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藻掻く鳥

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 いくつかここから歩ける民宿に連絡を入れた田所。
 近くの民宿に居たらしいと分かった。

 「見つかった、着いて来い。……屋代、ココだ。」

 屋代は車を発進させるのを見たノエル達は早々と車に乗り込んだ。

「ここに翡翠が?」
『わぉ、和風なホテルだな。』
 「女将すいませんね、無理言って。」
「田所さん、久々ですね~。お嬢さん、まだ起きてるみたいですよ。お泊りなら別の部屋空いてますので、用意しときますね。」

 以前からの顔見知りらしい田所と女将。
 案内された部屋に着くと、

「お嬢さん、起きてる?夜分に会いにきた人居るんだけどね?田所さん、ていう刑事さん。」
「え?田所!?」

 バタバタと音が襖越しに聞こえる。
 襖を開けた翡翠は驚く。
 4人の男達が居るんだから…………。
 その中にノエル。

「…………ノ、ノエル……。」
「心配したぞ、バカ。」

 ノエルの安心した顔。

 「…………再会を喜ぶのは後にしてくれ、何だお前らくっついたんか?」
「……………あ、その……。」

 じどろもどろする翡翠とノエル。

「まぁ、いいわ、話があるんだが聞いてくれるか?翡翠。」
「はい。」
「女将、部屋1つ用意しといてくれ、1部屋に3人は入れるだろ?」
「はい、用意出来ますよ。お食事はもう出せないですが。」
「食事は要らんよ。」

 何故1部屋?



「ごめんなさい、心配掛けて。」

 翡翠は4人に頭を下げた。

「翡翠さん、昨日俺と話した内容で、こんな事したんじゃないですよね?」

 屋代が言う。

「……………違います。以前から思ってた事だったんで……。ここに来たのは、あの家に用事があったから……。」
「親の事調べにきたんじゃないのか?」
「それもあるけど、別の事で……。」
「…………それにしたって、タイミング悪いだろ!来るなら来るで一言言ってくれれば連れてきた!」
「………ノエルに言える訳ないじゃない!」
「何?」
「まぁまぁ、痴話喧嘩は後にしろや。………翡翠、ノエルのタイミングが悪いてのも間違ってないんだぞ?お前は高階の娘だって暴露したんだ、高階を殺した奴らが、翡翠も狙うかもしれん。分かるだろ?」

 田所は、痴話喧嘩に割って入る。

「……………おじさん、何で?知ってたんでしょ?両親の事。何で言わなかったの?私、娘だよ?」
「知ってるから、言わなかったんだ。あんな謎だらけの男と、問題だらけの両親から産まれた、お前の母親の事。」
「……………。何なの?」
「紫さん、お前の母親な、政界のドンとかつて言われた男の娘だったんだ。……大学卒業後、親の言われるまま、許嫁が決められて結婚が決まっていた。紫さんはそのまま結婚に従うから、卒業旅行に行かせてくれ、と帰ったら結婚するから、と我儘を通して、行きたかったイタリア旅行で、記憶喪失だった高階琥珀に会ったんだ。」
「……………。」

 翡翠は呆然とする。

「その当時、生活の為に、宝石の模造品を作っていた高階を、娘の結婚相手に許す訳がない、と悟った紫さんは日本に帰らず、高階と一緒になった。高階は紫さんの為に足を洗い、日本語が出来たから、日本国籍をインターポールの計らいで取得後、日本に帰ってきた。その時は既に翡翠が生まれてて、高階琥珀という名前も紫さんが付けた、て話だ。孫が産まれたから、と実家に連絡すると、執拗に紫さんだけ連れて帰ろうとしてな、住居を転々としたのも理由はそれだ。高階も誰かに狙われていたから、どっちも問題だらけだったが……。事故に見せかけて高階が殺された、と思うのは見ていたから分かる。現に、事故じゃない、と言い続けた同僚刑事も、何者かに殺されたしな。俺は恐ろしくなって、表立った捜査を辞めたんだ。」
「……………。」
(その同僚刑事が、俺の親父だったのか。)

 ノエルが初めて知る事実。

「高階の事は分からんが、紫さんの事は分かるぞ?翡翠。祖父母に会いに行くか?…………会えるか分からんが……。」
「………会いたい。」
「…………いいか、これだけは言っておく。俺は紫さんはあの事故で死んでないと思っている。車には3人乗っていたが、高階以外、死んだ2人の死因がおかしいんだ、翡翠は事故当時、俺の家に居た。紫さんだと見られる女性の死に顔は潰されて、翡翠と見られる女の子の死に顔も潰されていた。高階の顔は潰されていないのに、だ。事故現場から顔が潰されて発見されたのは何故か。何処かにぶつかって潰れたと言うのなら形跡もある筈なのになかった。獣が食べたなら、牙の跡もあっただろうがそれもない。では何だ?あの死体は、となるだろう?」
「…………生きてるかも、て事?私のように…。」
「………そうだ。」
「生きてる?お母さんが?」

 翡翠は身体を震わせる。
 ノエルは、翡翠を抱き締めた。

「その真相を確かめる為に、紫さんの実家にも足を運んでは直談判したが、高階との関わりのある俺では聞けなくてな。もしかしたら、孫である翡翠が行けば………、と淡い期待もあったが、幼かった翡翠への仕打ちを見たら躊躇してな。」
「仕打ち?」
「………………虐待だ。」
「!!!」
「紫さんを連れて行こうとしては、高階に守られててはいたんだが、仕事で留守の時に、紫さんを庇おうとした翡翠が、祖父に蹴られていたのを、何人も目撃していた。見兼ねた近所の人間が追い払ったとは聞いたが………。」
「だから、有名だったんだ。」

 ノエルは納得した。
 小鳥遊琥珀より高階紫のが目立つ理由を。

「……それでも会ってくるか?」
「………会う。私、幸せだったもの。5歳迄の記憶しかないし、お母さんの顔もお父さんの顔もうろ覚えだけど、幸せだった、てお爺さんとお婆さんに胸張って言えるから。」
「………そうか、強くなったな、翡翠。じゃ、明日朝起きたら行こうか。善は急げだしな。………そういう事だ、屋代、デニス、部屋行くぞ?」
「え?ノエルは?」

 屋代が聞く。

「こいつはここでいいだろ、翡翠と話したいだろうしな、但しこの民宿は声筒抜けだからな、分かるな?」
(やるなよ、て事ね。)

 ノエルは若干ショックを受けたのであった。

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