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動き始めたライオネル

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 グレイシャーランド国、アスランの執務室。
 山積みになった書類と共に、手紙も多く届くアスランに、興味深い手紙が届いた。

「…………アルジャーノンから?……また珍しい……」

 アルジャーノンからの手紙を読んで、兵に直ぐにローウェンとヴァルム元伯爵を呼びに行かせたアスラン。

 ―――また、自己中心的な言い分だな……ヴァルム元伯爵の縁の者の命の天秤に掛けるとは………

「如何したの、アッシュ」
「ローウェン、義父上……アルジャーノンから手紙……というか………命令的な文面で呆れるが………とりあえず目を通して貰おうと呼んだ」
「どれどれ…………うわぁ……卑怯……」
「まだアルジャーノンには、私や妻の親族も居るというのに……」
「ローウェン………先日言っていた反乱分子は見つけられそうか?……ヴァルム元伯爵がグレイシャーランドに居る事も踏まえ」

 ローウェンは手紙をアスランに返し、別の書類を見せた。

「一応、連絡取れた元貴族は居るよ……その中でちょっと興味深い情報が入ったんだよね」
「何だ?」
「ライオネルの亡くなった妃、シャルロットの父親がどうもライオネルに反感持ってるんじゃないか、て話があった」
「アルドール公爵ですか」
「そう………悪政で財産悪化した情報を流してたんじゃないか、ていう噂もあってねぇ……アルジャーノンの領主達は仲違いもさせた、とかも噂もあるよ」
「…………ローウェン、その男に連絡取れるか?」
「………嫌われてたんだよね、僕」
「私がやりましょうか?それ」
「義父上がですか?」
「はい、私もアルドール公爵とは政治的にやり合う事が多く嫌われていましたが、弟がアルドール公爵の家令の者と、弟の屋敷で雇っていた家令の者が兄弟なのですよ………弟づてで、可能か如何か分かり兼ねますが」

 ヴァルム元伯爵の申し出は有難かった。

「でも、アルドール公爵が動くかな」
「動くだろ………自分の首を締めかねない事をやってるんだ………証拠が見つからない様にライオネルへ反抗している可能性があるなら、ローウェンに…………あぁ、嫌われてるんだよな……」
「おちゃらけたこの性格が、王に向いてない!て何度言われたか……頭良いんだし、顔も良いし、華があるんだから、性格ぐらい多目に見てくれてもいいじゃんねぇ……」
「いや…………それが癪に触るから、だろ……苛々する人間はとことん許さないからな……水と油だ」
「ローウェン様は、外面も内面も隠せない人ですからね………諦めが肝心なんですが………」

 ―――義父上は『諦めた』側か……

 こうして、ヴァルム元伯爵の伝手で、アルドール公爵に連絡が付いた。

「久しいな、ヴァルム」
「アルドール公爵閣下……まさかお越し頂けるとは思わぬ収穫でございますよ」
「やぁ、アルドール公爵」
「っ!!………あ、相変わらず……か、軽いですな………ローウェン様」

 グレイシャーランドとアルジャーノンの国境砦ではライオネルに知られると思い、グレイシャーランドとアルジャーノンとは違う国で会う事になったのは、アルドール公爵から連絡が入って直ぐだった。

『隠居と称し、私はアルドール公爵領に居る。その領地からであれば、グレイシャーランドと隣接するエヴァーナ国国境に近い。そこの砦で落ち合おう』

 と、連絡が入り、ローウェンとヴァルム元伯爵は急ぎやって来たのだ。

「お越し頂けた、という事はご協力頂けると思っても?」
「…………話次第だ………ローウェン様が王の器なのも分かっている……だが………が………」
「え?諦めてよ」
「ローウェン様………私が話しますから」
「…………ちぇっ……」
「ヴァルム!!本当に、ローウェン様を推す気か!!」

 アルドール公爵の、ローウェンの態度が生理的に受付けない様で、眉間に皺が寄りっぱなしだ。

「ローウェン様は…………が無ければ、立派な方です……」
「…………くっ………話を詳しく聞こう……」
「ライオネル国王の廃位に向けて動きたいのです」
「…………正式に王になられた方を……か?」
「………だが、その王に不満があられるのでしょう?………例えば………シャルロット妃の死………」
「!!」

 ヴァルム元伯爵の言葉に、身体を硬直させるアルドール公爵。

「何があったのですか?差し支えなければ……」
「…………ライオネル陛下は……シャルロットを妃として見ようとしなかった……人質だ……」
「………母上が『白い結婚』と言っていたのも間違いでは無かったのか……」
「…………『白い結婚』の方がまだ良かったでしょうな……」

 アルドール公爵は続ける。病弱の令嬢を妃にし、病弱を理由に表には決して出さず、公務にも出さない為に、アルドール公爵の権威も衰退していく。そして王城では子供が出来ない様に、薬を飲ませていたライオネル。『白い結婚』であれば飲ませなくてもいいのでは、と誰でも思うのだが、ライオネルは性的暴行をシャルロットにしていた、という。

「私は父、シャルロットに会いに行く事もあります…………病弱ではあっても、過度な運動さえしなければ、少しなら走っても大丈夫だった……日に日に痩せ細り、ドレスと肌の間から痣が見られ、ライオネル陛下に伺った………だが、それ以降面会も出来なくなり……棺の中に居るシャルロットは更に骨と皮の状態に………今迄……注意喚起のつもりで、証拠不十分スレスレで、不正を洩らしていた……だが、全身痣だらけの痩せ細ったシャルロットを抱く事も出来ず………あの男は……『やっと死んだか』………と……私が聞いていたとは気付く事なく、納めた後も涙一滴も流す事なく、喪に服した……少しでも情があるなら言えるだろうか!!ヴァルム!!お前も娘が居ただろう!!許せるか!!」

 感極まったのか、アルドール公爵はヴァルム元伯爵の胸ぐらを掴む。その手は震え、アルドール公爵は力なく床に座り込んだ。

「よく………今迄我慢を……」
「裳が明けたら、復讐しようと思い蟄居した………そうしたらどうだ……ライオネル陛下はヴァルムの娘でローウェン様の婚約者だった娘を望む、ときた………私の娘を娶り、私が反抗せぬ様に人質にし、機を待っていた様にしか見えん!!」
「そうでしょうな…………今、躍起になって私と私の娘を探し、一領地を焼け野原にしたぐらいですから………」
「もう、遅いのにね………ミレーユを妃にするなんて」
「全くです……だが、ライオネル国王は娘が結婚した事さえ知らない」
「…………ヴァルムの娘が結婚した?」

 アルドール公爵が顔を上げる。

「えぇ、グレイシャーランド国王妃になりましたよ」
「ローウェン様の妃ではなく?」
「僕、8年の歳月でミレーユより天使を見つけたから、来年に結婚するつもり」
「な、なんと………」
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