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しおりを挟む広場には、魔力の高い騎士達が囲う様に立ち並ぶ。
その姿は圧巻で、田舎の村ではなかなか見られない光景だからか、女達の目がハートになっていた。
ヒューイやニナ、ヒューイの取り巻き達は、魔法抑制の手錠が掛けられ、一纏めにされた。
「リリ、こいつ等は何だ?」
「村長の息子と娘、その取り巻きなの」
「で?村長は何処だ?」
「今日はまだ見てないわ、私」
「村長なら街だろ」
「そうね、週に3日は行ってるわ」
村人からも声が上がり、グリードの動向を見守っていた。
「…………まぁ、愚者の親も愚者だろ……ハーヴェイ」
「はい、グリード様」
「後は任せていいか?」
「何言ってるんですか?グリード様…………事件が起きたのですよ?その処理を俺に任せて、姉上とイチャつくつもりでしょ」
「……………良いじゃないか、やっとリリに呼ばれたんだ………先送りにしていた事を今からしたって」
「駄目です」
「リアナ!」
「…………リサ!火傷の手当ては!」
心配していたリサの怪我を、リアナはグリードから外れ、駆け寄って行く。
「ほら、姉上だって今グリード様より村人の事ですから」
「…………はぁ……分かった……あと少しは我慢しよう」
「通してくれ!何だ!何事だ!」
「あれが村長ですよ」
事情を説明してくれていた村人が、村長の帰宅に気が付いた。
村長は村長で、騎士達の集まる輪に、捻り込む様に入って来る。
「ヒューイ!ニナ!何だ!如何してお前達が縛られてる!」
「お、親父………」
「パパ!助けて!」
「お前がこの愚者の親か」
「な………儂に向かって何と言う口振りだ!」
「おっと………それ以上この方に無礼は許さんぞ、村長」
「っぐっ………」
ハーヴェイが村長の喉元に剣を翳し、発言を止めさせる。
「…………この村の村長はもうお前では役立たずだ………降りて貰おう……そして、お前達家族は別の村か街に移り住んで貰う………あぁ、そういえば、禁止されている魔法を人に向けた罰も償って貰わねばな」
「せ、せ、正当防衛よ!」
「まだ言うか、この女」
ハーヴェイがニナに呆れ声で睨むと、村人達もこれでヒューイやニナの横暴さが無くなると期待し、次々から罵倒する声が上がった。
「正当防衛じゃない!ニナはリサに火を放った!」
「さっきも、リアナに魔法攻撃をしようとしたわ!」
「黙りなさい!私は偉いのよ!パパが黙っちゃいないんだから!お兄ちゃんも何か言ってよ!」
「ゔっ……」
ヒューイも言いたい事はある様だが、グリードを見ると押し黙ってしまう。
目の前で竜から人に変化したのを見て怖いのだろう。
「お兄ちゃん!」
「情けない男だ………そんな男に、我が伴侶になるリリアーナがお前に靡く訳がないだろう」
明らかに騎士達と違うと分かるグリードの存在に、一体誰だ誰だ、と声が出る。
「グリード様、言ったら如何ですか?姉上だって、気になってると思いますよ?」
リサの手当を済ませたリアナがグリードの後ろに戻ってきた所だった。
「うん………気になる」
「解呪する迄内緒にしたかったのだがな」
「今更?だって、私が貴方の番いなのは変わらないでしょ?」
「…………フッ……そうだな」
グリードは両手を広げ、リアナを胸に納めようと合図する。
「っ!…………は、恥ずかしいんだけど」
「リリ…………愛しいリリ、おいで」
「……………ゔっ……」
夢で散々抱かれた腕に、現実に触れ合える誘惑に負け、リアナはグリードの胸に飛び込んだ。
抱き締められ、リアナは頭上にグリードのキスが落とされると、グリードは顔を上げる。
「私はドラヴァールの王太子、グリード・ド・アルファ………訳あって、ドラクロワ公爵令嬢、リリアーナ・ドラクロワをこの村で生活させていた。彼女は私の伴侶となる未来の后だ」
「ヒィィィ!」
どれだけの村人が悲鳴を挙げただろう。
リアナは素性を隠していた訳ではなく、気が付いたらこの村に居て生活していた女だ。
村人も独り暮らしのリアナに気を配り、馴染んだ彼女と共に、村を支えてきた薬師として見てきていた。
そんな身近なリアナが王太子の伴侶だとは誰も思う訳がない。
「臭っ!ち、ちょっと!お兄ちゃん!また漏らしたぁぁ!」
ヒューイの粗相に、隣で括られているニナはジタバタと離れようと暴れ始め、取り巻き達も逃げようと必死だ。
「情けないぞ!ヒューイ!」
「ゔっあぁぁぁっ!煩い煩い!」
村長も知らぬ間に、手錠を掛けられていて、情けなさは家族皆同じだ。
「本当に、この村にお前達は要らぬな………誰か早く代わりの村長を立てねばな」
「居なくなれば、平和になるでしょ………姉上、固まってません?」
「ん?…………リリ?」
「っ!」
貴族だとは思ったが、まさか王子とは思いもよらず、リアナは固まっていた。
「愛いなぁ、リリは」
「だ、だ、だって………」
「だから、封印を解呪してからの方が、感動してくれると思って言いたくなかったのだ」
「グリード~!会いたかった!て言われたかったんでしょ」
「…………ハーヴェイ、代弁するな、気持ち悪い」
「姉上の失くした記憶前とは、少々違う反応なんで」
「リリは昔も今も可愛いぞ」
「はいはい…………盲目的愛情を此処で晒さないで下さいね」
それでも、リアナを離さない腕の温もりは夢で見た以上の温かさだった。
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