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買われる女達

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「10!」
「15!」
「18!」

 数字が飛び交い、その声は低く度太い声ばかり。目線を男達の向かう方へ向けると、今別れた女達が並んでいた。

「18でいいか!他に居ないか!?………18万ギルで落札!!」
「……………なっ……」
「声を落として黙って聞け」
「……………む………無理………」
「じゃぁ、説明はしない」

 覗き穴から見る光景は、明らかに競売だ。見知った女達が、見知らぬ男達に値段を付けられていく。
 騒ぎを起こせば、分が悪いミレーユにとって、命を落とすだろう。

「…………説明して下さい………黙ってます」
「利口だな………それがいい……グレイシャーランドは男が人口の8割を占めている……」

 ―――は、8割?……女性が少ない、て事?

 ミレーユは覗き穴から男を見る。男はミレーユの動向を見逃すまいと見つめていた。

「…………へぇ~……何か察したか?………察したかどうか分からんが、あの男達は女に飢えた独身男達だ……期間限定で女を買い、その女が気に入れば妻とする………妻となれば子を産み男と暮らしていく………女の比率が少ないこの国で、国王もいい歳だが伴侶も居ないのでな………人身売買を黙認してるのさ……だが、女達にも人権はあるから、女達が拒否すればまた違う男達の妻になれる様にまた競売参加だ………グレイシャーランドは一夫一妻制、浮気はご法度………長年、女の比率は少なくてな……こうでもしなければ女に出会えない」
「……………だからといって………こんな……近隣諸国を騙す様な事………」
「…………騙してるのは国だろ……貧しいからと言って、出稼ぎを斡旋させろとは、グレイシャーランド国王は近隣諸国には言ってはいない」

 ―――騙されるのはいつも何処でも国民ばかりね………

 ミレーユは、深く溜息を吐く。ミレーユ自身、働かなければならないと思ったから、隣国に迄来たのに、競売で夫に選ばれて妻にさせられるなんて、思いもよらなかったのだ。

「落ち込む事はないさ………競売に売れ残る女はまず居ない……お前だって、気にいる男も出て来る筈さ」
「…………わ、私は!」
「!!」
「っぐっ!」

 男は慌ててミレーユの口を手で塞ぐ。

「黙っておけ、と言った筈だ…………喋るならもう行くぞ」
「んんっ!!」
「文句なら後で聞いてやる」
「!!」

 男のガタイが良いからか、ミレーユは肩に担がれてしまい覗き窓のある部屋から出された。

「離して!下ろして!!私を帰らせて!!私は、弟を学校に行かせたいが為に出稼ぎに来たの!!農民なんて辞めて、働ける場所に行く!!あんな領地なんて捨てる!!」
「…………弟が居るのか……」
「そうよ!妹もまだ小さいもの!私が働かなきゃ!」
「…………お前を買った俺の金もある筈だ」
「行かないわよ!!絶対に!!領主が横領してる、て分かったから!」
「……………クククッ……やっぱりお前は利口だ……分かったから暫く俺と過ごせ………衣食住は面倒みてやる」
「きゃっ!!」

 砦には馬が繋がっており、ミレーユは馬に乗せられる。

「馬は乗れるか?」
「………子供の時に乗った事があるぐらい……」
「…………そうか……だが、場所を特定されたくないんでな……目隠しさせてもらう」
「え!!」

 暴れられると男は困るのだろうとは思うが、男が馬に跨るとミレーユの目を隠し、抱き締める様に手綱を掴んだ。

「細いな……食ってるか?お前」
「…………裕福な農地じゃないの……その日食べるだけで精一杯なんだから………」
「俺は、胸と尻がデカイ女が好みだ」
「聞いてないわ!」
「ははははははっ!………走るぞ!舌噛むなよ!」

 途中、休憩がてら食事を取るミレーユ。男から渡されたパンやチーズや干し肉を、ミレーユは無我夢中で食べた。

「…………お前………そんなに貧しい暮らしをしていたのか……」
「………チーズや干し肉なんて久々よ……家畜は皆、食料になって1年振りぐらい………」
「何があったんだ?住んでいた場所で」

 休憩中は不便だから、と目隠しは取ってはくれたが、森の中だからか全くミレーユには地理が分からない。今放置されたら生きてはいけないだろう、とミレーユは男に従っている。

「…………2年ぐらい干ばつが続いていて、作物も取れないし、家畜も痩せていく一方で、そうなる前に村人達で協力し合って、分け合いながら暮らしてたの………領主に掛け合っても、反乱とみなされ吊るし首に……」
「…………如何なってんだ、お前の国は」
「知らないわ………政権交代があってから必死に生きてきたから」
「…………なるほどな……さて、食ったら行くぞ………昼前には帰りたいからな」
「え?夜は獣が出るんじゃ………」
「野営したって、獣には関係無い………それに、この道は出ない様になっている……ほら、行くぞ」

 ―――出ない様になって……いる?如何いう事?

 抱き上げられ、再び目隠しをされて出発するミレーユ達。夜中も馬を走らせ着いた場所を見てミレーユはまたも驚くのだった。

「え?ここが貴方の家?」
「まぁな…………ここから南に進むと街がある……俺との生活に慣れたら連れてってやるよ」
「…………私が住んでた家より小さい……」
「知るか、そんなもん………ほら、入れ」

 森の山の麓に建つ山小屋。木々が生い茂り、かろうじて空が見えるが、山小屋の裏の崖に圧倒される。何故この男がここに住むのかミレーユには理解出来なかった。
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