【完結】竿師、娼婦に堕ちる月の夜

Lynx🐈‍⬛

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蝶、散る

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「まだ分からないのか!」
「本邸に潜り込んでるんだけど………金庫には無くて……」

 月夜こと、隼人が鬼龍院の屋敷で、怒鳴っていた。蝶子の叔父吉鷹と権藤の繋がる証拠を探らせていたのだ。光月は、権藤本邸へお小姓として、昼間は通わせていた。

「………早くしないと、蝶子が……」
「隼人様、焦っては駄目です」
「………時雨…」

 隼人の護衛でもある時雨。月夜として権藤の別邸に居る間は、時雨は吉鷹側から探っている。

「頼む…………証拠を……」
「「…………」」

 書斎の机に手を付き、頭を下げた隼人。痛い程分かる隼人の気持ちに、光月も時雨も何も言えなくなった。

         ❈❈❈❈❈❈❈❈❈

 権藤別邸。月夜はまだ戻っていなかった。

「まだか?蝶子の仕上げは」
「………まだだ、と伺っておりますが」
「……………本当に、調教しとるのか?」
「分かりません……1人ガタイのいい竿師が居りまして、蝶子様の部屋には入れず……」

 ガタイのいい竿師と言うのは、三日月の事だ。

「あの月夜、という男、他の男達をまとめるのを長けておる……部下にしたい男よ……そうしたら、あとの4人が手に入りそうだな」
「竿師を辞めさせますか?」
「………蝶子が手に入ってから考える……蝶子の仕上げ具合で、報酬として儂の部下にしてやろう………竿師の収入以上を突き付けてな」
「その様に……」

 ソファにふんぞり返り、酒を飲む権藤。

「所で…………高蔵寺の奴は、吐いたか?」
「………いえ、未だに否認している様で、最近は黙秘だと」
「………吉鷹に握らせていた偽造書類は警察に渡しているのだろう?」
「はい………なら、もう高蔵寺は自白目前ではないか…………これで、蝶子は儂の愛人だ……あの美しさは、他の高官達には喜ばれよう……ぶわっははははっ!!あの娘を手に入れる為に、この別邸を建て高蔵寺財閥を奈落に落とし、やっと手に入れたのだ!!金を湯水の様に使ってしまったが、それを蝶子本人で稼いで貰わねばな!!」
「…………では、如何されますか?期限はそろそろ切れますが……」
「…………そうだったな………期限は3ヶ月……そろそろお披露目会といこうか………だが、先ずは儂が味見せんとなぁ!!用意させろ!!」
「…………御意」

 そして、月夜が別邸に来ると、権藤の部下に言われた。

『明日、蝶子をご主人様がご所望される。これは拒否権は無い………明日、夜……全裸でご主人様の部屋に連れて来い』
『…………っ!』
『何だ?まさかとも言うか?………それもいいが、もしそうであっても連れて行くぞ』

 カッカッカッ…………。

 急ぎ、月夜は蝶子の部屋に入る。

「蝶子!!」
「………月夜さん、如何したんですか?慌てて」
「…………逃げよう、蝶子」
「如何した、月夜」

 蝶子と一緒に居た新月が、慌て蓋めく月夜を見てただ事ではないと勘繰る。

「……………明日……権藤との夜伽が……決まった」
「!!」
「何だって!!…………月夜!!本当か!!」
「………あぁ………」
「ちょっと!…………」

 新月は月夜を部屋隅に付き合わせると、小声で確認する。

(逃げよう、と仰るが蝶子様のお父上は釈放されてませんよね?)
(そうだ)
(駄目ですよ!……蝶子様を逃したらお父上の身柄が如何なるか!)
(…………だが、蝶子の身を守る為には……)
(そんな事をしたら、隼人様は如何なるか!鬼龍院家の跡取りで、月夜として蝶子様と添い遂げるつもりですか!目隠しを、正体を明かさないつもりで?)
(……………はぁ…)

 蝶子の父の無実を晴らし、蝶子を助け出すつもりだった月夜の苦労が水の泡になりそうで、警察と癒着している権藤の悪事を全て公にしたいのに、なかなか証拠を見つけられず、月夜は頭を抱えた。そんな中、蝶子は顔を青褪めて行く。血の気が引くとはこの事だ。

「嫌っ!絶対に嫌ぁぁぁぁ!!」
「!!…………蝶子っ!!」

 月夜は蝶子に駆け寄り、抱き締める。蝶子も縋りたかったのか、月夜の胸の中で泣きじゃくり、泣き疲れて眠ってしまい、逃げる事もその相談も出来ないまま、翌日になってしまった。
 翌朝、権藤の部下から伝言が入る。

『湯浴みして、身を清めてから

 と。
 
「ひぃぃぃぃっ!」
「蝶子………」

 満月が蝶子の手と背中を擦り、落ち着かせる事に勢力を注ぐ。月夜もこの日はいつもより早く姿を現した。

「…………」

 月夜は、蝶子を心配をしている。

「月夜………」
「……………え!?裸で来いって?ふざけてんのか!!………この屋敷には働いてる者達も居るんだぞ!!」

 新月が、権藤の家令に言われた事を月夜に伝える。連れて来なければ、無理矢理でも連れて行く、と言う。抵抗する事は可能だが、そうなれば鬼龍院の動きを知られてしまうだろう。月夜は選択を間違える訳には行かなかった。鬼龍院の父からは、まだ反抗するな、と言われている月夜は答えを出さねばならなかった。
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