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3 *思春期
しおりを挟むグリードに思春期が始まると、魔力の制御が再び難しくなってしまった。
性欲も加わって来た事で、昂ぶりが魔力の暴走に繋がったのだ。
グリードの性欲の捌け口は、リリアーナに必然的になり、リリアーナの身も危険が及ぶ可能性も出て来た。
「離れるんだ!リリ!」
「い、嫌よ!だって辛そうなグリードを見ていられないもの!」
「っく………お願いだ………落ち着かせてみせるから、今は離れて……」
その頃になると、グリードは番いの間に身を潜める様に閉じ篭っていた。
番いの間のある洞窟は、魔力を溜めてくれる霊山でもあり、竜の魔力を持つグリードと相性は良い。
「そろそろ、決断の時が迫っている」
「…………陛下……それは、竜の王になるべく為の番いへ封印が近い、という事でしょうか」
「…………そうだ……日に日に増す制御不能の年頃に、リリアーナに協力して貰わねば………」
議会の間で、グリードの番いのリリアーナに、グリードと魔力の保持をし、一時グリードの魔力を減らすのだ。
減らしたからと言って、竜の血脈の魔力は、人間に匹敵しない程の魔力だ。
「異議ございます、陛下」
「サイモン公爵……何だ?」
「些か、番いと仰る令嬢では、難があるかと思うのですが………」
「何故そう思う」
「まだ10代前半でしたな?ドラクロワ公爵の令嬢は………若過ぎやしませんか?」
反対したい気持ちは、番い候補から外された家の者なら分かる。
グリード本人が選んだリリアーナなのに、納得しないのだ。自分の娘以外の娘は。
それ程、竜の血脈に番いを出した家は、その後も恩恵を受けられ、地位も高く、権力や権限も強くなるのだという。
公爵の位を与えられる事もあるので、国政を担う役職を持つ者には、喉から手が出る程欲しいのだ。
なので、過去にドラクロワ公爵家やサイモン公爵家は、竜の血脈に番いを出していた名門中の名門。
余程の事が無い限り降位はあり得ない。
「その点、我が娘フローレスは、純粋にグリード様を愛し、魔力も高く、聖魔法を得意としており、グリード様とは歳も近いではありませんか」
「グリードを愛しているから、という理由だけでは、番いには出来ぬ………それに、リリアーナも聖魔法の持ち主で、魔力も高く、今迄もグリードの魔力を制御しておった………知らなかったのか?」
「っ!………そ、その様な事、初耳ですぞ!陛下!」
「グリードとリリアーナを見ていれば分かる事だ。グリードが精神が揺さぶられる度に、リリアーナが抑え込んでいたのを」
邪な目で見ていたのではないか、と国王に続けられた。
元より、番い候補さえも挙がらなかった貴族達は、その時点で諦めが付いていて、頷く者も多い。
しかし、一度でも候補になった家は、夢見てしまう、私利私欲の塊だ。
次は、その次代の番い候補を狙うしかなく、その時になったら、世代交代になってしまうからだ。
「くっ………し、しかしですな……」
「しかしも、だからも無い………それで、リリアーナに害を与える事も許さぬからな?」
こうなる事は見越している国王。
リリアーナさえ居なければ、とリリアーナの生命の危険もあるので、リリアーナが番いと決められた時に、国王の魔力でリリアーナに防御魔法が掛かっていて、リリアーナが狙われても、魔力で弾き飛ばされるのがオチだった。
ドラヴァールで一番高い魔力の持ち主は国王なのだから、敵う筈も無い。
リリアーナがグリードの番いとなり、過去何度もリリアーナは生命の危険に晒されてきている。
実行犯は処罰しているが、主犯格はリリアーナ反対派の家の者達。
何度、リリアーナの事を認めさせようとしてきた国王やグリードだが、例え番いが誰かに変わろうとも、また同じ事が起こる為、認めさせる事を選んでいる。
命令を降した者達は巧妙に、魔力残渣も残さなかったり、魔力を使わなかったりと、実行犯と主犯格の繋がりが出て来る事が無かったのもあった。
「心外でございます。私は陛下やグリード様に忠誠を誓う者。グリード様が悲しむ様な事は決してしておりませんし、する事はございません」
「……………ならば、リリアーナの封印を早急に準備する!異論のある者は挙手せよ!」
リリアーナの封印とは、グリードの膨大な魔力をリリアーナの魔力に抑制させる事を意味する。
グリードの成長と共に、制御出来るようになる力であるので、封印中はグリードには早い制御が余儀なくされるのだ。
そして、共鳴しあう両者には、お互いの魔力で暴走し傷付け合う事を避ける為、リリアーナにはグリードやリリアーナ周辺にまつわる記憶をも封印し、グリードの居ない地で生活してもらう事になる。
まだ、親離れしていない少女に、離れて暮らさせるのは酷であるが、リリアーナは1人で生活出来る知恵も、后教育で身に付けさせられている。
料理、掃除、平民として生きる一般的常識等だ。
そして、聖魔法を使うリリアーナには薬学知識も叩き込まれていて、薬師としての職の資格さえも持たせている。
よって、リリアーナの方は用意は出来ていると言っても過言ではない。
後は、リリアーナの覚悟と、グリードの説得だった。
グリードがリリアーナと別れ離れになる事は、自分が死ぬより嫌な思いをするだろう。
それだけ、リリアーナに執着する盲目的愛情者なのは、出会ってから一寸も衰えていないからだ。
リリアーナには四六時中警護を付けていて、異変があれば一目散に駆け付けに行くぐらい、リリアーナが優先される。
そんな執着をされると普通は嫌がるが、リリアーナは嫌な顔をしても、グリードなら仕方ない、と許している。
リリアーナも大概で、グリードにラブレターが届くのを知ると、ラブレターを贈った主の前で破り捨てるのは当たり前で、それをグリードは喜んで見ているぐらい、リリアーナもグリードしか見ていなかった。
リリアーナ自身は自分が虐げられるのは良くても、グリードに害を成す者には容赦しなかったので、愛情の深さはお互い様である。
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