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しおりを挟む「入るぞ?泣くなよ?化粧また直さなきゃならなくなるから」
「………が、我慢……します……」
「………どうだかな……」
やれやれ、と言っている様なリーヒルに、レティシャは頬をぷくっと膨らませた。
「っ!可愛いから止めてくれ……場を考えずに抱きたくなるから」
「………そんな事を仰る陛下は可愛いですよ?」
護衛の兵士が居る前で、言葉を崩せないレティシャ。
だが、イチャつくこの2人の目のやり場には困っている様だ。
「開けてくれ」
「………は、はっ!………め、面会です」
「………はい」
中から聞こえる声は、落ち着いていた時に聞いてきた馴染みのある優しい声だ。
「お久しぶりです、母上」
「お義母様……」
「っ!…………リ、リーヒル………レティシャ……」
その声の主は、レティシャとリーヒルの姿を見て抱き着きそうになったが、思い留まった。
「………今日、結婚式なのです。母上に2人揃った所を見て頂きたくて」
「………はい」
「………結婚式……漸く……わたくしが邪魔さえしなければ、もう少し早く出来ましたね……」
「変わらないですよ、早くても遅くても、私達は変わらないので」
「………なんて、綺麗なの………レティシャ……」
触れたくても触れられない、抱き着きたくても抱き着けない間柄になってしまった。それは悲しい事だが、会えただけでも嬉しい。
「お義母様……わたくし、マリサ様の月命日のお祈り、引き継がせて頂きますね……構いませんか?」
「…………お願い………します……あの娘は寂しがりやだったから……」
「私も度々、レティシャに付き合いますよ。国政を優先してしまいますが、マリサなら分かってくれると思います」
「…………ありがとう……わたくしの子供達……」
「………っ!」
「レティシャ………あれ程泣くなと言ったのに……」
それは致し方ない事だろう。育ての親へ結婚の挨拶をしに来たのだ。走馬灯の様に思い出が駆け巡って行くのだから。
「お義母様……育てて頂き、ありがとうございました……」
「………貴女を冷遇してきた継母にお礼を言う事はありません……いいですか?レティシャ……貴女はわたくしの様に、嫉妬と憎悪に塗れ無いようにね?いくらリーヒルが貴女を愛しているといっても、貴女を裏切る事があるかもしれないのですから」
「私がレティシャを裏切る訳が無いではないですか!」
「大丈夫です………わたくし、義兄様の嘘をみぬけますから」
「…………なら、安心ね……」
「レティシャ!私は嘘等ないぞ!」
コンコン。
『陛下、レティシャ殿下、そろそろ行きませんと、式が始まってしまいます』
「………リーヒル、レティシャ……花嫁姿が見られて嬉しかったですわ………幸せにね」
「「………はい」」
名残惜しいが、時間が来てしまっては仕方ない。レティシャとリーヒルは、結婚式が行なわれる神殿へと急いだ。
参列も許されないダーラ元王妃は、神殿の方角に手を組み、膝まずくと、祈りを捧げたのだった。
「遅かったではないか」
神殿の控室で待っていたオルデン前国王。
「母上に会いに行ってました」
「………そうか……何か言っていたか?」
「レティシャが綺麗だ、と」
「他には?」
「………父上、レティシャと共に祭壇迄歩くのでしょう?心の準備は出来たのですか?」
「!………ま、まだだ!」
「私は祭壇に居ます……転ばないで下さいね」
「お、お前と言う奴は!余を何だと……」
綺麗、という以外、話はしてきたレティシャやリーヒルだが、式の時間を遅らせてはならないので、リーヒルは急いで祭壇へと立った。
シュピーゲル国紋章の刺繍をあしらったサッシュに戴冠式とは違うロングコート、国王の王冠姿に、目を輝かせる独身貴族の女達。本当ならリーヒルの横に立ちたいと願っていた筈だ。だが、もう立つ事はない。昔も今もこれからも、リーヒルの横に立つのはレティシャだけだ。
「美しいぞ、レティシャ」
「………ありがとうございます、お義父様」
「これからも、お前は娘だ」
「………はい」
「リーヒルの妃として頼んだぞ」
「………はいっ……っ!」
「………くっ……」
ゆっくりと祭壇迄歩いて来るレティシャに、息が溢れる。美しい純白のドレスとヴェールから透ける金の髪が輝いているからだ。
うっとりとする目線がレティシャに釘付けになったのが、リーヒルには面白くない。
「レティシャを釘付けに見れるのは私だけだ……」
祭壇に立つリーヒルがボヤくと、傍で警護するヴァンサンに突っ込まれる。
「心狭っ!結婚するのに……」
「するけど、心情は穏やかではない」
「陛下………お声を落として下さい」
神官に注意されるリーヒルだったが、それが面白かったのか、ヴァンサンは笑いを堪えきれていない。
何をしてるんだ、とレティシャは祭壇に居るリーヒルと離れた場所に居るヴァンサンに呆れてから、結婚式をする事になってしまった。
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