情事の風景

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
28 / 31

監禁と結婚 ②

しおりを挟む
 静寂を破るかのように、カチャカチャという金属の冷たい音が鳴っている。

「外れそうもないな……。それにこの首輪……んんんっ」

 ギルがベッドの上で足枷と首輪を手で確かめていた。力ずくで外そうとするも、勿論外れる訳もない。肩を落とし途方に暮れる。

「セイン様はご無事でしょうか……」

 気を取り直して辺りを見渡した。部屋の中はそれなりに豪華に見える。今いるベッドも側に置かれたソファーや家具も豪華な装飾が施されていた。
 ギルは立ち上がり、閉め切られていたカーテンを開ける。

「まだ暗い……」

 どれくらい眠らされていたのだろう。同じ日の夜なのか、それとも数日経っているのかも分からない。窓から見える景色は暗くてあまりよく見えなかった。
 直ぐに視線を入口であろう扉に移し、移動する。扉に手をかけ、押したり引いたりするもびくともしない。

「開くわけないか……わぁっ」

 ため息をつこうとしたところ、扉が勝手に開いた。

「起きられましたか。バルダス陛下の命により、本日よりそちらで過ごして頂くこととなりました。今夜のお相手をご用意いたしましたのでゆっくりお楽しみください」

 兵士がそう伝えると、真っ赤なドレスに身を包んだ赤髪の女性がおどおどしながら入ってくる。

「えっ? どういうことですか? あの、セイン様は? 他の皆さんはどこに?」
「皆様もゆっくり休まれております。では、失礼します」
「待ってください! それなら、セイン様に会わせっ……」

 兵士はそれ以上何も言わずに扉を閉めてしまった。扉の側で女性が俯いたままじっと立っている。

「……すみません、あなたは何か知ってらっしゃいますか? お相手とは何でしょう? 私は直ぐにでもセイン様の元に行きたいのですが」
「……お名前……」
「え?」
「あなたのお名前は?」

 顔も上げずに女性が尋ねてきた。

「ああ、失礼しました。私の名前はギル・クラークと申します」

 女性がバッと顔を上げ食い入るように見てきた。彼女は困惑しているようにも見える。



「……ま……さかとは思うけど……さっきからあんたが言ってるセイン様って、ローンズ王国の王子じゃないわよね?」

 おどおどした姿は影を潜め、睨むように視線を送ってきた。

「そうです。きっとこの城の何処かにいるはずなのですが……。えっと、ここはデール城ですよね?」
「ギル・クラーク……っ!」

 女性が突然、右手でギルの胸ぐらを掴んできた。

「えっ? えっ? えっ?」
「だからあんたみたいな弱いやつにセイン様をお任せするのが嫌だったのよ!」

 声を押し殺しながら怒りを露にする。

「あんた、側近としてセイン様をちゃんとお守りしなさいよ! 馬鹿じゃないの!? セイン様に何かあったらどーすんのよ!!」
「……す、すみません。本当に私が不甲斐ないばかりに……。えっと、あなたはいったい……」

 女性は睨んだまま、胸に置いていた手を突き放すように離した。

「私はアリス。ローンズの先鋭部隊、騎士アリスよ。一度挨拶したことあるけど?」

 ギルが首を傾げながらもアリスをよく見る。露出の高いドレスを着ていたため、鍛え抜かれた手足は隠せていない。また、赤い髪とエメラルドの瞳は見覚えがあった。

「ああ、そうですね! 確かにお会いしました。あまりにも美しいので分かりませんでした」
「なっ!」

 ギルが微笑むとアリスは顔を赤く染める。

「良かった、助けに来てくださったのですか? それにしては早すぎる気もしますが……。もしかしてあれから何日も過ぎたのでしょうか?」
「知らないわよ。とりあえず何があったか話して。私のことはそれから話すわ」
「はい、わかりました」

 アリスに促されるままに、デール王国に着いてからのことを話した。

「そう……分かったわ。話からすると今はセイン様が捕まった当日の夜よ。まだ三時間くらいしか経っていないわね。ギルのこの待遇からしてセイン様もそれなりの待遇を得ているとは思うけど、足枷とその首輪は付けられている可能性はありそうね」
「私もそう思います。何とかここから出て、皆さんを助けなければ……」
「アランとアルバートさんはちょっと心配ね……。アトラスの者だってバレてなければいいけど……。ちょっとその首輪、見せてくれる? ……あんた、背が高いわね。ベッドに座ってよ」

 ベッドに腰掛けるとアリスが後ろに回り、首輪を確認する。

「ふーん。これが魔力を消滅させる首輪なのね。噂には聞いてたけど凄いわね。でも、これなら焼き切れそう。ちょっと熱いけど我慢してね」
「え? あつ……っ!」

 焼かれるような熱さを感じた後、首輪の重みがなくなった。

「回復出来るんでしょ? 首、火傷させちゃったから自分で直してね」
「ありがとうございます。それで、アリスさんは何故ここに?」
「足枷も同じように焼き切るわね。私は調査で来ていたの。デールが特殊部隊を作っているって噂を聞いてね」

 アリスは、ギルの足枷に魔法を注ぎ始める。

「あっつ……。えっと、特殊部隊?」
「そう。魔力を持つ者をこうやって閉じ込めて、女を送り込むの。そうやって魔力を持つ子供を作らせているみたいね」
「子供を!? 人間を家畜かなんかだと思っているんですか!?」

 ギルが立ち上がり、足元にいるアリスを見下ろした。

「知らないわよ! でも魔法が使える人間が国に多くいれば、戦争にも魔法薬研究にも有利なのは間違いないわ。今回の戦争にも恐らく多くの魔法使いが参戦するんじゃないかしら。じゃなきゃ、戦争を起こそうなんて気になるわけないもの。ただ、私がここに来たのは昨日なんだけど、そいつらの気配がないのよね……。ぎりぎりまで魔力を封じるつもりなのかしら?」
「陛下に報告は?」
「勿論しているわ。さ、セイン様を助けに行くわよ」

 足枷を外したアリスも立ち上がり、ギルの腕を叩く。

「はい! アランさんとアルバートさんも見つけます!」
「わかってるわよ。急ぎましょう」

 先ずはこの部屋から上手く抜け出さなければならない。不安そうなギルとは対照的に、アリスは当たり前のように扉に向かって歩いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...