【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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エピローグ

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 後日、紗耶香の両親を連れ、紗耶香と裕司は白河家の別荘に来ていた。

「俺、初めてこの別荘に来たな」
「私がこの別荘が嫌いだから………お祖父様は気に入っていたけど………」

 紗耶香の身体が震えている。

「紗耶香?」
「…………背中が痛むだけ……」
「紗耶香…………庭に連れ出そうか?」
「庭も一緒よ……」

 紗耶香の両親が心配そうに見つめているのを見て、裕司も勘付く。

「…………ここの別荘でもヤられたのか?」
「……………えぇ……1番嫌な場所よ」
「俺が居る」
「うん」

 裕司が紗耶香の手を掴み指を絡めると、紗耶香は自信が付いた気がして勇気が湧き出てくる。
 別荘の中に入れば、家政婦や介護ヘルパーも別荘に常勤していて、数人が出迎える。

「旦那様、奥様……大旦那様がお待ちしております」
「何方に居られる?」
「リビングで寛いでいらっしゃいます」
「分かった………紗耶香と裕司、医師と看護師、ヘルパーだけ、近くに控えておいてくれるかい?」
「畏まりました」
「待ってます、お父様」

 リビングに入ると車椅子に座る紗耶香の祖父が新聞を開いていた。

「元気でしたか?お父さん」
「…………何しに来た……嘲笑いに来たか!」
「嘲笑うなんて、そんなつもりはないですよ………今日は紗耶香も一緒なんですよ……婿が決まりましてね」
「婿だと?」
「紗耶香、 入っておいで」
「はい」

 紗耶香と裕司は、リビングの外で待機していたのだ。

「お久しぶりです、お祖父様」
「紗耶香………裕司?裕司ではないか!何故手等繋いでおる!」
「紹介します、お祖父様………私、裕司と結婚するんです」
「な!何だと!許さんぞ!紗耶香!前科持ち等!」
「お父さん………貴方には白河酒造の事に意見を出す権限はもう無いのです………まだお父さんは白河家の当主ではありますが、会社の事を思えば、紗耶香の婿は裕司が良い、と白河酒造トップの私が判断しました」
「何だと…………孝之!お前は儂のであろう!何故反対しなかった!」

 車椅子から、降りようとしている紗耶香の祖父だが、手足に力が入らない様だ。医師やヘルパーが、祖父に傍に控える為に近寄って行く。

「反対する意味が分かりませんね………裕司の人望で業績も上がった経緯もあります………速水物産との事で、会社を立て直したのは紗耶香と裕司の功績でもあるんです………そうでなければ、貴方の介護ヘルパーや医師を雇う金等出せなかったでしょう………別荘に隠居されたのはお父さん貴方です……本邸では貴方の相手を誰もしてくれず、寂しくなって、別荘に居を移したのを私が分からなかったと?」
「許さんぞ!裕司!直ぐに紗耶香から離れろ!」
「冗談でしょう?……大旦那様………それなら俺を拾っても、紗耶香様の傍に付けなければ良かったと思いませんか?………男に免疫無い紗耶香様が俺に惚れたって、文句を言えるお立場では無いんです…………それに、俺は貴方が紗耶香様にした事を許せない………コイツの背中!見てないとは言わせねぇ!血だらけで泣きたいのに泣けない紗耶香が、どれだけ苦しかったか、アンタに分かるか!………俺は警察に捕まったぜ?………アンタは捕まってねぇよな?今虐待は犯罪なんだよ…………警察に突き出さないだけ、俺や紗耶香の温情だと思え!旦那様の温情だと思え!………反論するなら受け付けるぜ?ジジィ………あと、俺達の結婚も承諾するなら、警察にチクるのも諦めてやるよ」
「裕司…………言い過ぎだ」
「………すいません……怒りが止めれず……」
「お父さん、そういう事です………紗耶香と裕司の結婚式ですが、紗耶香には紗耶香の理想する結婚式がある様で、白河家の仕来りの神前式で挙げたくない様ですし、お父さんも今車椅子なので、それを踏まえて結婚式は考えさせてもらいます………後は宜しく頼むよ」

 息子と孫、そして孫の恋人に言われた祖父は固まった。後悔等しなかった男が、余程堪えたのだろうか、権限も無くなった男に今更、言い返す力等無く、暫く放心状態だったと後から紗耶香の耳に入った。

「裕司、かっこ良かったよ」

 裕司との手を解き、紗耶香は腕を絡める。

「おまっ………胸当たるって!」
「いいじゃない」
「馬鹿!シたくなるだろうが!禁欲生活長ぇんだぞ!」
「………裕司………」
「っ!………すいません……」

 一応、紗耶香の親の前。別荘で寛ぎもせずに帰るのだ。裕司の運転で一緒の車に乗り、助手席に紗耶香、紗耶香の両親は後部座席だ。イチャイチャも出来ない。
 彬良が支配人のホテルでの一夜から、紗耶香とシていないのだ。

「………敷地内に家を建ててやる……それ迄はお互いの部屋で我慢しなさい」
「「…………え?」」
「但し、結婚式迄は子供作るなよ」
「裕司~~!」
「うわっ!危ね!」

 紗耶香の父の了承を得たのだ。紗耶香は嬉しくない訳は無く、裕司に抱き着いた。急に抱き着かれバランス崩す裕司は足を踏み外す。

「痛っ!」
「あ………ごめん……」
「…………これから車運転するんだぞ!アクセルとブレーキ踏めなくなったら困るだろうが!」
「ごめんなさい………」
「裕司、しっかり紗耶香をしつけして頂戴ね、我儘な子だから」
「知ってますよ、紗耶香が我儘で意地っ張りの女だって事は」
「もぅ!謝らないからね!」
「あと、素直じゃねぇな」
「裕司!」

 別荘の窓からは、紗耶香の祖父が紗耶香達を見ていた姿は寂しそうで、今頃自分がしてきた事に後悔の念を抱いたまま、別荘でひっそりと過ごしたのだった。





         𝐸𝑁𝐷‪𓂃𓈒𓏸◌‬


※おまけ話が4話あります。
中学編、高校編、旅行編、その後
です。

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