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睦み合うのには外堀から
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しおりを挟むそれからというものの、隼人から蝶子宛に花束や服、着物や着物小物等、金額等様々な物が、手紙を添えて贈られて数日が経った。
基本的に、倹約家の蝶子は受け取れない、と何度かメイドを通し返そうとしたが、『蝶子の為に揃えた物だから、要らないなら捨てる』と返される。
「受け取って下さいよ、蝶子様」
温室に蘭の手入れに来ていた蝶子に光がお願いしている。どうやら、隼人が蝶子と会えない苛立ちを見せている様だ。
「あぁ、俺が何か贈り物でもしてみたら?て言ったんですよねぇ……」
新之助に手入れ方法を教わっている蝶子は手を止める。
「私は高価な物等、必要ありません………私は
既にこの温室でさえ、申し訳無くて恐れ多いんですから………今の内に、勉強しておかないと……」
「蝶子様~、なら隼人様にお会いになって下さいよ~!」
「会わなくても、贈り物無くても、お手紙だけで済みますのに………それだけでも隼人様を煩わせるだけ……私の意思は決まってますから…………鬼龍院の旦那様にお会いして、お暇したいのだけど、お会い出来なくて……」
「そりゃ、旦那様は蝶子様から避けてるから……」
「光、またお前余計な一言……」
「そうでしょうね………奥様にも会えなくなって………ただ『隼人様と話し合いなさい』で返って来るものだから……」
「じゃ、会うしかないんじゃないですか?蝶子様」
「!?」
新之助と光とは違う声がして、振り向く蝶子。コック服を着て、長い髪を束ねた青年、満夫だ。
「満夫さん………」
「蝶子様は、謙虚さが長所ではあるが、それがたまに短所になる………頑固過ぎますよ……俺達の前では、あれだけ好きで好きで、という顔をなさってるのに、本人を前にしたら口や表情を隠していらっしゃる…………ぶつけてご覧なさい……隼人様に」
そう言うと、満夫は持ってきたのかお茶と菓子を温室内のテーブルに置いた。
「隼人様も、素直に言葉にしない方だからなぁ………せっかく、素直になりそうな時期だと思うんですけどねぇ………薔薇の花弁でお茶と菓子を作ってみましたよ、蝶子様………この薔薇は隼人様から蝶子様に贈ったものですけどね…………まさか、これも受け取れない、と?」
「……………」
品物や花には罪は無い。それを送り返してしまった末路ではあるのだが、作ってもらって食べないのは満夫にも失礼だ。
「さ、蝶子様」
満夫は椅子を引き、蝶子を座らせようとする。
「美味そうだなぁ、満夫」
「誰がお前にやるか、新之助!」
「俺も食べたい!満夫さん!」
「…………厨房にあるよ、残りは!だが、旦那様や奥様様とメイド達に余分には作ってあるが、残ってるかは分からん」
「……………戴きます…………美味しい……ほんのり薔薇の香りがしますね」
蝶子は、満夫が作った薔薇のフィナンシェを口に頬張ると、顔を綻ばせた。
「そう、その顔を隼人様に見せて下さいよ………まぁ、隼人様は影で見てましたけどね……」
「見てたな」
「うん、見てる………しかも羨ましそうに……物にさえ嫉妬してた……」
「子供の頃から、蝶子様の綻ばせた顔を見る為に、喜ばす事に労力惜しまなかったからな………この温室作る、て言った時も、最新のを作らせて、蝶子の好きな蘭で埋め尽くせ、て命令したぐらいで、しかも珍しい品種を幾つも取り寄せましたから」
「…………わ、私そんなに隼人様の前では仏頂面でした?」
ティーカップをテーブルに戻し、不思議そうな顔を新之助達に向ける。
「仏頂面でしたよ、かなり………隼人様の前では儚げな大人しそうにしているのに、俺から植物の説明を受けている時は、ニコニコしてて笑い声も高らかに……」
「俺も、シロツメクサ集めて花冠を蝶子様に差し上げた時、隼人様に嫌味言われましたもん、『何故お前から貰った花冠を嬉しそうにしてたのに、俺から渡した花束は、如何していいか、分からない様な顔をした』て……」
「あぁ、俺もあったなぁ………焼き菓子の作り方お教えした時、楽しそうにしてた蝶子様を覗いてた……その焼き菓子を隼人様に食べて貰いたくて作ってた、てのに……」
出るは出るはの、隼人の嫉妬心。蝶子の前では決して見せず、蝶子も隼人への気持ちも緊張から上手く出せる事はなく、隼人が蝶子を好きでいてくれていたのも半信半疑のまま、結婚を控えていたのだ。
子供の頃に、許婚として決められた相手同士。鬼龍院家の嫁らしくしなければならない、と育てられていたからこそ、隼人に壁を作っていたのかもしれない。
「でも、まぁ………今回の事で、蝶子様がどれだけ隼人様が好きなのか分かったし、隼人様も本気に蝶子様口説くつもりになった様だから、雨降って地固まる?」
「満夫、上手い事言うなぁ………お、マジ美味ぇ………」
「新之助!!何食ってんだ!あ!光も!」
「1個を半分にしたんだから許せや、蝶子様はそんなんで怒らねぇよ」
「はい、怒りません………クスクス……皆で食べましょうよ」
本当は、雇われている側が同席して茶を飲む事は許されないが、蝶子は気にする令嬢ではなかった。
お茶を済ませ、蝶子は部屋へと戻るが、新之助と満夫は後ろ姿を見送る。
「…………幸せになって欲しいなぁ」
「お、片恋に未練なしか?」
満夫はしみじみに呟くと、新之助は揶揄う。
「うるせぇよ、お前だってだろ」
「何だ、気付いてたか」
「俺達庶民は、高嶺の花さ………蝶子様は」
「…………めちゃくちゃ、我慢したもんなぁ……」
「あれだけ、隼人様の名を連呼したら、諦め付くさ」
大の大人が2人共、妹の様に見えた蝶子に恋心を募っていったのは、隼人への恋心に気付かされてからだったのだが、2人共気持ちはずっと押し殺していたのを蝶子に知らせる事なく、幸せを願っていた。
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