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すれ違った気持ち
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しおりを挟む隼人の母から、隼人自身の話を聞いた蝶子。
蝶子の叔父は権藤に借金をしており、借金の帳消しする代わりに、蝶子を欲しがっていた権藤が、警察との癒着で財閥の権利を叔父に実権を持たせ、高蔵寺財閥を乗っ取ろうとしていたという事を、隼人は百貨店の仕事の傍ら調べていたという。
そして、奔走して証拠を警察署署長の上司である警察庁長官に掛け合った隼人からの情報で、父を釈放した後、権藤家の別邸に居るという、警察署署長と権藤を逮捕するという計画を立てていたという事だった。
「だからといって、婚約をそのままという訳には…………私は………汚れた身になりました……」
蝶子は権藤に純血を奪われた事を正直に言う。この時代、未通の身体である女かどうかが婚姻の重要視されていた。
「その事なら、理由は隼人に聞いて頂戴……私や夫は隼人の話で納得したから、蝶子さんとの婚姻を破断する事は考えてないわ………騙されて奪われた純血でしょう?妊娠の有無は調べないと分からないけど、妊娠していなかったら、直ぐに結婚式を予定しますからね」
「…………そ、そんな……」
「隼人ったら、蝶子さんに言われた事が余程堪えたんだと思うのよ………話合う前に、高蔵寺家の事情が事情だから、と蝶子さんの中で、隼人から身を引くと言われたのがねぇ………相談して欲しかった、とずっと言っていたわ」
それが、寂しいものだと隼人の母から続く。それを蝶子は心に刻む。確かに相談をせずに決めて一方的に伝えて隼人から離れたのだ。
「…………私、隼人様のお気持ちを考えて無かったんですね……」
「まぁ、それは後から話あって頂戴………鬼龍院の者は、蝶子さんを家族と見ているし、夫も高蔵寺財閥との絆を終わらせたくなくて、隼人も頑張ったと思うのよ………ずっと、仕事終わってから駆けずり回り、帰宅はいつも日を跨いでからだったし」
医者が来る迄の間、隼人の母と話、医者の診察をしてもらった蝶子。部屋のカーテンを締め、暗がりにした状態で目の包帯を取り、視力の確認をしてもらった。
「ゆっくり、目を開けて下さい」
「……………」
「何が見えますかな?」
「…………先生のお顔と手が見えますわ」
「これは何本?」
「………3本」
「では、少し離れた場所にいる看護師の指は?」
蝶子は、医者の後ろに居る看護師に指を翳してもらった指を見る。
「………2本です」
「うむ、見えてますな……カーテンを開けてもらえますかな」
メイドも控えていて、カーテンを開けてもらうと夕方に差し掛かり夕日が差し込むと、少し部屋は明るくなった。
「この文字は読めますか?」
「………本日は晴天なり」
「大丈夫そうですな………お顔に触れますぞ」
「はい」
「………顔を真っ直ぐ見て、目だけうごかして下さい………上……下……右……左………動きも良いですな……」
視力だけではなく、妊娠の可能性等も診察され、数日あれば今迄の生活は出来るだろう、との事だった。
医者が帰り、またベッドで横になっていた蝶子。すると、メイドから隼人が帰宅した、と、知らせが入る。
「…………会えません……休んでいる、と伝えて下さい」
「宜しいのですか?」
「はい…………私は体力回復したら、高蔵寺家に帰らせて頂きます………おじ様には……いえ、鬼龍院のご主人様には何れお話しますから」
「……………その様にお伝え致します」
メイドは何か言いたげではあったが、その旨を伝えに部屋を出て行った。暫くするとドカドカと慌てる様に、廊下を歩く音。それが隼人だと直感で思った蝶子。
「蝶子!!」
「!!」
蝶子は部屋の扉に背を向け、布団を被っている。ノックも無しに、無謀な扉の開け方は、怒りが入っているのだろう。
「…………今、メイドから聞いた……母上から話はされなかったのか?蝶子…………婚約破棄はしない、と………」
「……………?」
隼人の声が月夜と被る。だが、蝶子は隼人の顔を見るのが怖かった。見たら縋り付き泣きそうで、慰めて欲しくて流れてしまうだろう、と布団を頭迄すっぽり被る。
「蝶子!顔を見せてくれ!包帯は取れたんだろう?」
「……………っ!………捲らないで………下さいっ…………今……お化粧も……してなくて……」
「普段から、化粧っけが無かったじゃないか!俺は………蝶子の顔を見て話が………」
「私は!」
「!!」
「……………私は……私は、隼人様に相応しくありません………隼人様は、破棄を認めていらっしゃいませんが、私は…………権藤様以外にも…………………」
「……………」
隼人は、蝶子が横たわるベッド脇に座ると、頭の部分であろう場所を撫でる。
「……………月夜?」
「!!」
蝶子の身体が跳ねる。
「蝶………」
「調べたんですか?」
「……………え?」
「私が…………月夜さんに慰めてもらってた、て…………調教と称し………私は………男性を喜ばせる淫らな身体にされました…………私は………隼人様に…………教えて頂きたかった…………」
「蝶子……………それは………」
「隼人様………お願いです………私を……高蔵寺家に帰らせて下さい………ご挨拶もしないまま帰るのは忍びなく、体力が回復する頃には………………お暇致します………勿論、婚約は………………は、破棄に……」
「蝶子!!いい加減に…………」
「……………くっ!!」
隼人は布団を引っペ替えし、蝶子を見ようとした。布団は捲られたが、蝶子は隼人に背を向け、怯える様に身体を震わせていた。
「……………蝶子………落ち着いたら、話そう…………な?」
「…………」
「………………ゆっくりお休み………また明日訪れるから……」
だが、蝶子は隼人と顔を合わす事は無かった。
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