31 / 53
ローウェンのパニック
30
しおりを挟む「………では、私は手加減して、短剣で……双剣でもよいですよ、妃殿下は」
「………久々だから、と言って………甘く見ないで下さいませ、お父様……」
闘技場にやって来たローウェンはまたも発狂する。
「な!な!何!!何でミレーユが剣持ってるの!!…………やだ!かっこいいんだけど!!」
「…………ローウェン……お前………喋るな……変態がバレる……」
「………行きます!」
「!!」
双剣に構えるミレーユは短剣のヴァルム元伯爵に切り掛かるが、ヴァルム元伯爵は左手を背に回し、短剣をミレーユに向けているだけだ。だが、ミレーユの太刀筋を見事に短剣で受け流し逃げるだけ。
―――リタも太刀筋が良いが、伯爵に完全に先読みされている
アスランはその太刀合いを止める事は出来なかった。
「陛下!妃殿下をお止めにならないのですか!?」
「ミレーユかっこいい!!」
「…………決着は長くない……見ていればいい」
ガチッ!
「くっ!!」
「腕は衰えてはいないようで…………」
双剣2本を短剣1本で止めるヴァルム元伯爵。
「そこまで!………もういいでしょう……勝敗は見えた………妃も、剣を下ろせ」
「………はい……まさか陛下もおみえとは………」
「俺も、リタの姿に惚れ直したよ」
「!!」
耳元で囁かれ、一瞬で雰囲気が変わるミレーユは直ぐに剣を下ろすと、アスランはその手から剣を受け取り、ヴァルム元伯爵に申し出る。
「義父上」
「…………」
ピクッと肩が動くヴァルム元伯爵。
「私と手合わせお願い出来ますか?妻の分の再戦を」
「…………いいでしょう……娘婿の力を確認致します」
アスランはゾクゾクしている。グレイシャーランド国内で、アスランより強い者は居なかった。だからこそ、ヴァルム元伯爵の動きに興味があったのだ。
その太刀合いは、兵士達の興味が集中する。何方が勝つか負けるか、とコソコソと賭けまで始まった。それだけ長く剣の交差する音が響く。
―――お、お父様が真剣な顔をしてる!押されてるのね……
ヴァルム元伯爵の剣はアルジャーノンでも騎士ではないのに、剣術の指南を願い出る者も多かった程の腕の持ち主。元々騎士の家系だったヴァルム伯爵家。その当主ゲイルは頭も良かったのもあり、騎士ではなく政治に携わる様になっただけ。娘であろうと、剣術を教えていたからミレーユも剣を扱えるが、やはり体力や力の差は大差だ。
「ひやぁ………アッシュも強いけど、伯爵も衰えてはないなぁ……」
「ローウェン様………父は押されてますわ……勝負はもう着くでしょう」
ガッキ~ン!!
「!!」
ヴァルム元伯爵の持つ剣が折れた。
「はぁ……はぁ………勝負ありですな……陛下」
「手合わせ、ありがとうございます……義父上」
「久々に胸が踊りましたよ………ここ迄太刀合える人間が居るとは………もう、私も引退ですね………」
「いやいや……その腕なら、グレイシャーランドの兵士を鍛えて頂きたいぐらいですよ………アルジャーノンに戻られる迄お願いしたい程です」
「私でご期待に添えるのならお受け致しましょう」
汗を服の袖で拭いながら、兵士に剣を預け、アスランはミレーユの方へとやって来る。
「あまり、心臓に悪い事を急にしないでくれ………」
「見ててウズウズしちゃって………」
「ミレーユも剣術出来たんだねぇ、あの太刀合い中の目、ゾクゾクしちゃったよ、僕」
「…………まさか……ローウェン様………加速してる?」
「ん?知ってたのか、この趣味」
「……………まぁ……それは……長く婚約者で居ましたし……」
『なんとなく………』と、小声でローウェンの名誉の為に言葉を濁すミレーユ。
「ローウェン様~」
「!!………ナーシャ!!」
「ローウェン様、今日は昼食ご一緒する約束でしたわよ?お忘れになりまして?」
「忘れる訳ないじゃない、ちょっとアッシュに付き合って闘技場に来たけど、予定外の事があってね」
ふわふわした印象の少女が、ローウェンに駆け寄って来た。
「………予定外?」
「………あ……」
「ローウェン様?…………予定外ならその時にご連絡頂きたいわ………」
―――ん?雰囲気変わら……れた?
可愛らしい少女が、睨みを利かしピリピリとした声色に変わる。ローウェンはと言うと、怯えではなく何故か嬉しそう。
「あぁ、ナーシャ……その顔……なんて可愛いいの!」
「!!………ローウェン様!私は怒ったんですよ!?」
「うんうん!怒った顔、本当に可愛い!!」
「…………やっぱり拍車が掛かってた……」
「昔から……その気配はあったからな……」
「ああっ、やっぱりナーシャだね!ミレーユの芯の通った目も捨てがたいけど、やっぱりナーシャが1番の僕の天使!!」
―――あ……マズイんじゃないかしら……
「………ミ………ミレーユ……て誰!?ローウェン様!!」
「…………ナーシャ………紹介する……」
「お兄様!!ご存知なの!?誰!誰なの!?」
アスランはローウェンとナーシャの間に入るが、ナーシャの嫉妬心が上がって行くのを見て、ローウェンもマズイと思ったのか、言い訳がましく誤解を招く事から話してしまった。
「ミレーユは、前の婚約者なんだけ……」
「婚約者!?何ですって!!私が居ながら、前の婚約者の話します!?ローウェン様!!」
「ナーシャ、落ち着け………」
「落ち着け?………お兄様!落ち着ける訳ないじゃない!!今の婚約者は私なのよ!!」
ミレーユが会話に入ったら、恐らくまたぐちゃぐちゃになりそうで黙っていると、アスランの1歩後ろに控えていたミレーユにナーシャが気付く。
「初めまして、ナーシャ殿下」
「………誰?」
「彼女がミレーユだ……俺の……」
「貴女!私のローウェン様を奪う気!?」
「…………いや、ナーシャ!落ち着け!」
「そうだよ!ナーシャ!彼女は……」
「ローウェン様とお兄様は黙って!!」
「…………奪うも何も……私はナーシャ殿下のお兄様の妃ですわ」
「…………へ?………お兄様………の妃……?」
「はい、陛下と先日結婚致しました」
結婚式も挙げていない、公表もまだしていない状況で、アスランもローウェンも伝えてはいなかったのかもしれない。ミレーユが2人の顔を見ると、言い忘れていたとばかり、困った顔をしていた。
2
お気に入りに追加
244
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる