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花嫁競売の意味
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しおりを挟む「はぁ………楽しかった」
「そうか………良かったな」
停車馬に戻って来ると、アッシュは馬に荷物を括り付ける。
「ミレーユ、馬に乗せた荷物も多い、俺達は歩くぞ」
「…………そっか………買い過ぎちゃったね……ごめんね」
馬の首や鼻筋を撫でるミレーユ。それだけで馬の扱いが慣れている女だと分かってしまうアッシュ。
「子供の頃、家で飼っていたのか?」
「………うん………世話迄はあまり出来なかったけど………」
「お前の両親はどんな親だ?」
「…………父は厳しい人かな……弟が産まれる前迄は……母は………おっとりしてて優しい人………アッシュは?」
「俺の父は厳格でな……今でも口煩いし……母は早くに亡くした………」
「…………そうなんだ……」
来た道を戻るだけだ。その間話す事を探すのは難しい。お互いに隠す事が多くて、会話して墓穴を掘り兼ねないからだ。
会話をしては止まり、会話する内容を思いついては何方かが話を始める。
「何冊か本も買っていたが、どんな本だ?」
「…………この国の歴史書と、地理……後は文学かな……」
「勉強熱心だな………勉強は好きなのか?」
「勉強が好きな訳ではないの………知識は自分の宝になるから覚えて損は無いと思ってるだけ………折角グレイシャーランドに来たのよ?自分の国、アルジャーノンに帰る時に弟や妹に教えてあげられるじゃない?」
「それが、勉強好き、と言わないか?」
「叩き込むだけだからなぁ………全部覚えているか、と言えば自身はないけど?」
「賢いんだよ…………お前は話し方も知的だ………だから、1組に分けられた」
「その仕分けが処女か処女じゃない、て事ぐらいでよく分からないんだけど………」
「…………1組から5組迄ある……ただそれだけだが?」
「何か隠してるよね…………」
「…………確かな情報を言った迄だ」
隠してるのが分かるのに、肝心な事は話さないアッシュ。ミレーユもそうなのだが、探り合いも疲れてくる。
―――肝心な事は隠すのね……私もなんだろうけど
山小屋に着くと、山小屋の扉に手紙が挟まっていた。その手紙をミレーユが気が付く。
「何、これ………」
「あっ!!…………コレは俺にだ!見るな!」
「……………はい……見てないわよ」
「………先に入ってろ……荷物は下ろして俺が運ぶから」
奪う様にミレーユの手から手紙を受け取るアッシュ。その慌てぶりが気になり、扉を締める振りして、隙間から覗くミレーユだが、アッシュはその扉を締めた。
―――あっ!……何警戒してんのよ!……でも、何で私あの人の事が気になるのかしら………1ヶ月で所有権切れるなら、気にしなくていいのに……
一方のアッシュは、扉の締め切る音がしなかったのに気が付いた。
―――覗く気だな?………ったく………素性なんてまだバラせるかよ……で?何だ………あぁ……やっぱりか……
アッシュはその手紙を風呂場の薪場にビリビリに破って燃やす。紙の痕跡を消すと、荷を下ろして山小屋に入った。
「何か作ってくれんのか?」
「………うん、簡単な物で良ければ……タルトでも、と……夕飯には早いしね……ヴァニラが買えたし………甘い物好きなんだ~、私」
「タルト?」
「うん、知らない?ビスケット生地にクリーム流して果物いっぱい乗せるの……葡萄も買ったし………葡萄好きだよね、アッシュ」
「……………あ、まぁ………果物の中では好きだな……」
紅茶を淹れて、ミレーユはアッシュの前に座ると、ほわほわと幸せそうな顔で紅茶を堪能する。
「そんな顔もするんだ………」
「……へ?………変な顔してた?」
「何か久しぶりに好きなもん口にした、て顔してた…………違うか?」
「…………まぁ……」
マグカップをテーブルに置いたミレーユ。その後、俯いて話した。
「農民の前…………私どんな生活してたと思う?」
「…………貴族」
「……何で分かったの!?」
「見りゃ分かる………短剣、知能、馬、新聞、本の選択……爵位迄は分からんが……」
「………ヴァルム……」
「…………え?」
「私の性よ………ミレーユ・リタ・ヴァルム………」
「…………『リタ』……短剣の柄に掘ってあったな……『リタ』と」
「……………私が貴方に隠しているのはそれぐらい……今は廃位になったから農家の娘でしかないわ………別に痛くもないけど、探られるよりずっといいかな、て………」
「そうか………」
ミレーユは『自分が話したんだから、話してよ』と言うかの様な顔をする。だが、アッシュは話す事はしなかった。ミレーユの意図する事が分からないのか、わざと言わないのか、ミレーユには分からない。
紅茶を飲み終えるとアッシュは席を立つ。
「ちょっと、猟に行ってくる………干し肉食いたいだろ?」
「干し肉なら買わなかったっけ?」
「あれは、馬だ………干し肉なら鹿や猪の方が美味い………捕まえられたら、だがな」
「…………あ、うん………気を付けて……」
山小屋の扉が締まり、ポツンと1人にされたミレーユ。
「何か…………やっぱり誤魔化されてる……」
先程の手紙の慌てた姿を見て、自分の話をしたのに、と思って言ったのだが、知らないままの方がいい気がしてしまったミレーユだった。
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