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2 *幼少期
しおりを挟むリリアーナは后教育の為に、毎日ドラヴァール城に通っていた。
まだ教養も覚えていないリリアーナは城を走っていても、まだ小さいから、と注意する者も居ない。
「ご機嫌よう、リリアーナ嬢」
「こんにちは」
「グリード様でしたら、図書室におみえでしたよ」
「ありがとうございます!」
リリアーナが走る時、必ずグリードを探している、と皆が知っていて、誰に対しても笑顔を見せるリリアーナに、嫌な顔をする侍従は居なかった。
「もう少し、教養を教えては如何なのか………あんな行儀悪い令嬢等、グリード様に相応しいとは思えぬ」
「全くですな、サイモン公爵」
「我が娘のフローレスこそ、相応しい……陛下も見誤っておられる」
その内、リリアーナも下世話な話の理解も出来てはいたが、決して表には出さなかった。
まだリリアーナは言い返せる力が無いのだから、認められる迄頑張りなさい、と教えられている。
「……………」
その場は落ち込むが、直ぐに立ち直る為に空元気で過ごした。
「きゃ!」
「……………何してる」
「デュ、デューク様………ご機嫌よう」
呆然と立ち尽くしていると、両手いっぱいに本を持って歩いていたデュークが気付かずリリアーナを転ばした。
それなのに、デュークは謝罪はしない。
「ふん………ぼうっ、と立ってるんじゃない、チビ」
「っ!」
「俺に姿見せるな!」
「ご、ごめんなさい!」
グリードの番いというだけで、デュークから嫌われていたリリアーナは、この頃から苦手だった。
「ふん!」
「……………っ……ごめんなさい……」
近くにデュークが居ると思うと、リリアーナは暫く動けなくなり、見兼ねた侍従に図書室に連れて行って貰っていた。
「リリ!」
「……………グリード!」
「遅かったね、今日」
「っ!」
「何かあった?」
「何も…………ないよ」
「何があった?」
「それは………」
グリードがリリアーナの変化に気付かない訳はなく、付き添った侍従に目配りさせ、聞こうとするが、リリアーナは止める。
「無いってば!私が迷ったの!」
「…………そう……」
グリードがデュークと仲良くしたいのを知っているから、リリアーナはデュークに嫌われている事を言えなかったし、言いたくはなかった。
告げ口したと思われたら、仲違いさせてしまうのではないか、と思っての事だ。
それだけ、リリアーナはまだ弱かった幼少期であっても、グリードに泣き付く事もしたくなかった。
グリードにバレていても。
「今日も可愛いね、リリ………昨日の続きを勉強しようね」
「うん」
リリアーナは毎日、グリードに褒められる事で頑張ってこれたのだ。
そんな幼少期を過ごしたリリアーナは何年も我慢し、強くならざる得なかった。
「リリアーナ様」
「…………何か?フローレス様」
「そろそろ、退かれては如何?」
「何をでしょう」
10歳になったリリアーナは、后教育も終了間近、とお墨付きを貰える程の才女になった頃、リリアーナは数々の嫌がらせに遭っていた。
「グリード様の番いですわ」
「…………退く理由がありません」
「無い!………ほほほほほほっ!……無い!………笑わせないでよ!」
「…………フローレス様と冗談言う間柄じゃありませんけど」
「冗談なんて言わないわ!貴女がグリード様に相応しくない!て言ってるのよ!ねぇ?皆様」
フローレスは友人という名の番い候補から落とされた令嬢ばかりを集め、同意を得ようとしている様だ。
「相応しいも何も、私はグリードに選ばれた番いなんで」
「は?…………ドラクロワ公爵家の財力と地位に物を言わせただけでしょ!」
「…………はぁ……呆れた……ウザッたいから、失礼しますね」
「逃げるの?」
「相手にしたくないだけよ」
「皆様、ご覧になって!リリアーナ様は、私に勝てないから、逃げるのですって!」
リリアーナを貶す事が、フローレスの価値だと言うならば、リリアーナは言わせておけ、と思って相手にはしなかった。
---認められてないなら、認められる迄頑張るしかないのよ
リリアーナを認めてくれる人が居る以上、頑張る事で結果になる事を、リリアーナは10歳でもう分かっている。
「勝手に言ってろ、馬鹿」
「んなっ!見た?あの侮辱!ガサツで礼儀を知らない女が、グリード様の番いなんてあり得ないわ!」
「…………吠える事しか出来ないから馬鹿だ、と言ったのよ………そんな相手に礼儀を見せた所で、私を手本にしないでしょ?私を侮辱して、私を見ないのだから………グリードに選ばれた私を侮辱する事は、グリードを侮辱した、と思いなさい」
「グリード様に敬称付けなさいよ!無礼女!」
「公式の場以外は、グリードは呼び捨てで構わない、と許可を貰っているので………残念ね、皆様………グリードにその許可さえ貰えなくて」
「キィィィィ!」
リリアーナは選ばれて番いになった、というプライドだけで強く居られた。
其処に、次々と自信を付けて、グリードに愛されて、リリアーナ自身グリードが好きだから、認めて貰いたいのに、こういう輩には幾ら頑張っても伝わらなかった。
「グリード」
「っ!…………リリ………」
「見てたわね?」
リリアーナは物陰から覗いているグリードを感じ取っていた。
「し、心配で………」
「自分で対処する、て言ったでしょ?」
「だが、あの女達は、リリを虐めてるじゃないか!嫌がらせも増えてるのを、私が知らないと思ってるのか!」
「それでも、私はグリードに守られてばかりじゃ駄目なの!あんな人達でも認めて貰わなきゃ!」
「無理だよ………彼女達は………知っているだろ?番い候補から外された………というか、私が外したのだが………それがあの令嬢達なんだから………幾ら魔力が強くても、リリ以上に私の魔力に波長が合う娘が居ないんだから………」
「大丈夫!私はグリードから離れないから!大好きだもん!」
「わ、私だってリリが大好きだよ!リリよりもっと!」
「私の方が好きだもん!」
「いや、私だ!」
何かある度に、好きだと言い合う事で、慰め労っていたリリアーナとグリードだった。
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