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【番外編】ライオネルとヴァルム、そして経過
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しおりを挟むヴァルム元伯爵家族が村から消えた。
前日に騒ぎを起こし、それに対して領主が怒るのは無理は無かった。原因は領主にあると言うのに、干ばつで飢餓に困る村人達と対象に、ぷっくりした腹の領主。今もヴァルム元伯爵の所在不明の連絡を受けていても、鶏の丸焼きの骨を引き千切りむしゃぶりつく、意地汚さだ。
「何故見つからん!!見張っておった奴からの情報は何だったと言うんだ!」
「む、村外れの北西の居酒屋で会う、と……」
伝達が上手くいかない使えない部下。
ヴァルム元伯爵はレインに北東の居酒屋で初回に会った時間から3時間後と言ったのだ。実際は全くの嘘の情報をレインが聞いたのだが。
もうその時間さえ過ぎ、ヴァルム元伯爵家族は、村から大分離れてしまっている。
元々信用ならないレインに、ヴァルム元伯爵は嘘の情報を言ったのだ。娘の酌に触る事をレインはしたのだ、と察知する。護身用に、と持たせていた短剣を、ミレーユは見せびらかす為に持っていた訳ではない事を知っていたからだ。その話を聞いた直後、ミレーユはレインには好意を抱いてはいない、と思った。だからこその防御策。
領主や村人、他の村人達を誘導したのを焙り出す為に、騒ぎを起こしたヴァルム元伯爵。必ず自分有利に話を持って行く為に、あの中に居ると思っていたのだ。案の定、レインは出て来た為、嘘を言う。
村人達の安全は心配だが、信用出来ない村人なら話は別なのだ。レインが村人達を守るか等分からないが、ヴァルム元伯爵は念の為に、村から逃げろとは通告している。レインが後はどう思うかだけの事だ。そんなにもヴァルム元伯爵は命を抱えては逃げられはしないのだ。優先順位という物が誰だってあるのだから。
領主の命令でレインが連れて来られる。地べたを這わせられ、足元で土下座だ。
「…………お前……這い上がりたいが為に、儂の犬になるのではなかったか?」
「!!…………は、はい!!」
「確か………ヴァルム元伯爵……いや……ゲイツという男の娘に惚れて、成り上がるつもりだったのだな………その父、ゲイツに罪をなすりつけ、死に追いやりグレイシャーランドから呼び戻すつもりだったのだろう?」
「っ!!」
「残念だったなぁ………人質になるあの父親や家族が居なくなって………犬は犬らしく………地べたに這いつくばって餌でも食っておけ!!」
ベチャッ!!
「!!」
レインの前には鶏の骨付肉。
落としたのは領主だ。
「拾え…………ほれ、餌だ………食え………犬は犬らしく…………這い上がりたいのだろう?……犬から人間になりたいなら、コレが最後だ………儂を満足させて役に立て」
「…………くっ!!」
村人達は久しく肉を食べてはいない。鶏等贅沢品なのだ。それを鶏肉を食べ、ブクブクと太り、豪華な部屋と服、屋敷、宝石を身に着け、食材を床に捨てる。そんな領主等要らない。
レインはこの時初めて分かった。贅沢をしたくて、成り上がりたくて我慢していた事が、必ずしも美しい人間にはなれない事を。食材に有りつけない者はどんな事をしても這い上がりたい。好きな相手を幸せにしたい。そう思っていた。だが、目の前の男は醜い。外見でなく心が醜い、と思った。
「……………この肉………親が死んだ村の子供達に分けてあげていいですか?」
「はぁ?…………儂は、お前にやったのだ!子供は役立つか?ん?………まだ犬のお前のが使えるわ!!」
「お、俺は………今飯食って来たんで……」
「……………おい………儂に盾突く犬を捨てろ!!………この犬の家の前に吊しておけ!!」
「…………え?」
「聞こえなかったのか!!邪魔な犬を捨ててこい!!いいな!この犬の家の前だ!!!晒せ!!」
「!!!」
領主の命令に背けば明日は我が身だ。レインは領主の部下達に連れて行かれてしまう。領主は自ら手を汚さない。
翌朝、レインは村のレインの住んでいた家の前で無残な姿で見つけられた。
「レイン!!…………レイン!!」
両親は吊るされたレインを下ろした事に罪を着せ、レインはまた偽証し、ヴァルム元伯爵の逃亡を手助けした罪を擦り付け、レインと関係を持った女達は、レインの子が産まれる可能性があると、領主への反逆の恐れがある者を処罰してしまった。
だが、それをヴァルム元伯爵達家族が知る事は無い。
この領地は、後にライオネルの命令で領地は無くなるからだ。グレイシャーランド国からの、申し出に全ての罪の責任を擦り付けたのである。その為の取引金着服と、干ばつによる農業や家畜からの収入、税収の着服、それがライオネルの積年の恨みと苛立ちで、領主さえも巻き添えになったのであった。
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