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旅路で変わった人生

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 野営の準備をし、皆で火を囲む。だが、何人かは居なくなっている様だ。離れた場所で男女のヒソヒソと声を押し殺し切れていない声が聞こえる。

 ―――何やってんのよ……こんな外で……

 火に当たり、暖を取っているミレーユの横にレインが座る。

「…………ミレーユ……」
「何?」
「本当に行くのか?」
「………えぇ……ミルドを学校に行かせたいの」
「俺達は農民だぞ?学校行ったって、意味ねぇよ」
「それじゃ駄目なのよ………あの子は勉強させなきゃ……」
「俺なんて、読み書きぐらいしか出来ないぜ?」

 ―――近いわ

 肩が触れるぐらい近くに座ったレインから少し離れたミレーユ。だが、レインは離れた分だけ寄ってきてしまう。

「………レイン、私寝るわね」
「待ってくれ!ミレーユ………俺と一緒に村から逃げよう!」
「…………無理に決まってるでしょ?私は出稼ぎに行くの……それは領主に申請してある……私が居なくなったら、家族が罰せられるのよ?」

 国民には所在を分かるようにしていなければならない決まりになっている。出稼ぎに行く人数や名前は国境で確認されるのだ。ミレーユが居なければ、所在不明者として逃亡した罪を負わされてしまう。

「そんなもの捕まらなきゃいいだけだ」
「…………私はレインとは行かないし、逃げるつもりはないわ」
「俺が守ってやるから!」
「守ってくれなくて結構よ………私、レインと一緒になるつもりはないから」
「っ!!」
「い、痛っ!」

 荷馬車へ戻り休もうとしたミレーユに、レインはミレーユの腕を掴むと林の中へと引っ張って行く。

「レイン!!離して!」
「嫌だ!!…………俺はお前が好きなんだ!知ってるよな?………俺が何度もプロポーズしてたの………」
「…………私は貴方の事………何とも思ってないから………っ!!」

 睦み合う男女達の横をすり抜け、他の男女達の視界に入らない木にミレーユを貼り付ける様に押さえるレイン。

「何でだよ!何で俺じゃ駄目なんだ!」
「………知らないと思ってた?………村や他の村の女達とも抱き合ってるの、私知ってるの………浮気性な男なんて願い下げよ!」
「!!………だってそれはお前が俺を相手にしないから!」
「私は、結婚なんて考えた事もない………生活優先なの………働ける私が働かないで、逃げ回る人生なんてまっぴらごめんよ!………んっ!!」

 レインは全否定するミレーユに、身体で汲みしようとキスでミレーユの言葉を遮った。

「んっんんっ!!」
「………くっ!」

 ドンッ!!

 ミレーユはレインの侵す舌を噛むと、身体を力一杯押した。

「………そういう所が私嫌い………近付いたらちょん切るから!」
「なっ!」

 ミレーユにキスしながら、もう服から出していた杭。ミレーユはその杭を指差し、睨んでいる。そして、隠し持っていた短剣をレインに見せた。女でも身を守る術をも教育されていたミレーユ。たかが農民の娘が持ち歩く物ではない。

「何で………剣なんて持ってるんだ!」
「護身用よ………近付かないで……貴方が近付いたら、私自身胸に剣を刺したっていいんだから………レインに罪を着せてね……」

 農民のレインは、鍬や斧ぐらいしか扱った事は無い。剣の扱うミレーユの構えで、腰を抜かしたレインは尻込みしながら、去って行く。
 その姿を見て、結局口だけの男だと認識したミレーユ。

 ―――お調子者の彼だから、脅しに効くかと思ってたけど、効果抜群だったわ

 ミレーユは村人達に、短剣を見せた事は無い。扱い方を鈍らせるつもりは無かった、ミレーユの父は、剣では無いが短剣は持たせていた。

『ミレーユ………もし自分が恥ずかし目を受ける事があったら、お前の判断で自害しなさい……人を傷付ける為に持つのではない。自分を守る為に……』

 歳の離れた弟が産まれる迄、後継者として育てられたミレーユ。弟ミルドが産まれてからは、厳しさは和らいだが、ミレーユはその前に父からの教えの大切さが分かっていた。だからこそ、普段から持ち歩いていたのだ。

『もう、我々は農民になったんだ……貴族の時の様に練習はしなくていいんだぞ?』

 と、言われる様になっても続けるミレーユを見た父はその内言わなくなっていったが、ミルドにも村人達から見られない様に、剣の稽古を始めたのをミレーユは知っていた。
 自分の身は自分で守る。それがもう貴族に戻れないと分かっていても、身に付くものを増やす事は、その者の為になるからだ。
 
       ☆♢☆♢☆♢☆♢

 国境の砦に着いたミレーユ含む女達。数日間夜には啜り泣く女達も増え、何人か男と消えた。その事に関して、ミレーユは何も思わない。友人だった女も消えたが、無事だけを祈った。
 出稼ぎに行くと決めたのに、男に誑かされて消える女も居る事も聞いてはいたが、ミレーユはレインだけでなく、別の男からの誘いも決して頷く事は無かった。

「3人、女が居ないが………」
「行方不明になってしまって……」

 警護していた男が、砦の役人と話している。

「まぁ……毎度の事だが……どの娘が居ないんだ?」
「………えっと………コレとコレ……あとコレ……」
「おい、点呼だ!」

 次々に名前を呼ばれる女達。点呼が終わると、役人から布袋を警護の男に渡された。

「ほらよ………女達の『給金』だ」
「へへへ………有り難い」

 ―――給金?…………村人達にちゃんと渡るんでしょうね?

 ミレーユは、急に不安になる。今迄何度か独身の女達を出稼ぎに出した。だが、一向に村に救援物資等来た事もなければ、金も渡された記憶も無い。証拠等無いが、領主が着服している可能性もあるのだ。

「あ、あの!それお金ですよね?ちゃんと村に分けてくれるんですよね?」
「「……………」」

 ミレーユは思わず声を張り上げる。
 すると、役人と警護の男は、ニタニタと笑い、ミレーユに告げた。

「あぁ、大丈夫だ………お前達の村は裕福になる充分な金を渡した」
「そうそう、安心しろ………雇い主が決まったら、定期的にお前達の親にも金が渡る」
「…………そうですか……なら安心ですね」

 ―――嘘だ………絶対に嘘よ……逃げても捕まる……見知らぬ土地で逃げたら多分もう帰れない……

 ミレーユは、言葉と裏腹に役人達の表情から絶対に嘘だと気が付いたが、他の女達はミレーユ程、学が無い為、ミレーユが何を言っていたかも分からなかった。
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