【完結】竿師、娼婦に堕ちる月の夜

Lynx🐈‍⬛

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睦み合うのには外堀から

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 夕飯を鬼龍院の家族と一緒に、と部屋に戻る途中、二三矢に呼び止められた蝶子。そして、部屋の中に用意してあった着物を着て来て欲しいと言われてしまう。それが隼人からの贈られた着物だと、直ぐに気が付く蝶子。
 鬼龍院の主夫婦も同席すると言うなら行かない訳にはいかず、そして隼人から贈られた着物に腕を通せば、受け取ったと見られてしまう。隼人の悪知恵なのだが、外側から回り硬めて、蝶子の逃げ場を無くされた感じがして、蝶子は悲しかった。

「……………この着物は着ません………別のを着ます」
「え………あの………奥様もこのお着物を着られたお姿を見たい、と……」
「……………そ、そんな……」
「お見立ては奥様の様で、隼人様がご購入された物だと、二三矢さんが仰いまして」

 二三矢が言うならそうなのだろう。蝶子は深い溜息を吐き、今着ている着物の帯紐を解く。

「仕方ないですね…………このお着物を着させてもらいます……」

 帯を変わり結びにして貰い、髪飾りを着ける。毬の柄が艶やかに描かれた赤い着物だ。柄も小物も、蝶子好みの物で、着てしまうと気に入ってしまうのは分かっていた。

「お似合いです、蝶子様」
「…………ありがとうございます」

 食事が用意出来た、と知らせがあり、部屋から洋間へと案内された蝶子。既に、鬼龍院夫妻は席に着いていて、談笑していた。

「お待たせしてしまいましたか?」
「おぉ、蝶子さん久しぶりだね、なかなか時間を取れずに申し訳無い」
「旦那様、あの着物、蝶子さんに似合うと思って私の見立てで隼人が用意しましたのよ」
「ほぉ、良く似合っている……流石、君代だね」

 隼人の母、君代は蝶子を見てご満悦だ。

「本当はね、蝶子さん………その着物で結納をと用意させていた物なの……それが結納の日取りも駄目になってしまったから、如何しても着て頂きたくてね」
「…………そうだったんですか……」

 蝶子は椅子を引く二三矢の待つ席に座る。隣は空席だが、膳が準備されているあたり、隼人が座るだろう。蝶子は隣の空席を見つめる。

「隼人ならもう直ぐ来るわ……少し前に帰って来たから」

 君代は察知し、蝶子に隼人の事を話す。

「蝶子さんは、破棄したいんだって?」
「……………は、はい……」
「そうなのよ……娘が出来ると思って楽しみにしてるのに……」
「君代は、既に蝶子さんを娘の様に見てるじゃないか」
「だって可愛いもの………息子は、つまらないわ」
「すいませんね、母上………つまらない息子で」
「!!」
 
 洋間の入口から隼人の声が聞こえる。蝶子の身体はピクッと動く。

「やぁ、蝶子………顔を見て話すのは久しぶりだね」
「………っ…………は、はい……」
「…………」

 蝶子は隼人を見ると直ぐに目を逸らし俯いてしまった。

「隼人、結婚式は予定通りにするがいいか?」
「構いません………蝶子もいいかな?」
「…………え……わ、私は………もう隼人様とは……結婚出来ません!!」
「それは…………事件があったから?」

 隼人の父から蝶子に言われる。だが、蝶子は黙って受け入れる事は出来なかった。

「はい…………わ、私はもう隼人様に相応しくないんです………権藤様に汚れた身です……それを…………隼人様が傍に居ない事をいい事に…………ある男性に、慰めてもらいました………隼人様の代わりに……」
「………それでは、その男性の元に行くつもりかい?」
「………………いいえ……『他の男に未練がある女は要らない』と言われてしまいました」
「なら、隼人に戻ればいいんじゃないのかい?」
「…………そ、そんな!!隼人様が許して下さるとは思えません!!」
「俺?…………許してるけど?」
「そうですよね!許して…………え?…………そ、それでもあっちが駄目ならこっち、てそんなふらふらとした気持ちを、隼人様に申し訳なくて……」

 『許している』と言う隼人の真意が分からない。

「それなら、いいじゃないか………なぁ、隼人」
「えぇ………蝶子がいい、て言ってるんだよ?」
「わ、私は…………」
「隼人、まだ説明してないのか?」
「……………説明する時間を蝶子から貰えなくてですね………」
「…………そういう事か……なら、さっさと話してこい………食事終わってからな」

 それからというものの、会話はするが蝶子は上の空で、結局押し切られる様に、婚約破棄も出来ず食事を終えてしまった。

「蝶子、話をさせてもらうよ、今日という今日は………いつまでも高蔵寺家に挨拶や見舞いに行けないのは、礼儀知らずになるからね」
「……………わ、私一人で行きますから」
「それは駄目…………結婚式の日取り等、話ておきたいから」
「は、隼人様………」
「部屋を変えようか」
「……………はい……」

 従うしかなかった蝶子。話さなければ解決にならないのだ。


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