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おまけ
おまけ④離散後の家族
しおりを挟む「兄さん!こっち」
「…………優馬、待たせたか?」
ある日の裕司の休日前夜。弟、優馬に呼び出されたのもあり、航の店、割烹料亭おさない、に来ていた。
「義姉さんは?今日は居ない訳?」
「何だよ、紗耶香とも会いたかったら言えば連れて来たのに」
「いつも一緒だから、連れて来るとばかり……」
「仕事中でもいつも一緒じゃねぇぞ」
「ほらよ」
「!………航、まだ俺頼んでねぇぞ?」
裕司が優馬と話ている間にビールジョッキがドン、と置かれる。
「飲むんだろ?」
「飲むけど」
「ならいいじゃねぇか……だし巻き卵と煮付けだろ?」
「…………分かりやすくて助かるわ」
「兄さん、変わらずだし巻き卵好きなんだ」
「煩ぇな……」
「でも煮付け、て兄さん食べてたイメージ無いや」
「親父が好きなんだよ………以前出されて食べたら旨くてよ……ここに来たら食う様になった」
「へ~………航さ~ん!俺にも煮付け下さい!」
「おぅ!」
定期的ではないにしろ、時折裕司は優馬と会っている。仕事で会う時もあるが、それとは別だった。
「これ……義姉さんに渡しといてよ」
「何だ?これ」
「妊娠中に飲んでも大丈夫なハーブティー」
「…………あれ?俺お前に紗耶香が妊娠中なの言ってたっけ?」
「航さん経由」
「またアイツ………バラしたな……」
「何で?めでたい事じゃないか」
「妊娠初期だからな………まだ母子手帳も受け取る時期じゃねぇんだよ」
「親友には話して弟には話さない、て酷くない?」
「…………航は羽美経由で知ったんだよ!紗耶香は羽美と仲がいいから」
「なるほど………あの兄妹仲いいから……」
「裕司君、はいだし巻き卵」
「お!来た来た」
ビールで喉を潤した裕司は、早速だし巻き卵を口に入れる。
「うめぇ……」
「………こう見ると兄さんは変わらないね」
「そうか?」
テーブルを挟み、兄弟として会わなかった10年を埋めたかった裕司。優馬もそう思っているから裕司を誘って来る。
「そうだ、母さんの破産宣告の処理、完了したから」
「…………結局、お前お袋と分かれて住まなかったんだ……何でだ?」
「母さんには俺しか居ないだろうな、て………父さんと別れたし、母さんは兄さんには………」
「俺はあのお袋にはもう二度と会わねぇぞ」
「分かってるよ………俺が面倒見て行くから」
「…………如何しても無理ならまた言えよ……資金面からで良ければお前の為に使ってやる」
「……………それは最終段階に取っておく………兄さんは俺にずっと贖罪の念を向ける気?」
「そういう訳じゃないが、兄貴らしい事してやれなかったからな……」
「いらっしゃいませ………あら、小松さん」
「親父?」
「父さん!」
示し合わせてはいないのに、示し合わせた裕司と優馬の父が、月1の訪問に食べに来た様だ。
「!………裕司……優馬も……」
「久しぶり、父さん」
「…………元気だったか?優馬」
「元気と言えば元気かな」
「裕司、優馬に連絡取れたのか?」
「俺の会社の系列店で働いてたんだよ、優馬が」
「そう、本当に偶然」
「親父、一緒に食わないか?伝えたい事あるからさ」
「伝えたい事?」
裕司の父はカウンターではなく、裕司と優馬と同席する。
「親父に孫出来るから」
「…………結婚したのは聞いたが……そうか………孫が………」
「産まれたら会ってやってくれるか?」
「勿論だ…………あと母さんにも会わせてやってくれ」
「…………お袋には……」
「いいじゃん、母さんに会わせる時は俺も居る様にするし………俺も子供の時の様に弱くないよ」
「…………俺だって弱くねぇぞ、優馬」
「母さんが兄さんに対する態度が変わってないなら、俺も考えるから」
「…………産まれる迄考えとく」
そして、約10ヶ月後。
紗耶香が抱く、裕司との子を裕司の両親に会わせた裕司。
親になり考えが変わったのだろう。
「……………孫……裕司が……」
「抱きますか?お義母様」
「…………い、いいのかしら……」
「抱きたきゃどうぞ」
「…………可愛い……裕司の産まれた時にそっくり……」
理佳が破産宣告手続き後、優馬に諭され裕司の事を話したという。裕司には高校卒業後のアレが正しいと思っていた事。その後の家族に起きた事の贖罪の念が深かった事。優馬も改めるから理佳も破産宣告して、裕司の行いを許してやって欲しいと、逮捕された経緯を伝えられたのだ。
だから、理佳も裕司と裕司の子に会う決心をして、実現した再会となった。
「…………悪かったな……出来悪かった息子でよ……アンタには可愛くなかったよな」
「…………裕司……アンタはお父さんにもお母さんにも、心を開かなかったからよ……どう接していいかなんて分からなかったわ……」
「…………そうか……」
裕司が母、理佳に心を開く事は出来ないかもしれない。それだけ長い時、お互い歩み寄る事はしなかったからだ。
いつか、蟠りがなくなれば許し許される時が来るかもしれない…………。
※航編あります
【お見合い、そちらから断って下さい!】です
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