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しおりを挟むレティシャはオルデン国王の実子と信じて疑わなかったダーラ王妃が、何を知り、何に後悔しているのかを知る権利があった。
諸悪の根源と言うダーラ王妃は、肩の怪我を追いながら、貴族達が集まる場ではっきりさせたかったのかもしれない。
「レティシャは、わたくしの娘、マリサに面影が似て可愛いと思っていた反面、憎悪もありました……だから、リーヒルの婚約者にする事も、陛下の実子かもしれないという疑いがある以上、本心では反対でした」
「………」
「ですが、悩み悩んでも致し方無く、数々のレティシャを狙う悪行はわたくしやグレイデル公爵なのです」
「…………お……か……さ……ま…」
「………ゔっ……まだ呼んでくれるの?レティシャ………」
ポロポロと涙を拭く事も忘れ話すダーラ王妃に、レティシャも涙ぐむ。
愛情と憎悪の狭間でどれだけ悩んできたか、言葉の一面だけでは想像は出来ない。
「でも、二年前の馬車の事故………わたくしはレティシャをリーヒルから離すだけでいい、と思ったのです………殺すなど、わたくしは……陛下が悲しむ顔を見たくなかったから………死ねばそれ迄、生きていれば何処かで生きていて、と。それが、わたくしの勘違いから来る所業だと知らずに………」
「母上、それで知ったのですか?レティシャは父上の実子ではない、と」
「…………そうです……リーヒル。事故の後、行方不明にさせた後、陛下の呟きを聞きました」
「………マノに恩返しをする為に、レティシャを引き取った、という言葉を聞いたのか、ダーラ………」
「はい………陛下は、マノさんに生命を助けられた事があるそうですね……そして、いつか恩返しをする、と」
「そうだ………余が政権争いに巻き込まれ、グレイデル前公爵に生命を狙われ、紛れ込んだ村の娘がマノだ」
政敵だったグレイデル公爵家の令嬢であるダーラ王妃を娶った事も然る事ながら、政権争いでオルデン国王が生命を狙われていた事もレティシャは初耳だ。
「マノは、夫と暮らし、身分が明かせぬ余を献身的に助けてくれたのだ。余がマノ夫婦に感謝し、恩返ししたいと言うのは当たり前であろう?国王になりはしたが、余にはまだ妃が居なかった。政敵ではあったが、余はマノに面影が似ていた其方に一目惚れしたのだ。マノ夫妻の様な夫婦になれれば、と思い………そうでなければ、何故余の生命を取ろうとした男の娘を娶る!」
「………知らなかったのです……二年前迄……あの呟きを聞いていなければ、まだわたくしはレティシャを恨み、殺そうとしたかもしれない……」
「母上、聞いてもいいですか?」
「リーヒル……何でも聞きなさい」
「レティシャの声を奪ったのは誰の命令です?」
「…………わたくしではありません……女の身体に傷を付ける等!」
「では、グレイデル公爵なのですね?事故からの所業は全て!」
「…………くっ!……ダーラ!全部話おって!」
知りたい事が尽く出てくるレティシャ。
「母上はレティシャが二年間居た場所はご存知で?」
「…………レティシャが帰って来てから、お兄様から聞きました……だから……わたくし……もう……レティシャになんて事をしてきたのか……と……マリサの様に見ていた時期も………娘の様に見ていた事も多かったのに………陛下……罪を償わせて下さいませ………」
「………分かった………」
オルデン国王の苦渋の決断が降される。
死ぬ迄、隠し通したかったのは、ダーラ王妃のしてきた事だったのを、リーヒルも初めて知り、レティシャもダーラ王妃の苦悩をこんな形で知りたくもなかった。
結局、レティシャの誕生日の祝祭は、贖罪の日となり、王城の祝いの雰囲気は元々無かった事もあり、ダーラ王妃と兄グレイデル公爵の悪行で話が駆け巡って行く。
「おい、聞いたか?王妃陛下の話」
「投獄されたって話だろ?何でだ?」
「継娘の殺人未遂と殺人罪だってさ」
「おいおい、嘘だろ!国王陛下も王妃陛下もレティシャ殿下を可愛がってた、て話は何処に行ったんだよ!」
真相が語られる前に、結果が先に噂が流れ、気になる平民達は王城へと真偽を確かめに人が押し寄せて行く。
「たまったもんじゃないな、王城の門の民衆を捌けさせろ」
「何度やったって、新たに集まるんですよ、殿下」
「整理が捗らないんだ、真偽を確かめる等まだ先だ」
「本当ですね………レティシャ殿下が引き取られてからの、レティシャ殿下の被害………かなりの数でしたしね」
「………頭痛いよ……母上は影でこんな事をしてたとはな」
「殿下が知らなかったのも凄いですよね」
事故に見せ掛けて怪我をさせる事や、食事に異物混入、毒混入。ダーラ王妃に結び付く物もなく、処罰された者との関与も見つからない上、グレイデル公爵からの手の者もあった為、膨大な数だった。
「事故の事から調べたらいいじゃないですか。あの件が最大の悪行なんですし」
「そうだな……あの事故からレティシャの場所が特定出来たしな」
リーヒルも複雑な思いで捜査していて、ダーラ王妃の事には貴族達もかなり意気消沈している為に、捜査は難航していた。
「レティシャは?今何処に居るんだ?また母上の独房か?」
「毎日通ってらっしゃいますよ」
「………そうか……」
ダーラ王妃は、数多い囚人とは別の個室で監禁状態だ。監視下での面会ではあるが、レティシャは毎日、ダーラ王妃に会いに行っていた。
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