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拉致

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 香港島-高級住宅街 

車で移動中、デニスは李家の防犯カメラや、セキュリティのハッキングをしている。
 空港からは然程時間が掛からない場所の為、ハッキング中、香港島の街で時間を潰さなければならなかった。
 しかし、ノエルは金髪。
 黒髪の多い中国人の中で、ただでさえ高身長で目立つし、髪色の違いで目を惹く。
 帽子を目深に被り、鬘とサングラスを用意し、観光名所の場所から、李家の邸が見えるというのでやってきた。

(まだか、デニス。)

 焦りを募らせる。
 普段のノエルであれば、ここまで焦らない。
 感情を優先してしまうのだ。

(…………駄目だ、焦るな!またミスる!)

 そう自分に言い聞かせ、車に戻ろうと歩きだしたが…………。

『!!!』
『無防備だったね、つまんないや。…………コイツ連れてけ。連絡ツール奪っとけよ。』
『……………だ、誰……………だ……。』
『……直ぐ忘れるさ、お前死ぬんだから。』

 スタンガンを当てられたノエル。
 遠退く意識の中で、彼等に気付かれないように、緊急発進を鳴らしたのは言うまでもない。


 ノエルが次に目を覚したのは、鉄格子の張られた部屋。

(………ここなら抜け出せる。……手足縛られてるな……。プライベートの方のスマホだけ持ってきたのだけせめてもの救いだったな。奪われたみたいだが……。見張りは一人……か。カメラはあそこと………動くと起きたのバレるな………。カメラの視界にわざわざ運びやがって……。)

 ガチャ。

『起きろ、もう起きる頃だろ?こっちは時間迄計算してやってるんだ。』
 (……さっきの男か。)

 ノエルは視界に入らなそうな場所の方の壁にもたれて身体を起こす。

『…………お前、何者?』
『何を言ってるのか分からないな。英語しか喋れないんだ。』
『嘘だろ?日本語喋ってたじゃないか。』

 英語で話すノエルに、中国語で返す男。

(こいつ、頭いいな。)
『英語も日本語も嫌いなんだ、郷に入っては郷に従え、て言うだろ?』
『………。』

 日本のことわざ迄引用する程の語学力。

『生憎、中国語は得意ではないのでね、英語の方が答えやすい。』

 凄く嫌そうな顔をする男。

(そういえばこの男この前見たな。隠し撮りした写真で、李家の誰だ……。)
『………面倒くさい。中国語で話すから聞き取れ。答えないなら否定だろうが肯定だろうが勝手に解釈するからな。』
『都合のいい耳だな。』

 今度はスペイン語で話すノエル。

『…………ムカつくよ、お前。』
『喋りやすい言語を探してるんじゃないか。』

 次はフランス語。

『勝手に、観光客を拉致しといて、名乗りもしないなんて失礼じゃないのか?』

 次はロシア語。

『…………鞭持ってこい。』
『……………何だ?SMでも始めるのか?』

 今度は韓国語で話す。

『…………韓国語も嫌いなんだよ!』
(短気だな、コイツ。しかし、危険だ。)

 鞭をひと振りする男は、鉄格子を開けようとする。

『蒼龍様、お遊びはまだいけません。ボスが手を出す前に知られたら、蒼龍様だって。』
『拷問されて、やっと話す奴も居るんだよ!


 そう言って部下にひと振りをした蒼龍。

『………李蒼龍か……。て、言う事は李龍昇の息子の一人ね。』
『………お前、日本警察じゃないだろ。』
『観光客だって言ってるだろ。』
『ふ~ん、これ見て観光客、て言えるのか?』

 蒼龍はノエルのスマートフォンを出す。
 通話履歴もその都度消去しているが、セキュリティロックはしてある。
 しかし、ロック解除されてあった。
 写真が何枚か2ショットが入っている。
 見せてきたのは翡翠の写真。

『………お前この女の何?』
『……………。』
『親しそうだな?恋人?残念だな、この女は返せないよ。』
『……………返してもらうさ。』
『どうやって?』
(どうする、今すり抜けて後ろが何か分からんし、防犯カメラがあったら直ぐに見つかる。だが、ここに翡翠が居るのは確実。ならば好都合。)
『スマホはお前にやるよ、せいぜいその写真見て想い募らせな!翡翠は返してもらう。じゃあな!』

 手足の紐を外し、コンクリートの壁をすり抜けるノエル。

『!!!』

 驚くのは無理はない。
 人が壁をすり抜けたんだから。

『探せ!!捕まえろ!但し殺すなよ!!致命傷にしろ!!』
 (何だ!あいつ!………李家以外に石を扱える奴がいるのか?いや、あれはコンクリートだ!何だあいつは!)

 ノエルはまだコンクリート内に居た。

(このまま壁づたいに移動した方が良さそうだな。ただ、体力が持つかどうか、だ。長時間は流石に辛い。しかし、翡翠を探さなければ……。)
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