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グレイシャーランド王城
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しおりを挟むカッカッカッカッカッ……。
早足で王城の廊下を歩く音に、すれ違う者達は頭を下げる。
カチャ。
「あ、お帰り」
「……………ふぅ……手紙、本当か?」
「あぁ、彼処はいつも何らかの問題を抱える領地だからね」
執務机に座っていた人物が立ち上がり、来た人物がその椅子に座る。
「温い………」
「仕方ないじゃない……最近ずっとここで仕事させてる当人が、留守なんだから………温めておいた…………プッ……」
「………毎日帰って来てるだろ………」
「お陰で僕本人の仕事が滞っちゃってるんですけどねぇ?」
「…………すまん、ローウェン」
「いいさ、義兄上の頼みなら………で?今度の女は伴侶になりそ?」
「……………まだ3日だぞ?」
「え?恋に落ちなかった?」
報告書をザッと目を通した義兄上という男がローウェンと呼ばれた男に質問する。
「ローウェン……昔お前、婚約者居なかったか?」
「婚約者?………あぁ、初恋の令嬢ね………元気かな……」
「名は?覚えてるか?性だけでもいいが」
「覚えてるに決まってるじゃない!利発で知的なミレーユ・リタ・ヴァルム伯爵令嬢……本当に可愛かったなぁ………で?何で聞くのさ…………あ!今は違うからね!今は君の妹であるナーシャ、僕の妻一筋なんだから!」
「疑ってねぇよ………ただ聞いただけだ……それに妻じゃない!ナーシャはまだ15歳だ!」
「いいじゃん、結婚する事決まってんだから………ケチ………でも、何でミレーユの事聞いてきたの?」
ローウェンが興味津々で聞いてくる。
「グレイシャーランドに来ている………会ったんだよ」
「………は?何で?………あ………そっか……僕の派閥だった伯爵だったから……廃位にはなるよね………」
「調べてもらった領地に住んでた」
「…………え?まさか……花嫁競売に売られたの!?」
「そのまさか」
「うわぁ…………初恋の子が競売に掛けられたなら助けてあげたかったな…………ちょっと待って!…………まさか……今君が夢中な娘……てミレーユ?」
山小屋で過ごす様な姿で、ふんぞり返る座り方をする男、アッシュ。彼の仕事場は王城だった。
「夢中………ではないと思うが……楽しいな、相手するのは」
「ちょっと………陛下?」
「………っ!……な、何だよ!」
ローウェンの顔が鬼の形相になる。そして陛下と呼ぶぐらいだから、王族なのだろう。
「まさか、もう…………食った?」
「お、お前にはもう関係ない相手だろ!……それに、食った後に知ったんだ!」
「アスラン………」
「………っ!」
アッシュの眉がピクッと動く。
「アスラン・ジュード・グレイシャー………よくも僕の思い出の可憐なミレーユを猛獣の如く食ったなぁ!!」
「猛獣って何だ!!俺は男だ!猛獣じゃねぇ!!」
「猛獣じゃないか!そのデカイ図体!持っているモノ!!………抱き潰されてるミレーユが目に浮かぶ………」
「ミレーユは華奢だが、一般的な身長だぞ?」
ヨヨヨ、と嘆くローウェンに呆れながら、アッシュことアスランは言い返す。
そのローウェンは負けてはいなかった。
「華奢!?……華奢って言った?華奢ならその君のゴッツい手で握り潰してないだろうね!?」
「するか!阿呆!」
「あぁ………可哀想なミレーユ……こんな猛獣に食われたぁ………」
「煩い!お前も仕事しろ!!俺は夕飯迄に戻らなきゃならんのだ!」
「…………は?夕飯?……まさか………ミレーユが作ってる訳?」
「なんか……タルトも作ってくれる、って言ってたな………俺が葡萄好きなのに気が付いて、葡萄のタルトだぜ?きっと………お、おい!振り回すな!そんなもん!!」
「僕も行くぞ!連れて行け!!アッシュ!!」
結局、剣を振り回すローウェンに押し切られ、アスランはローウェンを連れて山小屋に行ったのは日が暮れてからだった。
「いいな、俺がこの国の王だと絶対に言うなよ」
「分かってるよ………君の事情は知ってる………僕を拾った、て君は言えばいい………後は適当に合わせるし」
「そのお前の適当が怖いんじゃないか」
「何の事~?」
王城を出ると、庭園の物置き小屋から地下に下りる階段がある。その階段を下りきれば、崖に出る様になっていた。森の中にある隠し扉を開け山小屋に出る。ものの10分で行き来出来る距離だ。
「本当、よく出来てるよね、この通路」
「…………まぁな……俺が作ったヤツじゃねぇけど」
『キャー!!』
「「!!」」
山小屋から悲鳴が聞こえる。
アスランがローウェンと共に山小屋に駆け込むと、ミレーユが椅子の上で固まっている。
「ミレーユ!!」
「…………ア………アッシュ……は、早く………コレ………コレ……捨てて!!」
「…………コレ?」
ミレーユの怯える指先を見ると、鼠の死骸。どうやら棚の上にある物を取ろうとして、見つけたのか落ちてきたのか、床に鍋やフライパンが散乱していた。
「…………鼠の死骸なんて見慣れてるだろ」
「か、顔に落ちてきたんだよ!!びっくりしたんだから!!何でこんな干からびたのが出てくるの!!私が来る前だよね、きっと!!………あぁ!やだっ!やだっ!気持ち悪い!!顔に付いた!!」
「……………プッ………はははははははははっ!!変わってないね、ミレーユ!!お転婆そうなのは相変わらずだ!」
「…………へ?……だ、誰?」
玄関先に腹を抱え爆笑しているローウェンを、ミレーユはまだ分からなかった。
「拾ってきた………アルジャーノン国元第二王子、ローウェンを」
「…………へ?……ローウェン殿下?………え!…………え~~~~っ!?」
鼠に驚いてパニックになっている所に、また以外な事がミレーユに起きた為、ふらふらと椅子から倒れる。
「ミレーユ!!」
咄嗟にアスランに抱き留められ、怪我もなく済んだが、ミレーユの戸惑いは隠せる訳はなく、オロオロとしていた。
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