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視線の冷たさは恋慕であらず
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しおりを挟む夕食の時間になり、アスランに侍従から声が掛かり応接間のソファを立つ。
「夕食が出来たそうだ」
「じゃ、僕は帰ろうかな」
「ローウェンも食べていけ」
「え?いいの?」
アスランは頷くだけの返事だが、ローウェンは少人数で食べたくないのだろうと察知する。ライオネルが同行するのだから。
「そんなに僕と一緒に居たいんだぁ………ふふふ」
「ローウェン、気持ち悪いぞ」
「兄上にも言ってあげようか?」
「要らん!!俺はお前が嫌いだ!!」
「あっそ………僕も嫌~い」
ローウェンとライオネルの積年された兄弟間の歪みは何処までも長く深く高い。相交える事はもう無いと、アスランは思っている。
「ここだ………」
アスランがライオネルを案内した食堂は、少人数でも10人は座れる長いテーブルの置ける食堂。そこには数多くの料理が置かれている。侍従、料理人も並ぶ中、ミレーユとナーシャも立って待っていた。
「妃」
「陛下………ご機嫌麗しゅうございます」
アスランはミレーユの頬にキスを軽くした挨拶をし、ライオネルへミレーユを見せる。
「ライオネル………俺の妃だ」
「初めまして………アスラン・ジュード・グレイシャーの妃………リタと申します」
ミレーユはアスランからミレーユとヴァルムを表すのは控えて欲しい、と言われている。国内外に、アスランの結婚を公表する前だからなのもあるが、ライオネルにミレーユの存在を隠しておきたいのだ。
「………アルジャーノン国王、ライオネルだ……おめでとう、と申した方がいいのか?」
「ライオネル……何が言いたい?」
「アスランを如何やって落した?」
「うわぁ、嫌な聞き方」
ローウェンが口を挟む。
「だってそうだろう?グレイシャーランドは女が少ない………結婚適齢期を通り越してもアスランは結婚も婚約もしなかった……興味はある」
「下賤なお話ですわ………私達の馴れ初め等より、アルジャーノンの事を教えて下さいませ、ライオネル陛下…………ねぇ?」
「そうだな、食事しながら聞かせてくれ……俺も懐かしい話だ」
侍従に椅子を引いてもらい、それぞれ席に座る。アスランは上席に座り、右にライオネル、その向かいにミレーユ、ミレーユの左横にナーシャ、ローウェンだ。
「私も何品か、陛下の妹殿下、ナーシャ様とお料理作りましたのよ?お口に合えば宜しいけれど」
「…………妃が料理?………ふっ……出自は平民か?その割には場馴れしている振る舞いの女だな」
ライオネルの目部味する物言いに、雰囲気は悪い。侍従達はヒヤヒヤしている。
「妃が料理を作れても何か問題あるのか?ライオネル」
「リタ、と言ったか?………グレイシャーランド出身か?それとも買われた女か?」
「…………後者だったら、どう思われるのでしょう……私が国王妃に向いていない、と思われるのなら心外です………アルジャーノンの国王妃、貴方様の妃であれば言われても致し方ないかと思いますが………アスラン陛下に望まれてこの席に居るのです………それでいいではありませんか?」
「…………なかなか気の強い女だな………」
「それが、またいい……」
アスランは落ち着いた表情でワインを飲み、ライオネルにほくそ笑む。
「アスラン………実はな、アルジャーノンから1人グレイシャーランドに逃げた女を探している………この2ヶ月間の取引書を後から見せてくれ」
「…………買った女を返品するのは女の意思次第だ………2ヶ月あれば、もう男の妻になっているさ」
「誰かの妻になっていても奪うだけだ」
「…………意見が合わないな……締結した際に決めた事を破るのか?ライオネル」
「特例だ」
「特例でも、例外はない」
「兄上、因みにどんな女?」
空気は冷え切り、ミレーユとナーシャは会話に入るのを控えている。苛立ちを隠しているアスランを見ているからだ。
そんな時、ローウェンが空気を変えた。
「…………ミレーユという女だ」
「…………」
―――何故、ライオネル様は私を必要とするの?
ミレーユは聞いていない。アスランやヴァルム元伯爵から、ライオネルがミレーユを欲しがっている、と。
ミレーユの元にヴァルム元伯爵家族がグレイシャーランドに来たのは、結婚の承諾をアスランが欲しいが為、招待した事になっている事と合わせて、ヴァルム元伯爵がライオネルから逃げて来た、という事ぐらいだ。
「…………その女を如何したいんだ?」
「妃にする………もう、ローウェンとの婚約は破棄されているしな………」
「何故、その女に拘るんだ?」
「元々は、その女の父、ヴァルムを部下にしたかったんだがな………娘にも興味がある」
「最近、妃だった女の裳が明けたばかりじゃないのか?」
「…………あぁ………だから何だ?ミレーユが適齢期になるのを待っていただけの、慰み物だった女なだけだ」
―――そ、そんな……シャルロット様が気の毒だわ……
ライオネルは薄情な発言をする。妻として数年だろうが寄り添う事も無かったというのか。聞けば聞く程腹が立ってくるミレーユ。
「私なら………後妻にはご遠慮したいですわ」
「………妃?」
「だってそうではありません?………王族の結婚は重要な課題………亡くなられた方だとしても、王妃として迎えられたなら、慰み物ではなく、国王と同じ目線で物事を見る力を養わなければならない立場………夫からそんな事言われたら悲しくなりますね…………私自身、アスラン陛下に見合う王妃になれるかは不安ではありますが………」
「………リタ……そんな事はない……君はしっかりやっている………侍従達からも信頼を得ているんだ………俺は助かっている」
テーブルの上でカラトリーを持つミレーユの手の上に自分の手を重ねるアスラン。
「光栄です………陛下」
見つめ合って微笑み合う、ミレーユとアスラン。それを見たライオネルは、何故かそれ以降、ミレーユから目を離さなかった。
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