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器
しおりを挟む天使邸、閑静な住宅街にある天使邸は、近辺では高級住宅に雷蔵と雫、お手伝いさんや、警備員が常駐するが近日中に叔父家族が住む事になったらしい。雫の父が亡くなり、雫が皇家に嫁ぐ迄は、例え従弟でも近くに居させたくなかった雷蔵の考えで、近隣ではあったが、別居していた親子。この日は、叔父家族も呼んだというので、雫、弥、尊、祖父、叔父家族で報告がてら今後の事を決めなければならない、と雫は説明された。
「雫が開花した、というのは本当か?」
「はい、腰にほぼ一面に桜の痣が」
「………一面、だと?」
雷蔵の驚きは、蒼白に近く、叔父の雨月も雷蔵程ではなく驚きを隠せない。
「雫ちゃん、見せてもらっても?」
「………は、はい、叔父様」
ワンピースのボタンを外し、雫は立つと、天使家の家族に見せた。すると雷蔵は、用意していたのだろう、書物を開く。
「………桜模様の痣とは聞いてはいたが、雫の様な痣だったとは書いてはいない……」
開花、と雷蔵は言ったが、何故開花というのか弥も尊も分からない。
「開花、とは?」
「………天使家の異能の力でな……他家の異能を産む為に、蓄える力があるのだ……だから古来より、天使家の娘を嫁に望まれるケースが多い。」
「蓄える?………どうやって……?」
「……雫ちゃん、腰を隠しなさい………独身でまだ若い雷斗には酷だ」
弥の質問を答える前に、叔父の雨月の横に座る雫の従弟が顔を赤らめている。弥も尊も雫からの香りにくらくらしてはいたが、祖父や叔父、叔母には影響は無いようだ。雨月が雫に痣を隠す様に頼むと、雫はボタンをとめる。
「あ、はい………ごめん、雷斗君」
「…………だ、大丈夫……」
「蓄える、というのは主に伴侶となる男から貰う精力だ」
「……………だから、卵巣の辺りが色濃いんですか!?」
「書物で、痣の開花は何件か確認されてはいるが、流石に絵も残されてはいない。女が人に肌を見せる機会等、子作りぐらいだからな………皇家には絵ぐらい残っているかもしれんが」
「それが、無いんですよ……なので、天使家に聞きに………」
「……………そうか……だが、天使家の嫁ぎ先はほぼ皇家だ。嫁いだ娘達が、結婚後開花する事はあった筈。天使家にある書物は、開花した娘が、実家に何なのか、と聞いてきた為、調べたようなものだからな」
「でも、器、と……何なんですか?」
弥の質問に、雷蔵はひと呼吸置き、雫の顔を見ると口を開く。
「弥君、尊君……皇家の異能の力は何か知ってるか?」
「…………確か、先読み、だと…」
「そう…………だから、天使家は皇家に娘を託すのだ。天使の娘が産む子は、皇家の異能の力。そして皇家を発展させてきた。皇家が天使家を求む限り、天使家は衰退させれんし、その天使家の異能の力を皇家からはかなりの恩恵を受けている。先読みの異能を産みだす為に、天使の娘は皇家の当主の力を蓄える器なのだよ………精力を娘に注ぐのと、娘自身がその行為や夫の気持ちを受取り、返す気持ちがあると開花し、尚且つ痣が濃ければ濃い程、繁栄すると皇家から聞いている」
「…………精力を注ぐ、て肉体関係、て事だよな………?」
「み、尊!!」
祖父や叔父家族の前で、言ってほしくなかった雫。雫の男関係には厳しい祖父には聞かせたくない。
「雫、私は弥君と尊君なら、いい、と言っていたが?婚約者であるしな………2人から愛されておるのだろう?そうでなければ、僅か1ヶ月足らずでそんなにはっきり出現する筈なかろう」
「……………うっ……」
「それで?雫は覚悟が出来たか?」
「か、覚悟って………?」
「結婚しかなかろう」
「…………結婚はします……よ………でも……どっちかを選べない……嫌いではないけど、好きかどうか、て言われたら……直ぐに答えが出ない……」
弥と尊が考える通りの答えが出る雫。その中途半端な答えを聞きたくはない弥と尊。その打開策になりそうな言葉を弥は雫に聞き出した。
「雫………じゃあ、尊を選べ。俺は皇家や雫の前から消えよう」
「弥?何言ってんだ、お前………」
尊は雫と弥を見比べ、尊の表情は変わる。
「弥がそう言うなら、雫……俺と結婚する、て事でいいな?」
「…………え………」
雫の表情が変わる。
「嫌なのか?………じゃあ、弥と結婚しろよ、俺は降りる」
「…………あぁ、そうだな……天使の娘が皇家に嫁ぐなら、どっちでもいいし、尊が降りるなら、俺と結婚しようか、雫………どうする?尊、居なくなるぞ?」
「…………やだ………弥も尊も側に居て!!」
居なくなるという事は、雫には考えられない程自然過ぎて、一緒に過ごす事が当たり前になっていた日常は、そのまま続くと思っていた。どちらかが居なくなるのは考えられない。
「………決まりだな………結婚式の日取りが決まったら教えてくれたまえ」
「え?ま、待って!お祖父様!私大学卒業したら、って言ってありますよ?」
「雫は成人している。結婚してもおかしくはない、私はもっと早くに結婚させたかったのに、お前ときたら秘書になりたいだの言うから大学に行かせたのだ、結婚したからといって、秘書になれないなんて事はあるまい?それ程お前は無能なのか?」
「…………ぐっ……就職もしたかったのに……」
「就職するなら、皇家のグループの中の秘書を目指せ………天使は要らんぞ?お前は充分、私を喜ばせてくれた……両親を事故で亡くしたのに、悲しみも見せず、私に寄り添ってくれた可愛い孫だ……これからは、好きになった男達と幸せに暮らせ」
「好きな男達?」
「違うのか?そうでなければ、開花等しないのだぞ?」
「………………え………?」
「想いを受取ったから、その喜びで開花するのが天使家の娘だからな」
「……………」
「自分の気持ちに気付く事なかったとはな………気苦労掛けた、弥君、尊君」
雷蔵は弥と尊に頭を下げた。
「そして、孫娘をよろしくお願いします」
「………あ、いえ!こちらこそ……歪な関係になりますが、尊と共に幸せにします」
「ありがとうございます」
「…………」
真っ赤な顔になっていく雫。痣はそういう意味か、と思ったら、納得出来たのだが、面白くない複雑な気持ちになりつつ照れていた。
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