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フェンスを越えたら
しおりを挟む「なぁ、今日ウチに来いよ」
「……………う、うん……」
フェンスの隙間から、指を絡め合う男女。
小声で、周りには知られない様にしているのは、秘密の関係なのだろう。
体操着を着ている男と、制服を着た女。同じ学生には見えないぐらい、若干大人びた男である為、教師に見える。
「都合悪い?塾の日だったか?」
「違う………けど……関係、バレちゃいそうで……」
「それでもいい、て言ったのはそっちだぞ?」
男はフェンスに凭れ、女に背を向けているが、フェンスの隙間から指を出し、女の指を絡め、気持ちを確かめているかの様だった。
教師と生徒の密かな恋は、生徒である女が卒業する迄ひた隠しにしなければならない。
教師として、学校に知られたら教師では居られない。それだけ慎重にもなり、感情を抑えなければならなかった筈だった。しかし、生徒である女は、感情を抑える事が出来ず、なし崩し的に教師を落としてしまったのだ。
箍が外された教師も、その女生徒の前では男となってしまう。一線を越える事は自身の首を締める事になるのに。
「…………まぁ、来たければ来い……卒業も待っててやるから」
「あっ………」
男はフェンスから指を引込み、背中を放す。絡み取られていた女の指は、宙に浮いて名残惜しそうにしていた。
運動部の顧問らしい男は、生徒達の指導に行ってしまったのだ。
「…………先生……好きです……」
女は男の背中に語り掛けると、男は背中で手を隠し、ヒラヒラと手を振ってから、ハートマークを作って見せた。
女の声が聞こえていたのであろう。
学校の授業が終わり、女は男が住むマンションの部屋の前で待っていた。制服では誰かに見られた時に、直ぐに知らされてしまうかもしれず、一度家に帰り、大人びた服に着替えてソワソワして待つ。
「何だ……今日来れないと思ってたのに」
「…………直ぐ、帰らなきゃならないんですけど……」
「分かってるさ………で?カムフラージュ出来る物も持って来たか?」
「教科書と筆記用具は必須、でしょ?」
「…………言っておくが、俺は卒業迄待つって決めてるんだからな………本当に少しだぞ?」
一線の境界線を越える事も越えさせる事も出来ない2人。プラトニックでまだ居たかった男。
部屋の扉を開け、玄関先が2人の時間だ。見られても生徒が教師の家に質問をしに来た、と言い訳が出来るから。
その代わり、指をフェンス越しではなく絡めながら話すのだ。たった30分の逢瀬。
「………じゃあな、気を付けて帰れよ。送ってやりたいが人目に付くから」
「気を付けて帰りますよ………ね、先生?」
「ん?」
女は男の胸ぐらを掴むと自分の方へ引っ張った。
「!」
すると、男の唇に近い頬へ自身の唇を当てる。
唇へのキスはまだ憧れで、如何してもそれが精一杯だったのだろう。
「な、何だよ……キス初めてなのか?」
「せ、先生には………まだイケない……から……卒業したら口にさせて……」
「………卒業したらな……予約させておいてやるよ」
卒業迄、お互い我慢だった。
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