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しおりを挟む「げっ!………こっちにも入ってる!」
帰宅後、勉強部屋に通学鞄を置きに来て、翌日の授業の準備と宿題の用意をしていた未央理。
学校で全部捨てたと思っていた手紙がまだ出て来たのだ。
「執拗いなぁ………後でシュレッダーに掛けよ」
とりあえず宿題と一緒に置いて、着替えてから手洗いと嗽をしに洗面所へと勉強部屋から離れた未央理。
「ただいま」
「………あれ、今日早い」
「早いって言っても18時だぞ?未央理は今帰って来たのか?」
「うん………前の学校の友達と連絡取ったら会おうってなって………私が三条高校に転入してて驚いた友達が何人も人集めて来て大騒ぎになって、逃げる様に帰ってきた」
「何だそれ」
「中高の友達多いんだもん、皆まぁ……偏差値低い所に通ってるから勉強しないし、暇人ばっかで直ぐに集まってきた」
「全く、今の学校とは違うな」
「そう思う……皆、塾通ってるから長居しないもんね」
洗面所で手を洗いながら話す未央理と、その場にスーツのまま手を洗う秀平。
「………俺は巨根なんだって?」
「っ!」
「何話してんだ、斎藤達と」
「………ご、誤魔化したらソレが出た……」
「………サイズは変わらん……諦めろ」
「べ、別にそんな事思ってないから!」
「夕飯迄、勉強見てやろうか?」
「宿題教えて」
「着替えてくるから」
「分かった」
しかし、未央理は勉強部屋に直ぐに戻らず、喉が乾いていてキッチンへと行ってしまう。地雷がある事を忘れたままだ。
秀平と話ていてすっかり忘れてしまっていた。
部屋に戻ると、秀平がもう部屋に居て、その手紙を手に持っている。
「あ!」
「………虫付いたなぁ……」
「読んでないからね!そのままシュレッダーに掛けるつもりだったんだから!」
「これだけ?」
「………た、多分……」
「多分?」
椅子にも座らずに、手紙だけ持ち立ち尽くす秀平の手から、未央理は手紙を取ろうとするが、秀平は手紙を返さない。
「………学校でも何通か捨てた」
「モテるねぇ、奥さん………それも読まずに?」
「え?うん………嫌がらせの可能性あるし……ほら、崇の事で」
「………あぁ……だが、捨てずに俺に全部渡せ」
「え?何で?」
「そいつ等のクラスを確認するんだよ……何勉強せずに人のもんに色めき立ってんだ……弛んでるようだから、課題増やす」
「………可哀想に、その人達」
「宿題やるぞ」
「あ、うん」
だが、未央理が書いている時間、秀平はその手紙を勝手に開封し、読み始めているのに気が付いた。
「しゅ、秀平?………何で読んでるの?相手が、分かればそれでいいんじゃないの?」
「俺が英語教師なら、この文を英文にして再度送れ、と言って突っ返すのにな……古文なら漢文に作り直させるとかさ」
「うわぁ………大人気ない仕返し……」
「実際にしないって………で、出来たのか?」
「………ここ、分かんない」
「………あぁ、これは……」
数学教師でも、高校迄の知識なら他の教科も覚えている場合、教えてくれる秀平。
秀平からの期待があるかは分からないが、それがあるから、未央理は平均点以上のテスト結果となった。身について来ていると感じつつ、勉強中はスキンシップ等無く終る。
「授業について来られるようになったみたいだな」
「うん………気抜けないけどね」
宿題はまだあるが、夕飯の時間にはなるので、一旦手を休めた。
「夏休みに入ったらちょっと1泊か2泊ぐらいの旅行でもするか?」
「え!したい!海がいい!海!」
「海か………行きたい海水浴場あったらそこにでも行くか」
「うん!」
理子とふたり暮らしの頃には考えられない程の時間の余裕がある未央理。料理や掃除等の家事は理子と協力しつつの生活だったので、海にも行った事はない。
嬉しそうな顔をする未央理に、少し申し訳無さ気には話す秀平ではあるが、社会人としての仕事がある。
「俺は夏休みでも、学校には行くし、修学旅行の下見兼ねて教員達と旅行行くから、その日以外なら予定起ててやる」
「修学旅行?何処?」
「今年は北海道」
「毎年違うの?」
「積立金の予算に合わせて場所が決まるんだよ」
「中学の時、京都と奈良以外遠出もないよ、私」
「連れて行ける時期があれば連れてってやる」
「楽しみにしてるね」
だが、その余裕も未央理に無くなってしまった。数日後、サナトリウムからの連絡。
理子が危篤と連絡を受けたのだ。
「気をしっかり持て!」
「っ……んっ……」
別れが来るのだ、と考えないようにしたかった未央理。毎週末には理子に会いに来て、その都度元気が無くなっていく理子を見てきていたのだ。
「娘さんが来られましたよ!」
と看護師が理子に声を掛けるが反応は無い。
「お母さん………お母さん!………まだ逝っちゃヤダよ!もっと話したい事あるんだよ!……何で………手術も拒否なんてするの………ヤダよ……」
「理子!」
「…………」
「………大叔父さん……」
央も連絡が入ったのだろう、理子の手を握り祈るように床に膝立ちする。
「理子……」
「………ひ……ろ……し……さ……」
理子は目を開けたが、央が来るのを待っていたかの様に、そのまま静かに旅立って逝った。
本当に未央理の両親は愛し合っていたのだ、とこの時未央理は初めて理解した。
央が泣く想像等出来なかった。理子の手を通じ、濡れているのを見た時、未央理は理子から離れた。
「………未央理?」
「………2人にしてあげようかな、て……」
「………あぁ……」
それからの数日、理子の葬儀の為に、央は手配を全てした。質素ではあるものの、何も分からない未央理の為に教える様に傍についている。
父親として、出来得る限りしたかったのだろう。
「………ありがとう、お父さん……教えてくれて」
「覚えておけ………お前の家族は理子だけでは無い」
「うん」
「明日の葬儀にはまた来る……喪主をしっかり勤めろよ」
「………う、うん……」
そう央は言い残し、藤枝家の自宅へと帰って行った。
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