【完結】竿師、娼婦に堕ちる月の夜

Lynx🐈‍⬛

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お披露目会

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「……………うぅ……」
「話したいか?」

 鉄の籠の中の蝶子、外の月夜達。権藤の部下達も居るので、何も動きはなく待っている状態だ。
 室内にある時計は午後6時を刺そうとしている。

「…………」

 蝶子は、この1秒1秒が長く感じ、月夜の居る方を見て頷く。

「……………待ってろ……俺から言う言葉はそれだけだ」
「……………」

 鉄籠のある部屋の隣がざわざわとしている。権藤が招待した者達が着々と到着した様だ。その声が、蝶子に震えを齎す。ずっとずっと震えが止まらず、緊張のピークに達した状態で30分程経過した頃だった。

 カチャ。

 家令が、部屋に戻って来て蝶子を見ると、ほくそ笑む。

「…………ふっ……待たせたな…………運べ……今からここを開ける。」
「!!」

 家令の表情は分からないが、明らかに楽しむ様な声だ。

 ガコン、ガコン、と籠が動くのが分かる。すると、目の前から歓声が上がった。

「おぉ!美しい!」
「権藤さん、本当に戴けるのですかな?」
「ふふふ………皆さんで本日は共有致しましょうぞ、待ちくたびれかもしれませんから、よりすぐりの美女達も用意しておりますからな、お好きな様に召し上がり下さい………その代わり、便宜を図ってくれなければ困りますぞ?」
「はははっ!これは手厳しい」

 大勢の男の声がする。暫く籠を取り囲む様に周囲か目部味する声。

「目隠しが残念だ……」
「はははっ……お披露目会初ですからな、しかも高蔵寺財閥の元令嬢、その辺の手に入りやすい町娘ではありませんからな、顔は楽しみに取っておりますよ…………のお披露目会用に……」

 権藤も目隠しを取りたくて仕方ないが、月夜が一向に外そうとせず、その月夜からの言葉に納得してしまっていたのだ。

「では、今回の立役者、高蔵寺を逮捕した、
中邑署長からどうぞ」
「…………ふふふ……早速光栄な名誉を戴くとするか………」
「!!」

 ドカドカドカドカドカドカ!!!

「「「「「!!!」」」」」
「な、何事だ!!」

 部屋の外から更に騒がしく、静止を求める者や、強行的に押し入る者がひしめき合い、蝶子達が居る部屋に大人数が入ってきた。娼婦達の悲鳴、男達が逃げ惑う声。蝶子には何が何だか分からない。

「わ、儂を何故逮捕する!!」
「ち、長官!!何故此処に!!」

 権藤や、警察署長の中邑が、逮捕されている様だった。
 
「な……………何が………?」
「長官!!………高蔵寺 蝶子嬢はあちらに!!」
「早く保護を!!…………あれは……」

 籠の傍には月夜が立っている。警察庁長官は月夜の元へ行くと、月夜は声を発せず礼をする。

「ここで会うとはな」
「…………まぁ、だからこそ、と言う冪ではないでしょうか………鎖と首輪の鍵です………これで……」
「あの目隠しは………」
「………それは後程………視力低下もあり得ますし、医者に診せてから外します」
「長官!!令嬢が!!」

 蝶子はと直感した。そう思った瞬間、意識が遠退いてしまう。

「!!………蝶子!!………蝶子!!」
「蝶子様!!」

 月夜達が駆け寄っていく。緊張の糸が切れ、疲れ切ってしまった様だった。

「鬼龍院家に連れ帰ります!!事情聴取には応じますから…………良いですか?長官」
「…………仕方ない……警察の汚点を握り潰してくれると言うなら、な」
「…………そこ迄鬼龍院家に力はありませんけどね…………でも、感謝します」

 後処理は警察に任せ、蝶子を連れ、鬼龍院家に戻った月夜達。
 鬼龍院家には、蝶子の部屋もあり、そこに寝かされた蝶子。

「……………やっとだよ、蝶子……長かったな……」

 月夜ではなく、隼人は部屋の机の引出しから鍵を出すと、目隠しの鍵を外した。蝶子の目の周りは涙で荒れてしまい、約3ヶ月洗われていない場所を、綺麗に拭いた隼人。

「包帯を」
「…………はい」

 目隠しをする時、医者から視力低下の心配がある、と予め聞いていた隼人。医者の診察が済む迄は、目を覆っておく必要があり、屋敷のメイドに頼んでおいたのだ。目を再び隠し、それでも起きない程疲れ切った蝶子の手を握り、隼人は安堵する。

「もう…………離さない……何処にも行くなよ、蝶子」

         ❈❈❈❈❈❈❈❈❈

 蝶子が起きたのは、翌日の昼頃だった。

「……………んっ………ん……」
「蝶子様、起きられました?」
「……………何方?」
「助かったのですよ、蝶子様………ここは鬼龍院のお屋敷でございます」
「!!…………き、鬼龍院……な、何故私が……」
「旦那様や隼人様はお仕事に行かれておりますので、奥様とお医者様呼んでまいりますね!………お疲れでしょうから、ベッドから下りないで下さいね、目に包帯もして危ないですから」

 メイドであろう女性の声は、部屋を出て行くが、まだ何人か居るようで、部屋の中には温かいお茶の香りが立ち込めた。目隠しを3ヶ月もしていたら、気配で分かる様になってしまった世界。目隠しが違うのは気が付いたが、気にもしなかった。

「新之助さんが、蝶子様が起きられましたら、飲んでもらってくれ、と………疲労回復の薬茶だそうですよ」
「…………新之助さんから?」
「お手伝い致します、蝶子様」
「ありがとう……………ほぅ………新之助さんのお茶は落ち着きます……」
「本当ですか?………私なんて苦くて飲みたくないですよ、新之助さんの薬草茶」
「………ふふふ…………でも、何故私が鬼龍院のお屋敷に………」
「それは、蝶子様が隼人様の許婚だからではないでしょうか」

 湯呑みをメイドに返し、再びベッドに横たわる蝶子。体力も戻っていないのもあるが、メイドに横になれ、と言われてしまい、事情を先ず聞いてから、と大人しく従った。

 コンコン。

「蝶子さん」
「おばさま………?」
「いいのよ、寝てらっしゃい………大変だったわね………貴女のお父様やお家の事は心配は無いわ……昨日釈放されて今はご自宅で療養されていらっしゃるわ」
「…………父は、無事だったのですね?」
「えぇ、疲労困憊していらっしゃるようですけどね、ずっとを訴えてらっしゃったそうで」
「私は、帰れますか?」
「えぇ、貴女のご実家ですもの………隼人もお見舞いに行きたいと言っていたから、一緒にお見舞いしてらっしゃい。でも先ずは貴女の回復ね」

 隼人の母は知らない筈はない。蝶子は隼人と婚約破棄にした事を。

「わ、私……隼人様とは、破断になって……」
「…………あぁ、あれ?隼人は本気に受け取ってないのよ?勿論、夫も私も………貴女は、隼人の嫁のつもりで、鬼龍院の者は見てるわ」

 隼人の母は、あっけらかんと蝶子に言って退けた。
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