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ミレーユの気持ち

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「……………え!?………お、お父さん?……お母さん!!……ミューゼ!ミルド!!」
「「お姉ちゃん!!」」

 ミルドとミューゼがミレーユの方に走って来るが、ミューゼが着馴れないドレスで、裾を踏んで転んでしまう。
 慌ててミレーユが手を伸ばすが間に合わなかった。

「ミューゼ!大丈夫?裾を踏まない様にしないと………この姿で走っちゃ駄目よ」
「お姉ちゃん、お姫様みたい!綺麗!!」
「はははっ…………お城に入ったら着替えさせられちゃって…………着飾るのも久々で驚いて………て………ア…………アッシュ?………その姿………」

 ―――な、何故正装なの?アッシュ!!

 アスランがミレーユに近寄ってくる。転んだミューゼを抱き起こす為に屈んでいたミレーユは、アスランの姿にまたも驚いていた。
 アスランはミューゼを抱き上げると、ミューゼとミルドに話し掛けた。

「ごめんよ、もう少しだけお姉ちゃんとお話させてくれるかな?」
「は、はい………」

 ミューゼもアスランに抱き上げられ、満更でもないのか、照れている。
 ミューゼを下ろしたアスランは、立ち上がったミレーユの足元に跪いた。

「黙っていた事がある」

 真っ直ぐミレーユの顔を見つめるアスランに、ミレーユは緊張が奔り、胸の前で手を組んでいた。

 ―――な、何を言うの?

「身分を隠し、ミレーユを騙していたと思っているが、聞いて欲しい」
「…………な、何?………何なの?」
「……………ふぅ……」

 ミレーユから見てもアスランも緊張しているのが伝わっていた。
 深呼吸をし口を開いては閉じてを繰り返すアスラン。長い時間ではないが沈黙が長く感じる。

「………アッシュ?」
「………私……アスラン・ジュード・グレイシャーは………ミレーユ・リタ・ヴァルムを愛しています……身分を隠し、君に出会い……恋をした………だがもう黙っている事等出来ない………グレイシャーランドの国王である私の妻になって欲しい」
「………………え?………こ、国王………陛下………?………え?………え?……ローウェン様!本当ですか?」

 ミレーユはアスラン本人ではなく、後ろに居るローウェンに声を掛け確認する。

「本当だよ……アッシュは………この国の王様」

 ミレーユは顔を手で覆う。大粒の涙が溢れ、手袋をしている手は湿っていった。

 ―――契約………期限が切れるから……如何するかと………思ってた……けど………まさか……私を選ぶの?………国王が……?

「ミレーユ?」
「…………わ、私に………王妃になれ、と?」
「結果的にそうなる」

 申し訳無さそうにアスランは告げた。

「…………ただ………私は……アッシュを好きなだけだわ?」
「…………うん……好きでいてくれてるんだろうな、とは知ってた……」
「き、貴族としての……嗜みも………教養も………忘れちゃった………」
「俺だって、無いだろう?」
「………………アッシュ………」
「………うん」
「……後ろ盾も何もない私でいいの?」
「ミレーユがいいんだ」

 ミレーユは手を広げる。

「アッシュ………」
「…………ミレーユ」

 アスランは跪くのを止めて立ち上がると、ミレーユを抱き締めた。

「返事は?………了解ととっても?」
「……………はい………私も貴方を愛しています……」

 応接室に立会人になったグレイシャーランド前国王、ヴァルム元伯爵夫妻、ミルド、ミューゼ、ローウェンはただ微笑ましく2人を見守っていた。

「おめでとう、アッシュ!ミレーユ!」

 ローウェンから拍手が起こると、グレイシャーランド前国王も満足気な顔をしていた。

「陛下………」
「…………伯爵………」
「陛下の覚悟………しかと確認致しました……娘を宜しくお願いします」

 ヴァルム元伯爵は夫婦共々頭を下げる。

「……………お、お父……様……お母……様……」
「ミレーユ、暫く見ない間に美しくなったな……」
「本当………綺麗だわ」

 8年振りに、貴族らしい呼び名で両親を呼ぶミレーユに、ヴァルム元伯爵夫妻は涙する。

「必ず、幸せにします」
「既に幸せそうだ……なぁ?」
「えぇ、久しぶりにミレーユの嬉しそうな顔を見たわ………」

 公開プロポーズをされたミレーユは、途端に恥ずかしそうにする。顔を手で押さえ、涙が止まらない。

「ミレーユ………夢じゃないぞ?」
「………わ、分かってるわ!………あ、じゃない………分かってますわ………」
「……………プッ……」

 急に貴族風の話し方をしろ、とは無理な話だ。それに戸惑うミレーユにアスランは吹いた。

「わ、笑わないで下さいませ!!」

 そのミレーユの手を包むアスランは、ミレーユを見つめる。

「今迄通りで構わない………臣下達の前では気を付けて貰いたいが、2人きりの時はいつものミレーユの話し方がいい」
「…………そ、それでもいいの?」
「素のミレーユが好きだから」
「…………っ!!」

 ボン!と真っ赤になるミレーユはアスランの手を逃れ、また顔を覆った。

「…………あ、煽るな!」
「!!…………あ、煽ってないわ!!アッシュが……………ア、アッシュって呼んでいいの?」
「愛称だから、ミレーユに呼ばれるのはそれがいい」
「…………そ、それなら…私も…………リタ、て呼ばれたい」

 『リタ』は、幼い時のミレーユの愛称だ。貴族社会を捨て、『リタ』の名を捨ててから、両親も愛称では呼ばなくなった。ローウェンも知らない愛称を、アスランの口から聞きたい。

「リタ………」
「………はい……」
「愛してる」
「!!」
「…………ほら、また煽る……」
「あ、煽ってなんか………」
「あぁ、もう他でやってくれる?君達」

 ローウェンの手が、ミレーユとアスランの間をシャットダウンすると、2人だけの世界は消えた。
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