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しおりを挟むドラヴァール城内の数ある食堂の一室。
リリアーナはグリードと並び、グリードの前にデュークが座った食卓で、デュークが持って来た酒を飲みながら、晩餐をしていた。
先に食事を済ましたロブやブライトは、リリアーナの背後に離れて立っている。
「改めて、義姉上ご帰還おめでとうございます」
「ありがとうございます、デューク様」
グラスが重なり合い、口元にグラスを運び、芳醇な香りが立つ酒を嗜むリリアーナ。
「……!……美味しいです……魔力が込められてますね」
「………本当だな………」
「気に入って頂けました?最近の俺のお気に入りなんですよ、この酒」
3人で喉を潤し、リリアーナはグラスを置いた時、後ろからポソッ、とロブが羨ましい、飲みたい、美味そう、と呟いたのが聞こえ、リリアーナはロブらしい呟きと思い、思わず吹いた。
「…………義姉上は随分と、その護衛と仲が良いのですね」
デュークが見逃さず、聞いて来る辺り、リリアーナの部屋の前の時の事を見ていたのかもしれない。
「彼は最近、銀竜に入団した騎士ですよね、兄上」
「あぁ………ロブは、リリが10年間、隠れ住んでいた村の出身なんだ……リリの信頼もあり、騎士の見込みがあるから、その場でハーヴェイに入団試験をさせて、合格したから連れて来た………心配はしなくて良いぞ、ロブには恋人が居るからな」
「何の心配です?兄上………あぁ、兄上の嫉妬ですか………しませんよ、兄上が認めた男なんでしょう?………だが、ハーヴェイの試験に合格したのなら、是非とも俺とも手合わせして欲しいものですね」
「如何する?ロブ」
「俺と、赤竜騎士団の団長とですか?ま、負けますよ!グリード様にも勝てる気もしないのに………ハーヴェイ団長のマントさえ、傷付けられなかった男ですよ!」
「…………ロブ、それは騎士団に入団したら、言ってはならない言葉だ。もし、リリが攫われてブライトが傷付き倒れていたとして、動ける者は君だけだとしたら、そんな事は言えるのか?」
「っ!…………い、いえ……分かりました!手合わせお願いします!」
力の差はロブには分かっていて避けたい事が、覚悟が足りていない、とグリードに思われてしまった様だ。
リリアーナの護衛に喜んでばかりではいられない、と教えたかったのだろう。
「じゃあ、明日にでも頼むよ、ロブ」
「は、はい!お願いします!」
「デューク、最近の魔獣討伐は忙しくないのか?」
「大した事はありませんよ、兄上。俺に掛かれば、利き手1本で捻り潰せる程度です」
「お前はそうかもしれないが、部下達は違うだろう?」
「弱腰の騎士等、赤竜には居ませんよ………何処かの団長の騎士達と違って………」
何方の騎士団の事を指しているのかはリリアーナには分からない。
デュークの棘がある言い方には気になったが、直ぐにデュークにより、話をすりかえられた。
「食事中に、魔獣討伐の話等、女性に聞かせるものではないですよ、兄上」
「あ………そうだったな、ごめんリリ」
「私は気にしないわ………住んでいた村には魔獣の出没多かったし」
「…………多い場所、と言えば………イマリルダ山脈は多いですが、義姉上は其方に居られた、と?」
「…………えぇ、山脈の麓の村に……」
「そうですか………でも、何故そんな辺境の地に?危ないでしょう」
「……………デューク、それは竜の王のお考えだ。リリには知る由もない事だから、聞いても分からない」
「っ!」
「……………」
空気がピリッ、と氷付く様だった。
グリードに村に追いやられた訳ではない、と分かる。
リリアーナも竜の王の事情は、グリードや国王、后としか話せない。
「…………俺には、竜の王に関する事は、未だ何も教えては下さらないのですね、兄上は………父上も母上もそうだ………俺も竜の王からの血脈なのに………」
「仕方ない事なんだ………第1子しか伝来出来ない仕来りで………」
「聞き飽きました、その言葉……それを言えば俺が黙ると思っているし、実際俺も兄上達から聞き出せない…………何なんですか?俺の価値は………」
「デューク…………すまない」
「……………謝るなら、俺にも権利くれませんかね?」
酒が回って、デュークは悪酔いしている様に見えた。
今迄、溜め込んできた不遇の運命のデュークはずっと苦しんでいる事は、リリアーナもグリードも知っている。
王籍で産まれて来ても、継承権もなく、王籍離脱し、臣下に降るしかないし、後援もないデュークには結婚相手になりたい令嬢も居なかった。
「権利?」
「王位継承権ですよ………竜になれるから、て継承権を与えられる兄上とは違い、俺は兄上以上に鍛錬してきたんだ……力も互角だろ?」
「私が決める事ではないよ………悪いが、その話は平行線になり交わらない。継承権がお前にあったとして、私は引き釣り降ろされる程、愚者では無い筈だ」
「…………そう………ですね……兄上………は……」
「っ!」
リリアーナはただ、話を聞いていたが、デュークがリリアーナを見た事で、デュークはリリアーナを認めてはいない、と直感する。
「デューク………リリも引き釣り降ろされる様な愚者ではないぞ………お前がリリを嫌っているのは私が知らないとは思ってはいないだろう?」
「嫌い?…………フッ……好き、とか………嫌い……とか………そんな感情………ありませんよ………どっちが……排除すれば道連れになる関係を崩すのは、楽しいだろうな、と思っただけです………そうしたら、俺は王位になれる……と思いません?」
「お前…………何を言っているのか分かっているのか!デューク!今の言葉、撤回しろ!」
「…………しませんよ………兄上は、この女の所為で変わってしまった………今日は宣戦布告に来たんで…………最後に兄上と酒を酌み交わしておきたかったんです………この女にも聞かせてやろうと思って、場を作っただけだ………じゃあ、せいぜい胡座をかいて、見ていればいい………その内、兄上は俺の足元に跪くでしょう………今から楽しみですよ」
デュークが食事途中で席を立つと、そのまま食堂を出て行ってしまった。
グリードはデュークを止める事はなく、ただ固まっている。
一方的に、弟と仲良くしたかったグリードには、デュークの不遇は分かっていたのに、取り除く術を見い出せず、あってはならない関係に迄になってしまった様だった。
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