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 レティシャがリーヒルと分かれて部屋へ入り、侍女達が入浴を薦めた。

「お疲れでしょう、レティシャ殿下。入浴をお手伝い致します」
「………」

 レティシャは、自分を慣れていない侍女に分かる様に頷く。声を発声出来ない王女だと知ったばかりかもしれないからだ。そして自身の手のひらの上に文字を書く。

『宜しくお願いします』
「殿下が敬語等お使いなられなくても宜しいんですよ?」
『わたくしは、事件が起きる前も、侍従にも敬語を使っていました』

 ヴァンサンは、幼馴染という立場もあり、多少は砕けた言葉を使いはするが、初めて会う相手でも侍女であっても失礼にあたる言葉使いはしない、レティシャ。

「謙虚な方なんですね、殿下は」
『いえ………皆さんも早く休まないといけませんね、手短で構いません。お手伝いは今日は簡素でお願いします』

 自分の立場は、『国王の慈悲で引き取られた平民の王女』。名ばかりの王女だと言う事はよく分かっている。
 侍女達はそれ以上、レティシャに対して態度を如何していいか、分からないのか会話になる会話等無く、淡々と入浴の手伝いだけ終わらせた。

「本当に、髪も乾かさなくて宜しいのですか?」
『はい、後は自分でします。皆さんは休んで下さい』
「…………では、明日朝また伺います。おやすみなさいませ、殿下」
「おやすみなさいませ」
「失礼致します」

 侍女達は深々とまた頭を下げ、部屋を下がった。

 ---髪、また引っ張られるかもしれないのは怖いの……ごめんなさい。義兄様やヴァンサンが厳選した侍女だとは聞いたけれど……

 長い金髪の髪をひとまとめにしたレティシャだが、不揃いの髪だ。痛み、手入れ等出来ていないこの髪を切り揃えて、綺麗にしたかったがまだそれを侍女達に頼む勇気は無かった。
 助け出された後、点々と領主の邸で世話になったが、その邸毎に、侍女やそこの令嬢に髪を切られたり、突き飛ばされたり、と数々の嫌がらせがあったのだ。
 リーヒルは、それを把握している筈で、目撃してくれたからこそ、処罰をしてくれる様だが、レティシャからすれば仕方ない事も重々承知なのだ、とリーヒルにも言ってきた。厳選した侍女達が同じ事をするか如何か等、まだ信用するには早過ぎる。

「………?」

 先程、レティシャが使用していた風呂場から音がする。

 ---義兄様?

 幾ら婚約者としての位置にあるレティシャだとしても、夫婦ではないのにこの続き間の部屋は場違いで、レティシャはリーヒルに話をしたいと思っていた。
 多少、リーヒルの強引さは知ってはいたが、国王である義父や王妃のダーラが了承したとは思えなかった。

「………」

 意を決し、レティシャはリーヒルが入浴を終え、部屋に戻るのを待つ為、衣装部屋の方からリーヒルの部屋へ入り待つ事にした。
 思い出深い部屋を懐かしむレティシャ。何度も訪れては、一緒の時間を幼少期は過ごした部屋だ。
 国王の養女になったのは3歳。実の両親は事故で亡くなってうろ覚えで顔は覚えているが、城で王女として教育を多忙に熟して行く中で、辛い生活に癒やしてくれたのはリーヒルだった。
 教師に怒られては、泣きに来る場所はリーヒルで、リーヒル共々怒られては泣いた幼少期。淡い恋心に歯止め等効かず、兄とはいえ、兄とは思えないと思った頃、義父の国王からリーヒルの妃に選ばれたレティシャ。
 臣下達からは、養女にする時には、平民の子を王女に、と反対され、婚約者に据える時には兄妹ではないか、と反感を買い、国王への反発は貴族の大半から挙がった。しかし、平民からすれば私利私欲で贅を尽くす貴族の娘より、質素な出自の娘の方が印象は良く、国王と平民対、貴族という派閥が出来上がってしまった。
 平民出自の貴族も居る。功績を称え、貴族になった平民は王家側の派閥だが、数は少ない。
 リーヒルは派閥争いをよく見てきたからか、平民出自の貴族なら兎も角、生まれながら貴族になった出自の娘を妃に、とは全く思わなかったのもあり、レティシャを婚約者にする事に何の異も唱える事も無かった。寧ろ、レティシャに妹として見ている事も無かったリーヒルには好都合だったのだ。
 その意図が交わる中で、レティシャだけはまだ幼かった為に、気付きもしてはいなかったのだが。

 ---義兄様、わたくしより長いわ……

 ソファに座って、暫く待っていたレティシャだが、喉が乾き目の前にあった飲み物を飲んで待っていようと、グラスに注ぎ飲み込んだ。

「…………っうっ………」

 ---喉………燃えそう……

 目の前の飲み物は酒で、レティシャは飲むのは初めてだった。

「レティシャ?何故私の部屋に居るんだ?」
「…………ひっく……」
「え?………レティシャ?」

 その酒は、リーヒルは飲み慣れた強い酒だ。初めて酒を飲むレティシャには不向きではあったのに、グラスいっぱいに注ぎ、一気に飲んでしまった様で、リーヒルの姿を確認し、リーヒルの傍に行こうとする足取りはフラフラだった。

「ひっく………」
「お前……私の酒飲んだな?アレは強い酒なんだぞ!」

 そうレティシャに言った所で、レティシャには届かない。フラつくレティシャはリーヒルに抱き着く様に、倒れて行った。
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