上 下
10 / 29

9

しおりを挟む

「リ、リアナ………お前が起こした魔法なのか?」
「知らないわ!もしそうだったとしても、身の危険を感じた正当防衛よ!」

 リアナは自分が起こした魔法では無い、と断言出来る。
 攻撃的魔法の類いは使えなかったからだし、村人達にはそれは周知な事だった。
 ヒューイも、取り巻きも当然知っている事でもある。

「ヒューイ様………リアナには攻撃魔法は使えなかった筈です………それでも私は吹き飛ばされた様な…………」
「違うって言ってるでしょ!私に攻撃魔法なんか無いわ!」

 攻撃魔法を使える者は、罰する事もあり得る為に、制御する保護具と共に申請し、シリアルナンバーを授与されているのだ。
 リアナにはそのシリアルナンバーは授与されてはいない。
 専ら、治癒能力しかないのだ。

 ---ま、まさか………コレ……グリードの魔力?…………グリードは自分の魔力を私に封じ込めている、と言っていたわ………その解放に時間が掛かる事も………それが私から出たと言うの?

「な、何だ?今のは………」

 驚くヒューイ達と同じくリアナ自身も驚きを隠せなかった。
 急に怖くなり、リアナは自身の身体を抱き締め震えが止まらない。

 ---の魔力を感じる………お腹の中で暴れてるの?………駄目っ!抑えて!幸いこの人達は怪我をしていない!

 尻餅を着いただけだ。軽症だったとしても、地面の砂や土で擦り傷程度だろう。

「転んだ拍子で擦り傷出来てません?大丈夫ですか?」

 リアナはグリードの魔力だと気付くと、直ぐに落ち着く事が出来た。
 平然と切り替えた事に、ヒューイ達が不審がらなければ良い、と願いながら、リアナは男達の前に屈む。

「手を付いてますが、擦り傷出来てません?」
「あ、あぁ………少し切れた様だが……」
「ヒューイ様、リアナを罰しましょう!我々を攻撃しました!」
「そ、そうだな…………罰するか……ふふふ……リアナ!罰せられたくなければ、俺の女になれ!」

 やはり、誤魔化せられなかった様だ。

「私に攻撃魔法はありません、今迄だって薬を作る工程で、私の治癒能力が移る程度の魔力しか無いんですよ?ドラヴァールは年に1回、魔力測定するのを義務付けられてますよね?今年の測定結果、お見せしても良いんですよ?」
「……………じゃ、じゃあ見せろよ!」
「少しお待ち下さい………擦り傷の薬と持って来ますから」

 まだ内心、動揺をしているリアナだが、魔力測定結果の通知書をヒューイに見せれば納得してくれるだろう。
 其処には、リアナには微弱の治癒魔法能力しか無い、という測定結果が出ているのだ。
 魔力測定を年に1度しなければならないのは、攻撃魔法能力者の特定をしやすい為だ。
 魔獣が人を襲う為、自己防衛や街や村の自警団をしてもらう為に、攻撃魔法使用を許可する証明書となっている。
 ヒューイも攻撃魔法能力があり、それは良く知っている筈だ。
 リアナが測定結果の通知書をヒューイに見せると、ワナワナと通知書を握り締め、リアナに突き返して来る。

「クソッ!じゃあ、今のは何だったんだ!リアナ!」
「分かりません………タイミング良く突風が吹いたのでは?」
「そ、そんな奇跡的な事が起きてたまるか!」
「説明しようにも、それ以外何と言えば良いか分かりませんし………」
「……………クッ……ま、まぁいい………リアナ、俺の求婚を承諾してくれるよな?」

 これではまた水掛け論だ。
 ヒューイの求婚を断わって、何故かリアナからグリードの魔力が出て、咄嗟に誤魔化したのに、再びまた求婚の申し出が懲りる事無く、出て来る。

「お断りします、と先程も言いました………村長のご子息だろうと、権力を翳そうとも、私にも選ぶ権利があると思うのです………それに、私は誰とも結婚する意思を持ち合わせてないのです」
「黙れ!無理矢理でも俺の物にしてやるぞ!」
「だから、また様な突風が吹いたら如何するんですか?」
「う、煩い!リアナを連れて来い!」

 また、ヒューイの取り巻き達が、リアナに掴み掛かりに来ると、リアナは後退りした。
 感情が昂ると、グリードの魔力が出てしまうのでは、と判断したリアナは逃げる事にする。
 抵抗するより、その方が魔法は出ないかもしれないからだった。

「ゔっわ!」
「ぐわっ!」
「え!な、何だ!ま、魔獣が!」

 しかし、森の中から、何故か魔獣の群れが飛び出して来る。
 
「え!」

 リアナでさえも、初めて見る光景だ。
 リアナが住む村外れの森に、魔獣は生息しているのは知っているが、滅多にリアナの前には姿を表す事が無かったのだ。
 まるで、リアナを避けていた節さえある。
 それが、魔獣達は男達を襲っているのだ。

「う、うわぁっ!………ヒューイ様!お逃げ下さい!」
「ま、任せたぞ!」

 ---は?………あの人、攻撃魔法持ってるわよね?な、何で逃げるの?討伐しなさいよ……

 取り巻きは攻撃魔法を繰り出すが、ヒューイは逃げて行く。
 自警団にも所属している若者が、討伐しないのは明らかにおかしいのだ。
 村長の息子という肩書で、威張っているのは村では周知だが、こんなにも情けない男だとは思っても見なかった。

「プッ…………臆病者だったのね……」

 リアナと取り巻きしかこの場には居ない。
 この事実を、という時に使おう、とリアナは決めた。
 元より、リアナが嫌いなタイプの男だったので、良心も傷む事も無いのだから。
 魔獣達は男達を追って行く。
 まるで、リアナを守っているかの様だった。

「それにしても………何で魔獣が………」

 今迄もリアナは魔獣に襲われた経験は無い。
 女子供であろうとも、弱者を襲うのが魔獣の習性ではあるのだ。
 この理由をリアナが知るにはまだ暫く先になるかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

当て馬令嬢からの転身

歪有 絵緖
恋愛
当て馬のように婚約破棄された令嬢、クラーラ。国内での幸せな結婚は絶望的だと思っていたら、父が見つけてきたのは獣人の国の貴族とのお見合いだった。そして出会ったヴィンツェンツは、見た目は大きな熊。けれど、クラーラはその声や見た目にきゅんときてしまう。    幸せを諦めようと思った令嬢が、国を出たことで幸せになれる話。 ムーンライトノベルズからの転載です。

[完結」(R18)最強の聖女様は全てを手に入れる

青空一夏
恋愛
私はトリスタン王国の王女ナオミ。18歳なのに50過ぎの隣国の老王の嫁がされる。最悪なんだけど、両国の安寧のため仕方がないと諦めた。我慢するわ、でも‥‥これって最高に幸せなのだけど!!その秘密は?ラブコメディー

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

本当に愛された悪役令嬢

tartan321
恋愛
タイトル通りです

処理中です...