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6 *再会迄
しおりを挟む「此処が………リリの家………」
リリアーナはこの時、隣街に居て留守だという事迄、グリードは察知していた。
「うわっ!狭い!狭いですよ!グリード様!こんな物置にも満たない此処が姉上の家ですか!」
「黙れ、ハーヴェイ………それより何だこれは……花束に………包装された荷物……」
リリアーナの家の防御魔法はグリードが着いた直後、魔力残渣を残す事無く国王が解いた様だった。
「これ、絶対に姉上を口説いてるんでしょうね」
「当然だ、リリを嫌う男は居ない」
「そんなに好かれてる姉上は、グリード様を忘れて他の男に、なんて………」
「あってはならん!私以外の男は排除する!」
「グリード様!落ち着いて下さい!ですが、何故玄関に………」
「父の防御魔法だろう………玄関、窓からリリの許可無くして侵入出来ない様にしてあった………独り暮らしさせねばならなかったから、強盗等の防護策だろう………では、私はこの家に私の防御魔法を掛けておくとするか………同じ様に……後はリリに好意を寄せる男を撃退する魔力を込め…………」
「うわぁ………グリード様、分かってます?魔法で人に危害を加えたら罰せられますよ?」
「防御魔法だ、危害を起こそうとする者から守る術だぞ?序でに、その者の残渣も記録させるか」
「……………桁違い過ぎる……」
魔力を練り込んで防御壁を作るのは簡単な事ではない。
ただ、跳ね返す事は初歩で出来ても、複雑な練り込みは高度な物だった。
「グリード様、これ如何します?処分しておきますか?」
「処分したい所だが、普段と違う状況になるのは避けたい………連れ戻せるか如何かも分からないんだ」
「…………グリード様らしくないですよ」
「悪かったな」
「グリード様!誰か来ます!」
「隠れるぞ!」
ハーヴェイとの会話中、警戒させていた騎士からの言葉にグリードは隠れる事を選択した。
「…………また……本当に懲りないわ……皆……」
家の前で鍵を開けず、足元を見る長い銀髪の女。
それがリリアーナだとグリードには直ぐに分かった。
---リリ!………リリだ!………なんという美しさだ!
「これさえ無ければ幸せなんだけどなぁ……返しに行くのも嫌なのに………」
「!」
隠れてリリアーナを見ていたグリードにはこの言葉は辛かった。
リリアーナは今の生活に満足している様に見えたのだ。
では、贈り物がリリアーナに届かなければ、それで良いのか、とも思いたくない。
[グリード様………如何しますか?]
[もう少し様子を見る]
すると、リリアーナは贈り物を家の中に入れて、直ぐに出て来る。
ワンピースを着ていたリリアーナだったが、出て来た姿は、シャツにスラックス、長い髪は纏めて動きやすさを重視した姿だ。
---なんて可愛いらしいんだ!リリ!項の色気、腰の細さ、スラッとした足の長さ………何より胸が………育った胸に顔を埋めたい!
[グリード様………弟の前で止めてくれません?いやらしい目付き]
手指で会話する合図をハーヴェイとしていたが、グリードがリリアーナを再度見た時の顔が、ハーヴェイに考えている事がバレた様だった。
[良いから、尾行するぞ!]
[了解]
何をするのかを確認したかった。
魔獣が蔓延る森に入って、無事で居てくれたら良いと思うが、この生活を普段からしていたのなら、もう安心出来なかった。
---私のリリの中にある魔力で、防御魔法は掛けてはいたが、もう少し強固にしておいた方が良さそうだな………
リリアーナが薬草採取をしに来たと分かり、浮気でなかった事にも安堵し、ハーヴェイに合図を送った。
[リリに顔見世してくる]
[俺も行きます!]
[駄目だ]
ハーヴェイを連れて来なかった方が良かったかも、と思ったグリードだが、ハーヴェイ程信頼出来る部下は居ない。
魔力も信用度もずば抜けているからだ。
そうこうする内に、グリードは気配を徐々に出して行った。
鳥の囀りは止まり、魔獣がグリードに警戒して恐怖を与えて行くと、リリアーナも気が付いたらしい。
リリアーナがグリードの居る方を見据えたからだ。
「へぇ~、気が付いてくれたのか」
「っ!…………だ、誰!」
木の幹に隠れていたグリードは、その姿をリリアーナの前に表した。
警戒心丸出しのリリアーナは、グリードの記憶にあるリリアーナではなかった。
緊張、怯え、その言葉しかリリアーナからグリードに伝わっては来ない。
---リリ………やはり私が分からないんだな……
国王の言葉を理解した。
それがグリードには悲しかったのだ。
リリアーナはグリードに会えば、直ぐに駆け寄って来てくれる筈だ、と安易な考えだったのだ。
例え記憶に無くても、本能で気が付いてくれるのではないか、と。
「やっと会えたな………リリアーナ」
「……………人違いでは?………私はそんな名ではありません」
「……………あぁ、そうか……まだ封印中だったな………リアナ………そうだった……」
封印というのは厄介な物だ、と突き付けられる。
よく顔を見ようと距離を縮め歩き始めると、リリアーナから怒鳴られてしまった。
「ち、近寄らないで!お願いですから!怪我の保証しませんよ!」
「プッ…………怪我?私に怪我を負わせるとでも言うのか?…………無理だよ、リアナ……私には一太刀も傷付ける事は出来ない………説明したいから、近くに行くよ?警戒心は解かなくても良いが、話だけはさせてくれないか?」
グリードは思い付く限りの、初対面らしく話をした方が良いのだ、と気持ちを切り替えるしかなかった。
「……………話だけです!其処でして下さい!」
「……………分かったよ………だが、其処に座らせて貰うが良いかな?」
木々の間に岩場を見つけたグリードは、岩場を指して立ち止まる。
其処の影にハーヴェイも居て、ハーヴェイからリリアーナが見やすいし、様子が分かるからだった。
別に座らなくても良かったが、攻撃する意図は無い事だけは分かって欲しい。
「……………良いでしょう……」
「武器は剣を持っているが、危害は与えない証拠に、此処に避けておくよ………魔獣が住む森だから、一応の武装だと思っておいて欲しい」
「はい………」
やっと、番いに会えたのだから、少し話をしよう。
それから少しずつ今のグリードに心を開いて欲しい、と願って。
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