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すれ違った気持ち
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しおりを挟む2日程過ぎ、蝶子も屋敷内を歩き回れる程に視力や体力にも問題なくいられる様になった。3ヶ月振りに鬼龍院家にある、温室に訪れた蝶子。
この2日間、隼人も毎夜訪れるが、話をしようとしなかった蝶子であった為、鬼龍院家の家令やメイド達は不安そうな空気を醸し出してはいるが、鬼龍院家主の隼人の父には会う機会が持てず、蝶子もなかなか高蔵寺家に帰れずにいた。
「蝶子様………」
「新之助さん!…………ご無沙汰してました」
「…………お元気になられて良うございました」
「………新之助さんもご存知だったんですか?」
新之助とは、権藤家別邸では新月と名乗っていた男だ。庭師という仕事柄、足袋を履き、剪定鋏を持って蝶子に声を掛けてきた。
「ご存知も何も…………俺も隼人様のお傍で、権藤の事を調べていたので、蝶子様のご様子は心配しておりましたよ」
「…………そうだったんですね……ありがとうございました」
「……………蝶子様がやっとお姿をお見せになられて、この蘭達は嬉しそうです」
新之助は蘭のひと鉢に触れ、様子を伺う。
「…………新之助さん……」
「はい」
「…………この温室の蘭達………私が高蔵寺家に戴いても良いと思います?」
「それはどういう理由で?………蝶子様はこの蘭達を大事にされておられました。この蘭はここで幸せに育ち、蝶子様のお目を癒やす事でしょう」
百合の様な佇まいで立つ蝶子は、新之助の顔を見ると言葉を発する。
「……………私は鬼龍院家に嫁がないわ……隼人様にはきっと………もっと相応しい方がお見えになるから………その方の為には私の居た痕跡は消さないと……」
「…………蝶子様………本気で仰るのですか?」
「………………だって……私は……」
「………全く…………お互いに思い合ってらっしゃいますのに、蝶子様は諦めるのが早過ぎませんか?」
「………………私は………無理なの………」
「俺は…………あぁ、いや俺達は、蝶子様を隼人様に望んでるんですけどねぇ」
「俺…………達?」
「……………俺、光、二三矢、満夫は特に……ね」
「え?」
「…………では、ごゆっくり……俺は、外の手入れしてきますから」
新之助に礼をされ、温室から出て行かれ、蝶子は温室に残った。
「新之助さん、光君………二三矢さん、満夫さん……………新、光、三、満……?……権藤家に居た………の?」
蝶子は温室で佇んで考え込んでしまい、時間を忘れてしまった。
「あ、居た!!二三矢さん、蝶子様居ました!」
「!!」
「本当か!」
温室の外から声がする。その声は蝶子も聞き覚えがある。そして、それが新之助と同様、最近も権藤家で聞いた声。
「蝶子様、温室にまだいらっしゃいましたか」
「もう夕方ですよ、蝶子様」
ガタイがいい、家令の1人二三矢と小姓の光だ。
「二三矢さん、光君……」
「メイド達も探しております、お部屋へお戻りを」
「…………ありがとうございました、今回の事で、私にずっと付き添ってくれたのですね?」
「そりゃ、隼人様の許婚ですから」
蝶子にお礼を言われて、茶目っ気たっぷりの表情で、光が返す。だが、二三矢には怒られる光。
「光!!調子に乗るな!!……申し訳ありませんでした、蝶子様………潜入とはいえ、蝶子様のお身体に触れまして……」
「…………月夜さんは……何方になるのかしら………」
「「……………」」
二三矢と光は、気が付いていない蝶子に不思議に思いなが、顔を見合うと、二三矢が口を開いた。
「蝶子様をお守りしようと、今回の立役者ですよ………月夜は必ず、蝶子様の元へ戻ってきます…………さ、夕飯の用意も出来てますよ、満夫が腕によりをかけ、作ってますからね」
「…………満月さんが、満夫さんだったんですね………喋り方が全然違うから………合致しなくて………」
「…………あぁ、アイツは趣味ですから、あの喋り方は」
夕飯を食べ終わると、蝶子は食膳に手紙を置いた。記載したのは感謝の言葉だ。蝶子は来客と思って今は鬼龍院家の厨房には足は向かないから会いには行けない領域だった。
『蝶子………俺だけど……隼人』
「……………お顔を合わせる訳にはいきません」
扉を隔て、隼人から声が掛かる。鍵付きだった部屋なのもあり、鍵を締めていた蝶子は扉越し迄歩き、返答をする。
『…………開けてくれないか?……話したい事があるんだ』
「……………ごめんなさい」
『…………これだけは知っておいてくれ、蝶子………俺は破棄するつもりは無い……その事で話をしたいんだ………扉を開けてくれる迄、俺は諦めない…………お休み……』
「………………」
返答等出来なかった蝶子。扉の向こうは歩き去る足音が聞こえ、蝶子は扉に凭れながら床に泣き崩れた。
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