上 下
43 / 53
犯罪は晩餐会に

42

しおりを挟む

 アスランの命令で、ミレーユは1人にはならない様になっていた。だが、誰しも隙という物がある。

「少し、人に酔ったかしら………休みたいわ」

 ずっと立ちっぱなしで、パウダールームにも行けない状態だ。そろそろ行きたくなる気配がし、アスランに声を掛けた。

「席外すわね………パウダールームに行きたくて」
「分かった、1人になるなよ」
「ええ」

 だが、それがミレーユを危険に晒す。侍女しか連れて行けず、パウダールームの入り口は兵士達が待機し、ミレーユが侍女と出て来た時は、兵士達の顔が違っていた。

 ―――交代したのかしら……それならいいけど………

「妃殿下、此方からの方が早く戻れます」
「…………いいの、来た通路を通ります」

 ―――兵士がそんな事を言うのは珍しいわ

 侍女達も思ったのか、怪訝そうに兵士達を見ると、兵士達が侍女達を気絶させた。

「「「ゔっ!」」」
「あ、貴方達!何をして………きゃっ!」
「警戒心強い女だ………早く連れて行くぞ!!」

 腕を背中に回され、抱き上げられたミレーユ。

 ―――しまった!!兵士達が変わった時にもっと警戒しておけば……

 兵士達の腰に掛かる剣を奪おうにも、腕を背中側に縛られ、足を持ち上げられて2人掛かりで移動させられたミレーユに、なす術無しだった。

「助けて!!誰か!!出会え!!賊が侵入した!!誰か!!…………ぐっ!」
「煩ぇ!!黙れ!!」

 口を塞がれ、声も出せず暴れるだけ暴れるミレーユ。兵士擬きから何とか逃げ出せたミレーユは、背中の腕の拘束が緩く、腕を開放する。猿ぐつわも解き、運動神経がいいミレーユは、兵士擬き達を振り切った。
 鎧を着ている兵士より身が軽いミレーユはドレスの裾を持ち上げて走る。

「誰か!!」

 騒ぎを起こせば必ず誰かが来ると思い、人が多い場所を目指す。だが、目の前に現れたのはライオネル。

「思う様にいかん女だ………だが、言う事を聞かせる楽しみも増える………」
「ライオネル…………様……こんな事をして、只で済むと思っているのですか!!」
「グレイシャーランドとの国交を遮断すればいい事だ」
「…………分かってない………昔から貴方は分かってないのね………国を見ていない……民を見ていない………」

 廊下で前はライオネルとライオネルの部下、後ろには兵士擬き。ライオネルの部下である事は明らか。

「昔…………から、だと?」
「私の名はミレーユ………ミレーユ・リタ・ヴァルム!!貴方が探していたヴァルム元伯爵の娘よ!!そして、今はグレイシャーランド国王、アスラン・ジュード・グレイシャーの妃!!」
「嘸かし馬鹿にしていたんだろうな、この俺を!アルジャーノン国王を騙して!!」
「騙した?………私の名を自己紹介した時、『リタ』と言いましたよね………リタは私の愛称………両親とアッシュしか使わない………貴方から呼ばれて本当に虫唾が走ったわ!!」
「捕まえろ!!」

 挟まれて逃げられず、再び捕まってしまったミレーユ。騒ぎを聞き付け、アスラン達も到着した所だった。

「リタ!!」
「ミレーユ!!」
「妃殿下!!」
「道を開けろ!!この女が目の前で無様な死を遂げさせたくないならな!」

 アスランとローウェン、兵士達と睨み合うライオネル。

「ライオネル!!許されると思うなよ!!」
「ふん……別に痛くも痒くもないわ!!」

 アスランに何を言われても、ミレーユが手中にあるからか、ライオネルは高飛車だ。

「ローウェン、時間を稼ぐから王城門へ周り、挟み撃ちを」
「了解………後、ヴァルムとアルドールはもう出立してるから」
「……………流石、早いな仕事が」
「当然でしょ、僕が誰だと?この国の宰相だよ?」
「それも、もう終わる」
「……………へへへ」

 ローウェンはライオネルに見られない様に、王城門へ回る。ライオネルは恐らく逃走経路も確保しているだろうが、王城門は警備を集中していて、ある意味此方も騒ぎになっていた。

「え!?ヴァルム!アルドール!」
「ローウェン様!先に退路は潰しておきました!我々は先にもう1つの退路を封鎖しておきましょう!」
「うん!頼んだよ!後から僕も行くから!」
「お待ちしております!ローウェン様!」

 ヴァルム元伯爵により鍛え上げられた兵士達と共に、アルジャーノン国の兵士達を倒していた。唯一の王城門だ。ライオネルはここからの出入り口しか知らない。
 後は、ライオネルがミレーユを連れて、王城門に来るだけだ。

「来賓方を王城門に来させるな!!待機をお願いしろ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
「さて…………僕も久々、相交えるかな……ライオネルと」

 もう兄とは呼ばない。他国に来ても傍若無人の男等、尊敬の念等あり得ないのだ。
 一方のアスランには、ローウェンからの知らせが入る。

「そうか、お義父上が………分かった」

 アスランは、ライオネル達の退路を開ける。

「ライオネル!ここでは話も、救助も出来ないからな…………移動させてやる……どうせ、退路は王城門しかないからな」
「こっちにはリタが居るんだ、連れて帰るさ」
「貴方なんかに、リタって呼ばれたくないわ!!昔っから大ッキライだったんだから!」
「その強きの性格を捻じ曲げて従順な女にしてやる」
「……………兄弟揃って……捻くれてるのはそっちなのよ!!」

 人質に取られていても、強気なミレーユに、アスランは笑いが止まらない。

「リタ、必ず助けるから」
「アッシュ!!信じるわ!!」
「逃げてみせるわ!!」

 王城門にライオネル達が出ると、アルジャーノン兵士達はもう拘束された後。再び挟まれたライオネル達と、グレイシャーランドの兵士達の数は雲泥の差だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

処理中です...