が上がる訳無いだろ!」
「訳があるのよ………まぁ、その事はまた改めて話せるか如何かは確認するけど」
封印の事を第三者に言えるのかは、リリアーナは勝手に言えるとは思えず、濁すしか無い。
廊下を歩きながら会話をしているので、誰かに聞かれても厄介な事他ならない。
すると、前方からデュークが騎士団長の姿で歩いて傍にやって来るのをリリアーナは見つけた。
「何だ………元気そうじゃないか義姉上」
昨夜の事を悪びれる様子も無く、デュークは不敵な笑みを浮かべている。
「デューク様………何用でしょうか……会議中ですが、ご出席しないのですか?」
「…………俺が出れると?予算案の会議に出れる権限は無い」
「リリアーナ様、本日の会議には、騎士団統率者のドラクロワ公爵閣下が出席されているのです」
「…………あ……そうなのね……失礼を」
各部署の統率者が代表して決める予算案の会議に、責任者が出るだけでかなりの人数になるからか、騎士団統率者のドラクロワ公爵の部下になる各騎士団長迄行く事は無い、という事らしい。
「だから、だ…………昨夜言っていた事をしようじゃないか………其処の新人騎士との手合わせをな」
リリアーナの後ろに控えていたロブを指差すデューク。
訓練の一貫としての手合わせは、他の騎士団同士もある様なので、当人同士が良ければ成立する。
「ブライト、ハーヴェイの許可は出ているの?」
「模倣剣での手合わせなら、とは許可は出ています」
「つまらんな、模倣剣なぞ」
当人同士が良ければ成立する手合わせだが、基本的に刃のある剣の使用は訓練では禁止されている。
実技的な戦闘に備えて、心身共に鍛錬するのを目的とした訓練であるからだ。
それを、デューク率いる赤竜騎士団は、実技的な戦闘こそ、己の力を引き出せるとし、ドラクロワ公爵の意志に反していた。
第二王子であるデュークに強く言えない立場もあり、ドラクロワ公爵の悩みの種ではあるらしい。
おかげで、赤竜騎士団の怪我人は多いのだ、とリリアーナは帰郷して知った。
「私からも模倣剣での手合わせでお願いします。ロブはまだ入団したばかり………騎士として未熟者ですから。その代わり、模倣剣でも手抜き無しでロブを鍛えて下さい」
「お、おい………リアナ………ぐっ!……様……」
「呼称を付けろ!ロブ!」
刃のある剣を使われたら、ロブは大怪我するだろう。
リリアーナが知る限り、ロブは武器を使うより魔力だけで魔獣討伐をして村を守っていた。
しかし、騎士団は魔法だけでなく、武器に魔力を込めて戦う戦術を覚えていく。
武器を使う事で、殺傷能力が高まるからだ。
「だって、ロブは武器の扱いに慣れてはいないでしょ?一応持って討伐に行ってはいたけど、魔法と武器は別で使っていたし」
「…………そ、そうだけど………よ……言い過ぎじゃね?遠慮しない、ていうか………」
「私が貴方に遠慮をしないのは、いつもの事じゃないの。甘やかす事だってしないでしょ?」
ロブだってプライドがある。手合わせで手抜きされるのも嫌だろうし、ロブの戦法をデュークに教え兼ねないリリアーナの言葉に、ブライトに抓られた腕を擦りながら、不服そうな顔をしていた。
「実力差は分かりきってるんだぞ?手抜きするな、て言わないでくれよ。俺のプライドってもんが………」
「何言ってるのよ。貴方より強い魔力を持つ人が、騎士団にどれだけ居ると思ってる訳?貴方と等々の人が大勢居るんだから、経験積まないとね」
せっかく、リリアーナの護衛に付いたのだ。早く強くなって貰わなければならない。
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