12 / 53
グレイシャーランド王城
11
しおりを挟むカッカッカッカッカッ……。
早足で王城の廊下を歩く音に、すれ違う者達は頭を下げる。
カチャ。
「あ、お帰り」
「……………ふぅ……手紙、本当か?」
「あぁ、彼処はいつも何らかの問題を抱える領地だからね」
執務机に座っていた人物が立ち上がり、来た人物がその椅子に座る。
「温い………」
「仕方ないじゃない……最近ずっとここで仕事させてる当人が、留守なんだから………温めておいた…………プッ……」
「………毎日帰って来てるだろ………」
「お陰で僕本人の仕事が滞っちゃってるんですけどねぇ?」
「…………すまん、ローウェン」
「いいさ、義兄上の頼みなら………で?今度の女は伴侶になりそ?」
「……………まだ3日だぞ?」
「え?恋に落ちなかった?」
報告書をザッと目を通した義兄上という男がローウェンと呼ばれた男に質問する。
「ローウェン……昔お前、婚約者居なかったか?」
「婚約者?………あぁ、初恋の令嬢ね………元気かな……」
「名は?覚えてるか?性だけでもいいが」
「覚えてるに決まってるじゃない!利発で知的なミレーユ・リタ・ヴァルム伯爵令嬢……本当に可愛かったなぁ………で?何で聞くのさ…………あ!今は違うからね!今は君の妹であるナーシャ、僕の妻一筋なんだから!」
「疑ってねぇよ………ただ聞いただけだ……それに妻じゃない!ナーシャはまだ15歳だ!」
「いいじゃん、結婚する事決まってんだから………ケチ………でも、何でミレーユの事聞いてきたの?」
ローウェンが興味津々で聞いてくる。
「グレイシャーランドに来ている………会ったんだよ」
「………は?何で?………あ………そっか……僕の派閥だった伯爵だったから……廃位にはなるよね………」
「調べてもらった領地に住んでた」
「…………え?まさか……花嫁競売に売られたの!?」
「そのまさか」
「うわぁ…………初恋の子が競売に掛けられたなら助けてあげたかったな…………ちょっと待って!…………まさか……今君が夢中な娘……てミレーユ?」
山小屋で過ごす様な姿で、ふんぞり返る座り方をする男、アッシュ。彼の仕事場は王城だった。
「夢中………ではないと思うが……楽しいな、相手するのは」
「ちょっと………陛下?」
「………っ!……な、何だよ!」
ローウェンの顔が鬼の形相になる。そして陛下と呼ぶぐらいだから、王族なのだろう。
「まさか、もう…………食った?」
「お、お前にはもう関係ない相手だろ!……それに、食った後に知ったんだ!」
「アスラン………」
「………っ!」
アッシュの眉がピクッと動く。
「アスラン・ジュード・グレイシャー………よくも僕の思い出の可憐なミレーユを猛獣の如く食ったなぁ!!」
「猛獣って何だ!!俺は男だ!猛獣じゃねぇ!!」
「猛獣じゃないか!そのデカイ図体!持っているモノ!!………抱き潰されてるミレーユが目に浮かぶ………」
「ミレーユは華奢だが、一般的な身長だぞ?」
ヨヨヨ、と嘆くローウェンに呆れながら、アッシュことアスランは言い返す。
そのローウェンは負けてはいなかった。
「華奢!?……華奢って言った?華奢ならその君のゴッツい手で握り潰してないだろうね!?」
「するか!阿呆!」
「あぁ………可哀想なミレーユ……こんな猛獣に食われたぁ………」
「煩い!お前も仕事しろ!!俺は夕飯迄に戻らなきゃならんのだ!」
「…………は?夕飯?……まさか………ミレーユが作ってる訳?」
「なんか……タルトも作ってくれる、って言ってたな………俺が葡萄好きなのに気が付いて、葡萄のタルトだぜ?きっと………お、おい!振り回すな!そんなもん!!」
「僕も行くぞ!連れて行け!!アッシュ!!」
結局、剣を振り回すローウェンに押し切られ、アスランはローウェンを連れて山小屋に行ったのは日が暮れてからだった。
「いいな、俺がこの国の王だと絶対に言うなよ」
「分かってるよ………君の事情は知ってる………僕を拾った、て君は言えばいい………後は適当に合わせるし」
「そのお前の適当が怖いんじゃないか」
「何の事~?」
王城を出ると、庭園の物置き小屋から地下に下りる階段がある。その階段を下りきれば、崖に出る様になっていた。森の中にある隠し扉を開け山小屋に出る。ものの10分で行き来出来る距離だ。
「本当、よく出来てるよね、この通路」
「…………まぁな……俺が作ったヤツじゃねぇけど」
『キャー!!』
「「!!」」
山小屋から悲鳴が聞こえる。
アスランがローウェンと共に山小屋に駆け込むと、ミレーユが椅子の上で固まっている。
「ミレーユ!!」
「…………ア………アッシュ……は、早く………コレ………コレ……捨てて!!」
「…………コレ?」
ミレーユの怯える指先を見ると、鼠の死骸。どうやら棚の上にある物を取ろうとして、見つけたのか落ちてきたのか、床に鍋やフライパンが散乱していた。
「…………鼠の死骸なんて見慣れてるだろ」
「か、顔に落ちてきたんだよ!!びっくりしたんだから!!何でこんな干からびたのが出てくるの!!私が来る前だよね、きっと!!………あぁ!やだっ!やだっ!気持ち悪い!!顔に付いた!!」
「……………プッ………はははははははははっ!!変わってないね、ミレーユ!!お転婆そうなのは相変わらずだ!」
「…………へ?……だ、誰?」
玄関先に腹を抱え爆笑しているローウェンを、ミレーユはまだ分からなかった。
「拾ってきた………アルジャーノン国元第二王子、ローウェンを」
「…………へ?……ローウェン殿下?………え!…………え~~~~っ!?」
鼠に驚いてパニックになっている所に、また以外な事がミレーユに起きた為、ふらふらと椅子から倒れる。
「ミレーユ!!」
咄嗟にアスランに抱き留められ、怪我もなく済んだが、ミレーユの戸惑いは隠せる訳はなく、オロオロとしていた。
0
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説



淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる