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 リーヒルがヴァンサンと共に、牢獄へと慌ててやって来た。

「どういう事だ!」
「警護も厳重だったのです!面会もありませんでした」
「出入りは交代時の兵士だけか?」
「いえ、食事を運びに来た数名の下女が」
「その下女を集めろ!」

 何やら起きた牢獄。
 その現場にリーヒルが着くと、口を押さえた。

「何故………食事に毒が含まれたか?」
「今、調べて貰ってます……医者の方もです………レティシャ殿下の件に関わる者達が毒殺なんて、事故の犯人と同一の可能性ありますよね」
「………まだ、調べきれてないというのに……」

 リーヒルは厳重に慎重に、彼等を秘密裏に牢獄して調べていた。
 リーヒルの信頼出来る部下と、オルデン国王しか知り得ない投獄だったのだ。

「誰が漏らしたかも調べなければな」
「勿論です」
「この事を父上に報告する。遺体は服毒した毒を調べ、この者達の家族に知らせろ。レティシャの件に関わってるかも確認し、引き取ってもらえ……家族が居ないなら埋葬に」
「分かりました」

 血と共に胃の中にあった消化出来ていない食べ物と、カビ臭さが相俟って、異臭が漂う牢獄。他の囚人達も気持ち悪いのか、嘔吐をするので、直ぐに騒がしい事になった。
 締め切る訳にはいかず、換気口から異臭が漂い、全く知らない貴族達も騒がしくなる。

「何なんだ、このニオイは」
「気持ち悪い……」

 牢獄は建物の地下にあり、その上階は執務を行う部屋が多数ある、重要な場所だ。その異臭で仕事も捗らない。

「換気だ!換気をしろ!」

 異臭騒ぎが牢獄からの臭いだと、暫くしてから分かった貴族達。
 誰に確認をするか等、皆は分かりきっていて、王太子であるリーヒルの執務室に貴族達が集まっていく。

「王太子殿下が居ないぞ!何処に居られる!」

 リーヒルは駆けずり回り、1つの場所に長居が出来なくなっていた。
 城の異臭の処理を部下に任せ、食事を牢獄に運んだ下女達を集めて、一人一人聞いていたのだ。

「牢獄に食事を持って行った者と、その食事を作った者、関わっている者を早く連れてくるんだ!一人や二人ではないだろう!」

 レティシャに関わってない囚人は元気なのだ。その食事と医者や娼館の男達の食事だけに毒を入れる事が出来るなら、食事を作った者ではないかもしれない。だが、念の為に確認する必要がある。

「毒等、我々は知りません!此処は城内で働く者の人達の食事を作る厨房です!下々の食事迄……」

 牢獄の囚人の食事と、王族の食事とは違う厨房を使うが、城で働いている者達の厨房には毒味役の者は存在していない。食事に慎重にはならない側の厨房なので、衛生面だけしっかりしていれば良かった。毒が厨房から検出されるのは大問題にはなる為、徹底的に調べなければなならない。

「もし、毒が厨房から出たら如何する!有耶無耶にしていい問題ではないんだ!牢獄に食事に毒を入れ持ち込んだ者が居る!根本から調べなければなならない!」

 だが、厨房からは毒は出なかった。作った者達の持ち物も問題無く、運んだ者に疑いが掛かった。

「この5人か」
「はい」
「どうやって食事を分けて運んだ?」
「…………一部屋ずつ、鍋に入ってますので、格子越しに分けて……です」

 鍋に料理が入り、パンを添えて給餌して配っているらしい。食事は1日二回。
 一部屋ずつ番号で振り分けていて、人数分入っているという。配り終えると下女は下がる。その間は下女と囚人の会話も許されない。

「鍋に毒を入れたか、下女が毒を渡したか、だな……その鍋は?」
「あ、洗いました」
「洗った?」
「遅かったな……早くこっちに来ていれば……」

 毒が付いた鍋を洗ったなら、毒は洗い流されているかもしれない。

「一応、調べますか」
「そうだな………それで、あの牢獄に運んだ女は誰だ?」
「わ、私です」
「私も……」
「ヴァンサン」
「はい」
「この下女達を監禁しておけ」
「運んだ全員ですか?」
「罪を擦り付けた可能性もある」
「私じゃありません!」
「私も違います!」
「関与していなければ解放する!」
「…………はぁ……参ったな……」

 リーヒルから溜息が漏れる。レティシャを助け出してから早々、関与していた者達の殺害があったのだ。
 そんなにも自分の立場を守り、レティシャを排除したいのか。

 ---レティシャが何をした!誰も傷付けず、欲も無く、謙虚に生きている!そんなに私と結婚させたくなくて、得する者等殆どじゃないか!貴族全員疑えと言うのか!

「殿下」
「………グレイデル公爵……何故此処に?」
「いえね、騒がしいので来てみただけで………何やら不穏な空気ですな」
  
 今、レティシャの存在を疎ましく思う者とは話したくなかったが、叔父でもあるグレイデル公爵を無碍に出来ず、話をする事にしたリーヒル。

「………あぁ……私が調べている事の囚人が毒殺されたのだ」
「何をお調べに?」
「劣悪な娼館があり、その罰を与える為に、裁判を待っていたのに、殺された………毒と吐瀉物の所為で悪臭に苛まれたので、何故殺されのか調べている……たかが、無許可の娼館営業の監査だったのだが」
「娼館の悪質営業で王太子殿下自らお調べになるとは、難儀な事ですな。それぐらい臣下にお任せ下されば良いのに……私が引き継ぎ致しましょう」
「………いえ、叔父上は叔父上でお忙しい身。私に回って来た仕事ですので、私にお任せを……手伝って頂きたい事がでればお任せします」
「そうですか、ではご無理なさいません様に……」

 微笑むグレイデル公爵だが、目は笑っていなかった。

 ---含み笑いが得意だな、本当に……

 去って行くグレイデル公爵の背を見つめ、リーヒルは呟く。
 叔父として敬意を表すものの、臣下としての扱いも疲れる物だった。
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