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1 *幼少期
しおりを挟む22年前、ドラヴァール城。
「陛下、后様、この度ドラクロワ公爵家に娘が産まれましたので、洗礼を戴きたく、お時間を頂戴し誠にありがとうございます」
産まれたばかりのリリアーナを抱いた、若き日のドラクロワ公爵と夫人は頭を垂れ、玉座の前に居た。
「娘の誕生おめでとう、ドラクロワ公爵………貴殿の娘ならさぞかし愛くるしく魔力の高い娘に違いないだろうな」
「はい、聖魔法を持ち合わせた様でございます」
「ほぅ…………それならば息子グリードと会わせねばな」
「グリード様は相も変わらず、不安定でいらっしゃるのですか?」
「そうなのだ………番い候補の娘達にも合う娘が居らぬ………数人だが、大丈夫ではないか、と思われる娘は居るには居るが」
5歳になるグリードの魔力は産まれつき高く、制御も上手く出来ないのか暴走しがちで、竜と人の変化も自分の意思で繰り返す事が出来ないでいた。
城内で変化してしまうと、城さえ壊しかねない大きさになるので、急務で番いを決めなければならなかった。
「ちちうえ、およびですか?」
小さな身体でジャラジャラと魔力抑制の装飾具を付け、侍従に抱かれた気弱そうなグリード。
人を傷付けてはいけない、と魔法を出さない策が、大人しい王子になってしまった。
3歳下にデュークという弟も居たが、デュークは利発な明るい王子として、将来期待もされてはいたが、竜の変化が出来ないデュークは産まれながらにして、王位は就けない不遇の王子として、侍従に連れられて共に顔を出した。
22年後の2人と比べたら、真逆の様にも見える。
「グリード………此方に」
「ちちうえ~」
「デュークは、其処に居なさい……後でな」
用事があるのはグリードなのだから、デュークは呼んでいなかったのに、付いて来た様だ。
兄を優先する国王に、悲しみを見せるデュークを見て、后はデュークを抱きに行った。
「兄上に御用があるの、ごめんなさいねデューク」
両親は愛情を分け隔てている様には見えない。
国王はグリードを連れ、ドラクロワ公爵の抱くリリアーナに身を近付けた。
「グリード………其方の新しい友達だ」
「……………ともだちはおとこのこ?」
「女の子だよ、顔を見せてあげなさい」
「……………はい……ぼくとおなじ、ぎんいろだ……」
「きゃっ、きゃっ………」
リリアーナはまだ生後半年ぐらいだった。
グリードが顔を覗かせると、リリアーナは笑い、グリードに手を伸ばした。
「……………っ!」
そっと手が触れた瞬間、グリードの身体が反応し、魔力がリリアーナを包み寄り添う様に見受けられたのを国王や后、ドラクロワ公爵夫妻が目にする。
「これは!」
「陛下!」
「なんという相性の良い娘だ!この娘に違いない!グリードの番いは!」
「陛下!本当なのですか!まだリリアーナは生後半年も満たない娘ですよ!」
「ちちうえ………ぼく、このことおともだちになる………まりょく……いたくないの……ぽかぽかあったかい………すき、このこ」
「グリード………そうか!其方も気に入ったか!貴族達に知らせよ!グリードの番いが見つかったと!名はリリアーナ!ドラクロワ公爵の娘だ!」
この時の国王の喜びは例え様のない程にはしゃいだらしい。
そして、番い候補から外れた令嬢の家族達は、反比例して落ち込んだとも噂された。
「リリ!リリ!」
「きゃぁ!」
グリードはリリアーナに会えた事で、気弱さは見せる事も無くなり、魔力も落ち着きを示した。
「可愛いね、リリは………大好きだよ」
「きゃっ、きゃっ」
自発的に、勉強にも取り組み、魔力鍛錬も進んで行なう様にもなれたグリードに、不安要素を見せる貴族も減っていく一方で、利発だったデュークの性格は影を落として行く。
「これで、ドラヴァールも安心ね。グリード様も番いが見つかり、竜の恩恵も続くし」
「ねぇ、ぼくはいつりゅうになれるのかな?」
デュークには、竜になれる父が憧れで、グリードも竜になれる事から、デュークもいつかなれるのだと思っていたのだろう。
「デューク様………」
「デューク様は竜にはなれないのです」
「なれない?ちちうえもあにうえも、りゅうになるよ?」
「竜になれるのは、陛下の最初に産まれた、男の子である、グリード様だけなのですよ」
後先考えずだったのか、侍女達が漏らした、デュークの立場。
子供心に、憧れていた父と同じではない自分に、兄との差を突き付けられて、衝撃だったに違いない。
「デューク!魔力の鍛錬に付き合って!リリが私の姿を見たいって言ってるんだ!」
「…………兄上はハーヴェイとして下さい。僕は1人でします」
2年、3年も経てば、兄弟の扱いの差にも理解して来る。
国王はグリードに王太子としての教えを叩き込まねばならず、デュークにはグリードを支える立場を教えていれば、デュークは益々自分は王になれないのだ、と突き付けられるのだ。
そして、教育自体にも教わる内容も変わって来ると、デュークがグリードに対する接し方も変わってしまった。
「デューク!周りが何と言っているか、私は分かってるが、デュークはデュークで私の弟だし、愛している!父上も母上もデュークに愛情を注いでいるじゃないか!周りが何と言おうと、デュークとは仲良しで居たい!」
「僕は結構です………兄上みたいな綺麗事、聞きたくないから」
グリードは弟と王位に関わる諍いをしたくなかった。
だが、周囲はそれを許さなかった。
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